第101話:行く末は、夕暮れに溶けて
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出会いから、5年。
三人はもうすぐ養成所を卒業し、ギルドに属する正式な共同体となるべく、順に『共鳴率』の適性検査を受けていた。共鳴率の高さによって、執行者が引き出せる魔力や行使できる力が大きく変わるため、最終的なペアは成績や希望だけでなく、この測定結果を最も重視して決定されるのだ。
「私、監視者だし、ナギと一緒がいいなぁ」
出番を待つ列の中で、サクラが上目遣いで言う。
その言葉の端には、5年間ずっと変わらない彼女の小さな恋心が見え隠れしていた。
ゴロン、と。前方の長机には計器と大きな水晶玉が等間隔に並べられ、着々と検査の準備が進んでいる。
「まあ、共鳴率次第やろ」
「またぁ…そういう時は嘘でも『そうやな』って合わせてくれてもいいでしょ?」
「僕ぐらい完璧な人間になれば、誰とでも相性抜群なんだけどね」
ツンツンとナギの腕を突くサクラの横から、ヴィクトールが優雅に髪をかき上げて割り込んでくる。
「せやな。やから、是非俺以外のやつと共同体になってくれ」
「ナギ、口が悪いよ。酷いなぁ」
「――監視者の生徒は、こちらの席についてくださーい」
ギルド職員の女性が開始の声を掛ける。
「ほら、呼ばれとるで。サクラ、ヴィクトール、行ってき」
「うん。じゃあ、あとでね」
ナギはひらひらと手を振って、席に向かう二人を見送った。
部屋には、今年卒業する20名ほどの生徒が集まっていた。装置を間に、着席した監視者と水晶玉がセットで置かれ、執行者の生徒たちが順にその水晶に触れて数値を計測していくのだ。『魂の共鳴率』であるため、普段から仲が良い友人であったり、恋人同士であったりすると、共鳴率は自然と高くなる傾向にある。
ナギの前に並んでいた数人の執行者が進んでいく。すると、ヴィクトールの前の水晶玉は誰が触れても必ず強く光を放ち、高い共鳴率を叩き出していた。
(『誰とでも相性抜群』……偽りやなかったな。流石やでヴィク)
普段は悪態をつきつつも、ヴィクトールの実力やカリスマ性自体は誰よりも認めているナギは、親友として少しだけ誇らしい気分になった。
そうしているうちに、ナギの番となった。一つ、また一つとクラスメートの水晶に触れていくが、光は並だ。共鳴率は5%がよいところだろう。
コータとアルテアは例外的に『100%』を振り切るという異常値だが、通常の新人は15%あれば御の字、良くて30%だ。元々共鳴率が高く、かつ長い年月をかけて鍛錬を積んだAランクのジェシカとゼンのペアで、ようやく70%といった所である。
そして次は、サクラの番だ。
「ナギ、いい数字出してよ?」
「運否天賦や。俺にはどうにもできんて」
ナギがサクラと見つめ合い、共に水晶に手を触れると――水晶はまばゆく温かい光を放った。
「20%…新人でこれは、すばらしいですね」
「やった!やったねナギ!」
「せやな。でもまだヴィクがおるから、わからんで」
サクラが嬉しそうに飛び跳ねる横で、ナギは最後に控えていたヴィクトールの前へと進んだ。
「さぁ、手を乗せるんだ、ナギ」
「はいはい」
ナギが気怠げに水晶に触れた、その瞬間――。
バァンッ!と、目を開けていられないほどの強烈な光が水晶から溢れ出した。
「なっ…40%!?新人でこれほどの数値を…!これならBランク、いや、鍛錬次第でAランクも見えてくる…!」
驚愕の声を上げるギルド職員。
「決まりだね。よろしく、ナギ」
「…腐れ縁かぁ」
勝ち誇ったように笑うヴィクトールに対し、ナギはやれやれと深くため息をついたのだった。
◇
検査が終わり、赤く染まる中庭。
「結局、私…相性がよかったの、ナギだけだったな…」
監視者と執行者が毎年同数いるわけではないため、こうして適当なペアが見つからずあぶれてしまった者は、共同体になることを諦めるか、ギルドの裏方として一旦就職し、次のチャンスを待つことになる。
「僕とナギの相性が良すぎたんだよ」
「取り合えず、ギルド職員になるんやろ?今生の別れって訳でもないやろ」
「うん…。でも、あのね、ナギ」
サクラがもじもじと俯きながら、ナギの服の裾をキュッと掴んだ。
「なんや」
「…おぉっと。僕は、少し急な用事を思い出した。…先にお暇するよ」
「ちょっと、おい!ヴィク!…はぁ。で、サクラ、どしたん。改まって」
気を利かせて早足に去っていったヴィクトールの背中を見送り、ナギはサクラに向き直った。
「私、ね。その…」
「なんやねんな。らしないで」
「その…ずっと、あの……」
顔を真っ赤にして、消え入りそうな声で告げられた言葉。もじもじとして要領を得ないサクラのその様子に、ナギもようやく彼女の恋心に気が付いた。
「ああ…すまん。俺はサクラのこと、そういう風には見れん。…友達としては、大好きや」
「……っ」
「中途半端に、したないんや。…ほんま、ごめんな」
決して茶化さず、真っ直ぐに目を見て告げられた、回答。
「…ううん、大丈夫!変なこと言ってごめんね!もし今後、王都で依頼とかあったら、またギルドに来てよ!私が受付するからさ!」
サクラは滲む涙を必死に堪え、真っ赤な顔でとびきり明るい笑顔を作ってみせた。
「受付嬢に決まった訳ちゃうやろ。…まあ、でも、また飯でもいこや」
「うん…」
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