第100話:自分の事が知りたくて
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「――かくして、皆の生きるこのエテリスは、我らが王族であるアルトリウス家により復興を遂げ、現在の繁栄に至る…」
ギルド養成所での歴史の授業。白髭を生やした老齢の歴史教員が、エテリスの誇り高き変遷を恭しく語る。
(…なんか、ヤシマのばあさんらが言うてた昔話とちゃうな…)
窓際の席で頬杖をつきながら、ナギは教員が語る『正史』に強い違和感を覚えていた。
(ばあさんの話に出てきた『タエ』は、何処に行ったんや…?)
ナギの脳裏に、故郷ヤシマの子供たちが歌っていた、古い伝承のわらべ歌が蘇る。
もえゆくそらを しずめんと
ぎんのはねと たえのこえ
あかいあらしを おさめては
はるかなゆめに かくれゆく
たえはわれらの はじまりの
とおいとおい みおやさま
この歌が、隠された真実を表しているのか。それとも、唯の子供のわらべ歌に過ぎないのか。今のナギにそれを知る術はない。
(まあ、ここを卒業して一人前になったら、探ってみるのもおもろいかもな)
そんなことをのんきに思いながら窓の外を眺めていると、ぽふっ、と不意に丸めた小さな紙くずがナギの頭に当たった。不思議に思って斜め後ろを振り向くと、サクラがジト目でこちらを睨み、口をパクパクさせている。
(じゅ・ぎょう・き・け!)
声には出さないその抗議に、ナギは肩をすくめて前を向いた。
◇
出会いから、二年。 ナギとサクラは13歳、ヴィクトールは10歳へと成長していた。
全てにおいてフラットな物の見方をする、飄々とした少年、ナギ。
正義感が先に出がちな活発な少女、サクラ。
そして、誰もが認めるオーティスの麗人であり、変わり者の王子、ヴィクトール。
身分も性格も、一見すれば全く噛み合いそうにない三人だったが、あの日以来、不思議と意気投合し、よく行動を共にするようになっていた。
ある日の、放課後の中庭。 木陰のベンチでの、たわいない雑談。
「せやねん。この前、帰省で実家帰ったら、おかんが相変わらず煩うてなぁ…」
「ははは!それは一度、お会いしてご挨拶してみたいな!そういえば、サクラは…いや、ごめん」
ヴィクトールが言葉を切り、少しだけ申し訳なさそうに眉を下げる。
「気を遣わせちゃったね、ごめんね」
「孤児院出身、やったっけ」
「うん。私が親からもらったのは、この黒い髪と瞳、それから『サクラ』って名前だけ」
サクラは自分の黒髪を指先で弄りながら、少しだけ寂しそうに笑った。
「私のルーツは多分、ナギと同じヤシマなんだろうね」
「せやろなぁ」
「うん。両親は顔も知らないし、今更別にどうでもいいんだけど…でも、そこだけはどうしても気になるんだ。自分の主体性っていうか…私が何処から来た、何者なのかって」
サクラは空を見上げ、ちょっとした決意を口にした。
「だから私、一人前の共同体になって、依頼をこなしながら世界中を旅してまわりたいんだ。自分のルーツを探すために」
「…かっこええやん」
ナギが何気なく、感心したようにぽつりと呟く。
「…っ」
思春期ど真ん中の彼女にとって、ナギは今一番気になる、特別な男の子だった。そんなナギからの直球な賛辞は、彼女の心拍数を一段階、跳ね上げた。
「…あ、ありがと…」
真っ赤になった顔を隠すように、サクラは慌ててそっぽを向く。そして照れ隠しのように、わざと明るい声で話題を変えた。
「ヴィクトールの目標は…まぁ、聞かなくてもいっか!」
「ひどいな…。まあ、その通りなのだけど。王たる者、このレガリスの民を等しく導くという崇高な義務が――」
「で、ナギは?」
ヴィクトールの芝居がかった言葉を華麗に遮り、サクラがナギへと問う。
「ん?俺か。俺は適性がある言うて、推薦されてここ来とるだけやからな。立派な目標とかは別に無いねん。だから、二人ともしっかりしとって、かっこええなて、思ただけや」
「格好いい…!当然さ。この内から溢れる気品と高い志こそが、僕の圧倒的な美しさの秘訣さ…!」
ナギの称賛に気を良くしたヴィクトールが、ベンチから立ち上がって美しくポーズを決める。
「ヴィクはもうええねん…。まあ、俺のことはなるようになるやろ」
「もう…ナギってば、適当なんだから」
ため息をつくサクラだったが、その口元はどこか嬉しそうに綻んでいた。
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