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箱庭少女のロジック 〜かつて世界を滅ぼした最強のオートマタは僕の指示しか聞かないらしい〜  作者: 邑沢 迅
レガリス編

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第99話:出会いの学び舎

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 凛とした声の響いた教室の入り口へと、皆が一斉に視線を向ける。そこに立っていたのは、まるで精巧な人形のように美しい顔立ちをした、一人の見知らぬ少年だった。


 ナギやアダムたちは皆、10歳前後だったが、その少年はどう見ても明らかに彼らより頭一つ分以上は小さい。


「…なんだ、このチビは」


 空気を読まずに割って入ってきた乱入者に、アダムがいらつきと共に吐き捨てる。しかし、その少年は全く怯む様子を見せなかった。


「チビ、とは…言葉が美しくないね。ご自慢のお父上である、ヴァレリウス伯爵の教育が行き届いていないのではないかな?」


 芝居がかった大仰な身振りと、気品に満ちたその口調。おおよそ一桁台の年齢の子供が発するようなものではない。ただ、高くて幼い声色だけが、唯一彼を『少年』たらしめていた。


「父上を馬鹿にしたな…お前、名前は…!」


 顔を真っ赤にして激昂するアダムに、少年はフッと余裕の笑みを浮かべた。


「おっと、名乗るのを忘れていたね。僕は――」


 バッ、と。少年は両手を広げ、まるで舞台の上の役者のように舞うように語った。


「ヴィクトール・アルトリウス」


 ――その瞬間。 教室の空気が、文字通り完全に凍りついた。


 アルトリウス。それは、この聖王国レガリスを統べる王の血族の姓。つまり、目の前にいるこの小さな少年は、レガリスの王子であるという何よりの証拠だった。


「嘘だろ…でも…パレードで見たことあるぞ…」

「そういえば、先生が言ってた飛び級の編入生って…」


 クラスメートたちが青ざめた顔でヒソヒソと囁き合う。そんな周囲の驚きと畏怖を知ってか知らずか、ただ一人、ナギだけはいつも通りだった。


(…いちいち動きが胡散臭い、変な奴やな…)


 ぼぅっと、どこか冷めた目でその大仰なポーズを見つめている。


「ア、アダムさん…こいつ…いや、この方には逆らっちゃダメですよ…!」

「くっ…ぐぅっ…!」


 怒りに任せて悪態をつこうとしたアダムだったが、流石に相手が悪すぎる。ギリッと奥歯を噛み締め、不満と屈辱の言葉を無理やり飲み込むと、アダムは逃げるように踵を返して教室を飛び出していった。


「ま、待ってくださいよ、アダムさん!」


 その背中を慌てて追いかけ、取り巻き達も次々と姿を消していく。静まり返った教室で、ヴィクトールはふぅと息を吐き、ナギの方へと歩み寄った。


「大丈夫かい?」

「すまんな、助かったわ。でも、俺よりそっちの、サクラに手貸してやってや」


 ナギが顎でしゃくると、ヴィクトールは小さく頷き、尻もちをついたまま呆然としているサクラの前にスッと片膝をついた。


「これは失礼…レディ」


 まるで舞踏会のエスコートのように、優雅に手を差し伸べる。サクラはその手に引かれて立ち上がるが、いざ並んで立ってみると…その『紳士』が自分よりも圧倒的に小さく、見上げるようにつぶらな瞳を向けてくるため、どうしても戸惑いを隠せなかった。


「あ、ありがと…いや、ありがとう、ございます…」

「クラスメートに丁寧な言葉遣いは不要さ!」


 戸惑うサクラの前で、ヴィクトールはバサァッと自身の美しい金髪をかき上げた。


「それにしても…このレガリスも、まだまだ直すべきところは多そうだね。あんな差別主義者が蔓延っているなんて…悲しいことだ」


 悲壮な空気を漂わせ、一人で何やら壮大な決意を語り始める小さな王子様。こうして、飄々とした辺境の少年と、小さな王子――ナギとヴィクトールは、初めての邂逅を果たしたのだった。


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