表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クラス転移に巻き込まれなかった俺、学校に残された数人の「残り物」たちと最強の文化祭を開催する  作者: NN


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/30

28時間目 『固定』の真髄

 俺の左手は、豪徳寺の精神体の胸倉を掴んでいた。

 実体のないはずの光の体だが、確かな「重み」があった。それは、彼が背負わされた期待と、絶望の重さだったのかもしれない。


 頭上では、東雲センパイが屋上から最後の特大花火の発射準備を終えている。

 隣では、凛が限界まで魔力を練り上げ、炎の翼を広げている。


 あとは、俺が突き放すだけだ。

 こいつを、向こう側の世界へ。


「……っ」


 俺は腕に力を込めた。

 だが、その瞬間。


 『 相 …… 沢 …… 』


 豪徳寺の唇が、微かに動いた。

 狂気は消えていた。そこにあったのは、迷子になった子供のような、頼りない瞳だった。


 『 俺 は …… た だ …… 』

 『 み ん な と …… 帰 り た か っ た だ け な ん だ 』


 その言葉に、俺の動きが止まった。

 時が止まったように感じた。


 もしもあの日、俺がトイレに行かず、教室にいたら。

 俺も向こう側で、泥水を啜りながら、同じように泣いていたかもしれない。

 こいつは悪くない。誰も悪くない。

 ただ、運命のボタンが掛け違っただけだ。


 (……わかってるよ)


 胸が締め付けられるような痛みが走る。

 俺だって、できることなら「こっちにおいで」と言ってやりたい。

 焼きそばパンを分けて、コーラで乾杯して、「大変だったな」と笑い合いたい。


 でも。

 それをすれば、俺の隣にいる凛が消える。

 屋上のセンパイが、この学校が、俺たちの「今」が消滅する。


 だから。


「……ごめんな、豪徳寺」


 俺は迷いを断ち切るように、奥歯を噛み締めた。

 同情はする。でも、譲らない。

 それが、残された側の責任ケジメだ。


「この世界は、もう定員オーバーなんだよッ!!」


 俺は叫びと共に、左手を離した。

 同時に、右手を突き出す。

 感覚の消えた右腕に、魂を込める。


 センパイ、今だ!

 凛、燃やせ!


 ドシュゥゥゥゥンッ!!


 屋上から、東雲センパイ渾身の「対干渉用・魔力爆縮弾(花火)」が撃ち込まれる。

 

 ボォォォォォォォッ!!


 凛の両手から、巨大な炎の塊が放たれる。


 爆風と熱波が豪徳寺を直撃し、彼の体を空の彼方へと吹き飛ばす。

 だが、それだけじゃ足りない。

 ゲートはまだ開いている。奴が手を伸ばせば、また繋がってしまう。


 だから、俺が「蓋」をする。


 俺の能力は『固定アンカー』。

 これまで俺は、動くものを「止める」ために使ってきた。

 だが、違う。

 この能力の本質は――**「あるべき場所を定める」**ことだ。


 俺は、豪徳寺が吸い込まれていく空の亀裂、その「境界線」を睨みつけた。


「そこが! お前の! 世界ステージだッ!!」


 俺は空間そのものに、巨大なくさびを打ち込んだ。

 物理的な固定じゃない。

 『異世界は向こう』『現代はこっち』という、次元のルールを、俺の意志で縫い付ける!


 ガギィィィィィィィィィンッ!!!!


 世界が鳴動した。

 俺の右腕から、バキバキと何かが砕ける音がした。

 だが、構わない。


 俺が打ち込んだ「概念の杭」は、開こうとする傷口を強制的に縫合した。

 吹き飛ばされた豪徳寺が、亀裂の奥で何かを叫ぼうとして――。


 バシュッ。


 音が消えた。

 亀裂が閉じた。

 紫色の光も、不吉な魔力も、すべてが空の向こう側へと遮断された。


 後には、ただ静かな、灰色の霧に覆われた夜空だけが残っていた。


「…………」


 終わった。

 俺は空に伸ばした右手を、ゆっくりと下ろそうとした。

 だが、腕はピクリとも動かなかった。感覚がないどころか、重力さえ感じない。


 視界が揺れる。

 隣で凛が何かを叫んでいるのが見えたが、音は聞こえなかった。


 (ああ……眠いな)


 俺は糸が切れた操り人形のように、その場に崩れ落ちた。

 最後に見たのは、泣きそうな顔で駆け寄ってくる、最高に可愛い相棒の顔だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ