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クラス転移に巻き込まれなかった俺、学校に残された数人の「残り物」たちと最強の文化祭を開催する  作者: NN


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27/30

27時間目 勇者の干渉

 俺は放送室を飛び出し、階段を転げ落ちるように駆け下りた。

 呼吸が苦しい。右手の感覚はない。

 だが、行かなければならない。


 グラウンドに出ると、そこは祭りの後のような静寂と、熱気が渦巻いていた。

 極彩色の火の粉が、雪のように舞っている。

 その中心、朝礼台の上で、凛が肩で息をしながら膝をついていた。


「凛!」

「……カケル」


 凛が顔を上げる。汗で濡れた髪が頬に張り付いているが、その瞳はまだ燃えている。

 俺は彼女の隣に立ち、夜空を見上げた。


 上空の亀裂は、凛の炎によって縫合され、閉じかけている。

 だが、完全に閉じるその寸前。

 最後の裂け目から、一筋の光が音もなく降りてきた。


 それは魔物ではなかった。

 巨大な腕でもなかった。

 

 光はグラウンドの土を踏みしめ、人の形をとった。

 ボロボロに錆びついた鎧。

 泥と血にまみれたマント。

 そして、疲労と狂気が入り混じった瞳。


「……豪徳寺」


 俺が名前を呼ぶと、その影――勇者・豪徳寺の精神体アバターは、ゆらりと顔を上げた。


 『 あ ぁ …… 相 沢 、 か 』


 声は、スピーカーを通さず、直接脳内に響いてきた。

 懐かしいクラスメイトの声。だが、それはまるで数十年戦場を彷徨った老人のように枯れていた。


 『 い い な ぁ …… 』


 豪徳寺が、周囲を見渡す。

 まだ燻っているキャンプファイヤーの残り火。

 散らばった色とりどりの紙吹雪。

 そして、お揃いの衣装ジャージを着て並ぶ俺と凛。


 『 い い な ぁ …… お 前 ら は 』


 豪徳寺が一歩、踏み出してくる。

 その足元から、黒い泥のような魔力が染み出し、グラウンドの草を枯らしていく。


 『 俺 は 戦 っ た ん だ ぞ 。 ク ラ ス の 代 表 と し て 、 お 前 ら を 守 る た め に 』

 『 怖 か っ た 。 痛 か っ た 。 で も 、 英 雄 に な れ ば 報 わ れ る と 思 っ て … … 』


 豪徳寺の手が震える。

 その手は、剣を握りすぎて豆だらけになり、爪は剥がれ、見るも無惨な状態だった。


 『 な の に 、 な ん だ こ れ は ! 』


 彼は叫んだ。


 『 な ぜ 、 逃 げ た お 前 ら が 笑 っ て る ! 』

 『 な ぜ 、 選 ば れ な か っ た 落 ち こ ぼ れ が 、 俺 の 欲 し か っ た 日 常 ( も の ) を 持 っ て い る ん だ ! 』


 理不尽な怒り。

 でも、俺には痛いほど分かった。

 彼は、ただの高校生だったのだ。

 いきなり「世界を救え」と放り出され、死ぬ思いで役目を果たして帰ってきたら、留守番組が文化祭で馬鹿騒ぎしていた。

 心が折れるのも無理はない。


 豪徳寺が手を伸ばす。

 その指先が、凛に触れようとする。


 『 よ こ せ …… そ の 場 所 を 、 俺 に 代 わ れ ! 』


 空気が凍りつく。

 彼の指先から放たれるのは、空間を強制的に置換スワップしようとする魔法だ。

 凛を異世界へ弾き出し、自分がここに収まろうとしている。


「――させるかッ!」


 俺は凛の前に割り込んだ。

 右手を突き出す。感覚はない。でも、動く。


「豪徳寺。お前の気持ちはわかるよ。同情もする」


 俺は彼の目を見て言った。


「でもな、これだけは譲れねえ」


 『 ど け ! 相 沢 ! 』


「どかない! ここは俺たちが守った場所だ!」


 俺は一歩も引かなかった。


「お前は『与えられた使命』で戦ったかもしれない。でも俺たちは、自分たちで考えて、工夫して、泥臭く生きてきたんだ!」

「選ばれなかった? 違うな。俺たちは、ここを選んだんだよ!」


 『 う 、 う ぅ …… ッ ! 』


 豪徳寺がたじろぐ。

 彼の鎧が、ポロポロと崩れ落ちる。

 英雄としての虚飾が剥がれ、ただの泣きそうな少年の顔が露わになる。


「帰れ、豪徳寺」


 俺は冷酷に、しかし友として告げた。


「お前は向こうの主人公だろ? だったら、最後まで向こうで物語を終わらせてこい」

「中途半端に逃げ出して、俺たちの青春ストーリーに割り込んでくるな!」


 『 あ …… あ ぁ …… 』


 豪徳寺が膝をついた。

 彼の体から光が失われていく。

 こちらの世界の「拒絶」と、彼自身の「諦め」が、彼を元の世界へと引き戻そうとしている。


 だが、まだだ。

 空の亀裂は、まだ完全に閉じていない。

 豪徳寺というくさびが残っている限り、ゲートは繋がり続け、やがて爆発する。


「カケル! センパイからの合図よ!」


 凛が叫び、校舎の屋上を指差した。

 そこでは、東雲センパイがサーチライトを点滅させていた。


 ――『トドメを刺せ』。


 俺は残った左手で、豪徳寺の胸倉(に見える光)を掴んだ。

 殴るんじゃない。

 押し出すんだ。


「行くぞ、凛! 最後の共同作業だ!」

「言い方がキモいけど……付き合ってあげる!」


 俺の『固定』と、凛の『発火』。

 そしてセンパイの『科学』。

 全ての力を合わせた、最後の一撃が放たれる。

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