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クラス転移に巻き込まれなかった俺、学校に残された数人の「残り物」たちと最強の文化祭を開催する  作者: NN


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26/30

26時間目 炎のダンス

 パラパラパラ……。


 夜空から、光の粉雪が降っていた。

 いや、それは雪ではない。

 東雲センパイの科学花火と、凛の爆炎によって焼き尽くされた巨大な腕の「燃えカス」だ。


 紫色の岩のような皮膚を持っていた巨腕は、もはや原形を留めていなかった。

 虹色の炎に焼かれ、ボロボロと崩れ落ち、地面に届く前に光の粒子となって消滅していく。


「……すげぇ」


 放送室の窓際で、俺は呆然と呟いた。

 俺の右手の痛みも、疲労も、一瞬だけ忘れていた。

 それほどまでに、目の前の光景は幻想的だった。


 極彩色の火の粉が舞い散る校庭の中心。

 朝礼台という名のステージに、桐島凛は立っていた。


「…………」


 彼女はもう、叫んでいなかった。

 指鉄砲を構えてもいない。

 ただ、両手を広げ、まるで指揮者のように優雅に指を動かしているだけだ。


 だが、その指先の動きに合わせて、周囲の炎が生き物のように蠢く。

 

 シュルルッ……。


 地面を舐めていた余り火が、赤い蛇となって空中に巻き上がる。

 一本、二本、十本。

 炎の帯が凛の体を包み込み、螺旋を描きながら天へと昇っていく。


 それは攻撃魔法のような暴力的なものではない。

 新体操のリボンのように滑らかで、バレエのように繊細だ。

 かつて「狂犬」と呼ばれ、誰とも馴れ合わずに屋上で一人寝ていた少女。

 その彼女が今、孤独な夜を焼き払い、世界の中心で踊っている。


 『 ア …… ア ァ …… 』


 空の亀裂から、うめき声が漏れた。

 巨大な腕を失った豪徳寺の思念だ。

 本来なら、腕を壊された怒りで反撃してくるはずだ。

 だが、次の攻撃が来ない。


 来られないのだ。

 

 『 キ レ イ ダ …… 』


 思わず漏れたような、敵の心の声。

 異世界の戦場で、血と泥にまみれ、美しいものなど何一つ見てこなかった彼らにとって。

 この圧倒的な「光の演舞」は、戦意を奪うほどの劇薬だった。


 空中に残っていたガーゴイルたちも、翼を休め、校舎の屋根に止まってその光景に見入っている。

 魔物さえも魅了する、絶対的なヒロインぢから


「カケル君。BGMを変えるぞ」


 背後で、東雲センパイが静かにフェーダーを操作した。

 激しいメタルロックがフェードアウトし、代わりに流れてきたのは――ピアノの旋律だった。

 音楽室から回収したCDにあった、バラード曲。

 しかし、そのリズムは力強く、炎の揺らめきと完璧にシンクロしている。


「粋なことしますね、センパイ」

演出家プロデューサーとして当然の仕事さ。さあ、クライマックスだ」


 ピアノの音が夜気に染み渡る。

 凛が、最後の舞を見せる。

 彼女はくるりとターンを決めると、その遠心力で周囲の炎を一箇所に集めた。


 巨大な火の鳥のような塊が、彼女の頭上に形成される。


「……さよなら」


 凛が短く呟き、腕を振り上げた。

 その動作は、敵を倒すためのものではなく、終わってしまった祭りを弔うような、静かな「送り火」のようだった。


 ヒュオオオオオオオオッ!!


 炎の鳥が、一直線に空へ翔ける。

 それは崩れかけた巨大な腕の残骸をすり抜け、その奥にある「空の亀裂」そのものへと吸い込まれていった。


 カッ……!!


 亀裂の内部で、炎が炸裂した。

 紫色の不吉な光が、暖かなオレンジ色に塗り潰される。

 

 『 熱 い …… で も 、 暖 か い …… 』


 豪徳寺の怨嗟の声が、炎に巻かれて溶けていく。

 羨望も、憎悪も、すべてが浄化されていくようだ。


 俺はマイクを握り直し、震える声で告げた。


「……見たか、豪徳寺」

「これが、俺たちの『文化祭』だ」

「剣も魔法もいらない。ただ、最高に美しいだけだ」


 空の亀裂が、炎の熱によって縫い合わされるように、徐々に小さくなっていく。

 だが、完全に閉じる直前。

 炎の中で、何かがキラリと光った。


 それは、ただの魔力ではない。

 人の形をした――。


「……来るぞ」


 俺は直感した。

 腕は壊した。戦意も挫いた。

 だが、最後に「彼」自身が、直接言いたいことを言いに来る。

 

 怪物としてではなく、かつてのクラスメイトとして。


 俺は放送室を飛び出した。

 凛が待つ、グラウンドへ向かうために。

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