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クラス転移に巻き込まれなかった俺、学校に残された数人の「残り物」たちと最強の文化祭を開催する  作者: NN


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25/30

25時間目 科学と魔術のキャンプファイヤー

「ミュージック、スタート」


 放送室で、東雲センパイがボソリと呟き、手元の赤いスイッチを押し込んだ。

 それは、攻撃の合図というよりは、ショーの開幕を告げる演出家の所作だった。


 カチッ。


 その小さな音が、世界の音量を塗り替えた。


 ドシュッ! ドシュッ! ドシュッ! ドシュッ!!


 校庭の四隅――体育倉庫裏、プールサイド、花壇、そして朝礼台の周囲に埋設されていた「発射筒」が一斉に火を噴いた。

 打ち上げられたのは、ただの火薬ではない。

 理科室の薬品在庫をフル活用し、センパイが徹夜で調合した『特製・炎色反応カートリッジ』だ。


 ヒュルルルルル……ドンッ!! パァァァンッ!!


 夜空に大輪の花が咲いた。

 だが、色が異常だ。

 リチウムの深紅。

 ナトリウムの烈光のような黄色。

 銅の青緑。

 カリウムの紫。


 毒々しいまでの極彩色サイケデリックな閃光が、灰色の霧に閉ざされた空を埋め尽くす。


「うおっ……眩しっ!」


 放送室にいる俺ですら、腕で顔を覆うほどの光量。

 暗視に慣れていたガーゴイルたちは、網膜を焼かれて悲鳴を上げ、バラバラと墜落していく。


「まだだ! メインディッシュはこれからだぞ!」


 センパイが叫ぶ。

 空中で炸裂した花火の粒子が、キラキラと光る粉となって校庭全体に降り注ぐ。

 それは、可燃性の金属粉末だった。

 校庭の空気が、爆発寸前のガス室のように変わる。


 その中心。

 光の粉が降り注ぐ朝礼台の上で、凛が天を仰いだ。


「……綺麗」


 彼女は一瞬、うっとりと空を見上げたが、すぐに口元を吊り上げた。

 最高のお膳立てだ。

 この充満したエネルギーに、最後の「種火」を投げ込むのは、彼女の役目。


「全部、燃えちゃえ!」


 凛が両手を頭上で叩き合わせた(クラップ)。


 パチンッ!


 その摩擦熱が、彼女の『発火』能力によって増幅され、爆発的な火種となる。

 

 ボォォォォォォォォォンッ!!!!


 連鎖爆発が起きた。

 空中に漂う金属粉末が一斉に燃焼し、校庭全体が巨大な火柱と化した。

 

 それはもはや「キャンプファイヤー」なんて可愛いものじゃない。

 校庭そのものが、ひとつの巨大なエンジンとなって火を噴いたような光景だ。


 『 ギ……ャ……ァ……ァ……ッ!? 』


 頭上で静止していた巨大な腕が、炎の奔流に飲み込まれた。

 物理的な熱さだけではない。

 マグネシウムの閃光と、様々な化学物質が燃焼する際の「あり得ない色」の光。

 それが、異世界の「魔力」という不安定なエネルギー結合を、科学の力で強制的に分解クラッキングしていく。


「解析通りだ!」


 センパイがモニターにかじりつきながら叫ぶ。


「異世界の魔力は『波長』で維持されている! そこに異なる周波数の『光』と『熱』を過剰供給すれば、奴らの構成データはバグを起こして崩壊する!」


 つまり。

 剣で斬るんじゃない。

 魔法で消すんじゃない。

 「混ぜるな危険」の化学反応をぶつけて、存在ごと文字化けさせているんだ!


 『 熱 い ! 痛 い ! わ け が わ か ら な い ! 』


 豪徳寺の悲鳴が脳内に響く。

 巨大な腕の表面が、ボロボロと崩れ落ちていく。岩のような皮膚が、デジタルノイズのように点滅し、光の粒子となって剥がれ落ちる。


「カケル! 今よ! アンタの『固定』を解いて!」


 炎の渦の中から、凛の声が聞こえた。

 彼女は炎の中心にいながら、自分の周りの酸素だけを巧みに制御し、無傷で立っていた。まるで炎の精霊だ。


「……おうよ!」


 俺は右手に残っていた最後の力を振り絞った。

 これまで巨大な腕を「止める」ために使っていた力を、一気に解除する。


 だが、ただ離すだけじゃない。

 俺たちが作り出したこの「熱狂」を、空の亀裂の向こう側へ送り込むために。

 『固定』していた空間のふたを、外側へ向かって弾き飛ばす!


「持ってけ泥棒ォォォォッ!!」


 バシュッ!!


 俺がロックを外した瞬間。

 行き場を失っていた膨大な熱エネルギーと爆音が、煙突効果によって真上へと噴出した。


 ズドォォォォォォォォンッ!!


 極彩色の炎の槍が、巨大な腕を貫通し、空の亀裂の奥深くへと突き刺さった。


 夜空が焼ける。

 紫色の不吉な光が、科学の虹色によって上書きされていく。

 

 それは――

 俺たちが開催した「最強の文化祭」が、夜空を塗り替える序章だった。

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