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クラス転移に巻き込まれなかった俺、学校に残された数人の「残り物」たちと最強の文化祭を開催する  作者: NN


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24/30

24時間目 英雄の孤独

 グラウンドは、もはや戦場ではなかった。

 そこは、熱狂の渦巻くライブ会場フェスだった。


 凛の炎舞が、夜空を焦がす。

 極彩色のレーザー光線が飛び交う。

 そして、爆音のロックが校舎を揺らす。


 『ギ……ギギッ……』


 空を覆っていたガーゴイルの群れは、攻撃することを忘れていた。

 まばゆい光。心地よいリズム。

 暗い洞窟で生まれ、血生臭い戦場しか知らなかった彼らにとって、この「文化祭」という煌めきは、あまりにも刺激的で、美しすぎたのだ。


 だが。

 ただ一人、その光景を「地獄」として見つめる者がいた。


 ズズズッ……。


 俺の頭上で、巨大な腕が震えた。

 『固定』による拘束を振りほどこうとしているのではない。

 その震えは、まるで「嗚咽おえつ」のようだった。


 ミチチッ……。


 俺の脳内に、またノイズが走る。

 右手の感覚がズレる。

 そして、その「ズレ」た隙間から、流れ込んでくるものがあった。


 それは、豪徳寺の記憶ビジョンだった。


 *


 (――暗い)

 (――寒い)


 俺の脳裏に、異世界の風景がフラッシュバックする。

 灰色の荒野。腐った沼の臭い。

 野営地の硬い地面で、泥だらけの毛布にくるまって震える豪徳寺の姿。


 『 素 晴 ら し い ! さ す が 勇 者 様 だ ! 』


 王様や騎士団長の声が響く。

 だが、彼らの目は笑っていない。豪徳寺を「便利な兵器」としてしか見ていない。

 称賛の言葉と共に渡されるのは、干し肉とわずかな水だけ。


 豪徳寺は、焚き火を見つめながら思っていた。

 

 ――帰りたい。

 ――コンビニの明かりが見たい。

 ――ふかふかの布団で眠りたい。

 ――誰かと、馬鹿みたいに笑い合いたい。


 そして今。

 次元の裂け目越しに見えたのは、その「渇望」していたすべてが詰まった光景だった。


 *


 『 あ ぁ …… 』


 放送室のスピーカーから、ノイズ混じりの溜息が漏れた。

 巨大な腕の指先が、凛の踊る朝礼台へと伸ばされる。

 握りつぶそうとしているのではない。

 まるで、その暖かな光に触れたがっているかのように。


 『 な ぜ …… な ぜ 、 そ こ に 俺 が い な い ん だ 』


――その問いに、答えられる者は、誰もいなかった。


 豪徳寺の本音が、俺の脳内に直接響いた。


 『 俺 は 頑 張 っ た 。 命 が け で 戦 っ た 』

 『 な の に 、 な ぜ 俺 は こ ん な に 惨 め で …… 』

 『 逃 げ た お 前 ら が 、 ど う し て そ ん な に 輝 い て い る ん だ 』


 それは怒りではなかった。

 純粋で、濁った、どうしようもない「羨望ジェラシー」。

 世界を救ったという栄光さえも、たった一夜の文化祭の前では色褪せて見えてしまうほどの、圧倒的な敗北感。


 『 見 せ る な ァ ァ ァ ッ ! ! 』


 巨大な腕が暴れた。

 羨望は、瞬時に憎悪へと変わる。

 自分に見ることの許されない「青春」を、力ずくで消し去ろうとする子供の癇癪かんしゃく


 腕が振り上げられる。

 風圧が、グラウンドの砂を巻き上げた。

 巨大な影が、凛の立つステージを覆い尽くす。

 凛を、ステージごと叩き潰すつもりだ。


 「カケル!」

 凛が叫ぶ。


 俺はマイクを掴んだ。

 右手の感覚はもうない。だが、俺にはまだ「口」がある。


「豪徳寺ィ!」


 俺は叫んだ。


「悔しいか! 羨ましいか!」


 巨大な腕が一瞬、ピタリと止まる。


「そりゃそうだよな! こっちは最高に楽しいもんな!」

「でもな、これは俺たちが自分で作った『楽しさ』だ! 誰かに与えられた使命でも、称賛でもねえ! 俺たちが、俺たちの手で掴み取った日常だ!」


 俺は血の混じった唾を吐き捨てるように言った。


「英雄ごっこに酔いしれて、日常を捨てたのはお前だろうが!」

「無いものねだりしてんじゃねえ! 指くわえて見てろ!」


 『 う …… う ぅ …… ッ ! 』


 図星を突かれた巨大な腕が、空中で萎縮するように縮こまる。

 物理的な拘束力以上に、心の芯を折られたダメージ。


「センパイ! 今だ!」


 俺は合図を送った。

 豪徳寺の心が折れ、腕の力が弱まったこの瞬間こそが、最初で最後の好機。


「承知した! とっておきを打ち上げるぞ!」


 東雲センパイが、赤いカバーのついたスイッチに手をかけた。

 凛が朝礼台の上で、最後のポーズを決める。炎が螺旋を描き、天を指す。


「フィナーレよ! 全部まとめて消し飛びなさい!」


 俺たちの文化祭は、いよいよ終わりのエンディングを迎える。

 この一撃で、夜明けを呼び込むのだ。

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