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クラス転移に巻き込まれなかった俺、学校に残された数人の「残り物」たちと最強の文化祭を開催する  作者: NN


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20/30

20時間目 拒絶のメッセージ

 放送室は、管理棟の最上階、校長室の隣にある。

 普段なら徒歩10秒の距離だ。

 だが、今の俺たちにとっては、数キロの登山に等しい道のりだった。


「――っ! 跳べ、凛!」


 俺が叫ぶと同時に、凛が廊下の穴を飛び越える。

 着地した床板が、ブヨブヨとした肉のような質感で波打つ。


「気持ち悪っ! 何よこれ、内臓の中を歩いてるみたい!」

「文句を言うな! 校舎が『異界の生物』として再構築されつつあるんだ!」


 東雲センパイが、機材を抱えながら器用に壁を走る(文字通り、重力が歪んで壁が床になっている)。


 俺たちは這うようにして、放送室のドアにたどり着いた。

 ドアプレートの『放送室』という文字が、『叫喚室』に見えたのは気のせいか。


 バンッ!

 ドアを蹴破り、中に飛び込む。


 *


 放送室の中は、奇跡的に無事だった。

 ずらりと並んだミキサー卓、マイク、CDデッキ、そして校庭を見下ろせる大きな防音ガラスの窓。

 ここが、俺たちの「メインステージ」だ。


「時間がない。急いでセットしろ!」


 俺の号令で、全員が動く。

 センパイは配線係。ミキサー卓の裏に潜り込み、持ち込んだアンプと、校内全域のスピーカーを直結させる。

 凛は演出係。窓際に照明機材を並べ、校庭に向けて設置する。


 そして俺は――DJだ。

 マイクの前に座り、CDラックから「最強の武器ディスク」を選ぶ。


「……準備完了だ。カケル君」


 数分後。センパイが顔を出した。

 コードだらけの姿で、親指を立てる。


「回線は繋がった。このマイクのスイッチを入れれば、校内だけでなく、空間振動を通じて『向こう側』にも音が届くはずだ」

「マジですか。通話できるってこと?」

「いや、一方的な『放送』だ。こちらの音圧をぶつけることはできる」


 その時だった。


 ジジッ……ザザザッ……。


 放送室のスピーカーから、不快なノイズが流れた。

 そして、目の前の防音ガラス――夜空の亀裂が見える大きな窓に、白い霜のようなものが走り始めた。


 ピキピキピキ……。


 霜は急速に広がり、文字を形成していく。

 黒板やホワイトボードだけじゃない。今や、この空間にある「面」であれば、どこにでも奴らの意志が表示されるのだ。


『 開 け ろ 』

『 抵 抗 を や め ろ 』

『 我 々 を 受 け 入 れ ろ 』


 ガラス一面を埋め尽くす、豪徳寺(勇者)の言葉。

 その向こう側、空の亀裂からは、巨大な光の柱が今にも降り注ごうとしている。


 俺はマイクのスイッチに手をかけた。

 震える指を、もう片方の手で抑える。


「……ビビってんのか、俺」


 相手は勇者だ。世界を救った英雄だ。

 それに比べて、俺はトイレにいて生き残っただけの、一般生徒。

 本来なら、物語のモブですらない。


「カケル」


 横から、ポンと肩を叩かれた。

 凛だ。彼女はいつの間にか、放送室にあった赤い油性マーカーを俺に差し出していた。


「言ってやりなさいよ。アンタは、この学校の『生徒会長』でしょ?」

「……生徒会長じゃねーよ」

「今はそうよ。この学校の代表は、アンタだもん」


 凛が不敵に笑う。

 その笑顔に、体の震えが止まった。


 そうだ。

 今、この学校を仕切っているのは、先生でも理事長でもない。

 俺たちだ。

 三人で約束したんだ。絶対に死なないって。


 俺はマーカーを受け取ると、霜で覆われたガラス窓の前に立った。

 外の亀裂から溢れる紫色の光が、俺の影を部屋に落とす。


「豪徳寺。見てるか?」


 俺は呟き、キャップを外した。

 そして、ガラスに浮かぶ『受け入れろ』という文字の上から、赤いインクで大きく、乱暴に書き殴った。


 キュッ、キュッ、キュッ!!


『 立 入 禁 止 ( K E E P  O U T ) 』


 さらに、その下に特大の文字を付け加える。


『 来 た ら 殺 す 』


 かつてないほど野蛮で、最高に攻撃的な拒絶。

 書き終えた瞬間、ガラスがビリビリと振動した。


 『 ウ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ッ ! ! 』


 スピーカーから、文字ではない「咆哮」が聞こえた。

 勇者の怒りか、それとも次元の悲鳴か。

 空の亀裂が一気に広がり、紫色の光の中から、無数の黒い影が飛び出してきた。


「来たぞ! 魔物の先遣隊だ!」

 センパイが叫ぶ。「数は……数える意味がない! 校庭に降ってくるぞ!」


 ガーゴイルのような翼を持った怪物の群れが、流星のようにグラウンドへ落下してくる。

 いよいよ、開戦だ。


 俺はDJ席に座り直し、マイクを握りしめた。

 フェーダー(音量つまみ)を最大まで上げる。


「全員、位置につけ!」


 凛が窓際で指鉄砲を構える。

 センパイが照明のスイッチに手をかける。


 俺はCDデッキの再生ボタンに指を添え、ニヤリと笑った。


「ようこそ、俺たちの学校へ」

「入学祝いだ。死ぬほど踊らせてやるよ!」


 ポチッ。


 俺がボタンを押した瞬間。

 静寂に包まれていた夜の学校に、爆音のイントロが轟いた。


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