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クラス転移に巻き込まれなかった俺、学校に残された数人の「残り物」たちと最強の文化祭を開催する  作者: NN


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19/30

19時間目 東雲の残酷な仮説

 爆散したホワイトボードの破片が散らばる校長室で、俺たちは無言で立ち尽くしていた。

 豪徳寺との交渉は決裂した。

 向こうは本気で、この学校を燃料にして帰還するつもりだ。


 ズズズ……ズズズズ……。


 床の振動が激しくなる。棚の上のジェームズMk-Ⅱ(生首扇風機)が、ガタガタと震えながら倒れた。


「……時間がない。説明しよう」


 東雲センパイが、割れたホワイトボードの代わりに、ノートPCの画面をプロジェクターで壁に投影した。

 そこには、複雑な数式と、赤いシミュレーション図が表示されていた。


「これが『残酷な仮説』の全貌だ」


 センパイがレーザーポインターで赤い図を指す。

 それは、巨大なエネルギーの塊が、漏斗じょうごのような穴を通って、点(学校)に降り注ぐ図だった。


「1000人分の質量と魔力。これを『異物』としてこの世界に再エントリーさせるには、相応の『場所代コスト』がかかる」

「コスト?」

「ああ。『等価交換』だ。異世界という高エネルギー空間から、現代という低エネルギー空間へ物質を移動させる際、その落差で莫大な熱量が発生する」


 センパイの表情が、かつてないほど険しい。


「本来なら、時間をかけて慎重に調整し、エネルギーを逃がしながら帰還するべきだ。だが、彼らには余裕がない。だから『急ブレーキ』をかけながら突っ込んでくる」

「急ブレーキって……」

「時速100キロの車を、壁にぶつけて止めるようなものだ。車(勇者たち)はエアバッグ(魔法)で守られるが、ぶつかられた壁(学校)はどうなる?」


 俺は息を呑んだ。

 木っ端微塵だ。跡形も残らない。


 ――要するに。

 この学校は、彼らのための使い捨てエアバッグだった。


 笑えない冗談だ。


「つまり、彼らは自分たちが助かるために、この学校という『クッション』を使い潰す気だ。その結果、校舎が消滅し、中にいる我々が素粒子レベルで分解されても構わない、とな」


「……最低ね」

 凛が唇を噛む。

「やっぱり、あいつら英雄なんかじゃない。ただの自分勝手な侵略者よ」


「その通りだ。だが、物理法則は感情では覆せない」


 センパイが画面を切り替えた。

 次に表示されたのは、『波形』のグラフだ。

 青く規則正しい波と、赤く乱れた波がぶつかり合っている。


「そこで、作戦名『スクール・フェスティバル』の出番だ」


 センパイがニヤリと笑った。


「カケル君。君は『文化祭』の本質を何だと思う?」


「本質? ……クラスのみんなで協力すること、とか?」

「違う。それは建前だ」


 センパイは断言した。


「文化祭の本質とは、『非日常的な馬鹿騒ぎ』による『空間の変質』だ!」


「はぁ?」


「いいかい? 今の学校は『静寂』と『恐怖』に支配されている。これは異世界のシリアスな魔力と非常に相性がいい。だから奴らは干渉しやすいんだ」


 センパイが両手を広げる。


「ならば、この空間を全く別の色に染めればいい! ロック音楽! ライトアップ! バカみたいな熱気! 『ここはお前らが来るような真面目な戦場じゃねえぞ!』という圧倒的な『ポジティブ』のエネルギーで満たすんだ!」


 俺はようやく理解した。

 これは、精神論じゃない。

 「周波数」の話だ。


「向こうの『悲壮感漂う魔力』に対し、こちらの『享楽的なお祭り騒ぎ』をぶつける。波長が合わなければ、ゲートは固定できずに滑って弾かれる……そういうことですか?」


「ご名答! これを『概念的ジャミング(ノイズキャンセリング)』と呼ぶ!」


 めちゃくちゃな理屈だ。

 でも、妙に説得力がある。

 何より、俺たちらしい。


「……わかったわよ」

 凛が立ち上がり、パン! と両頬を叩いた。

「要するに、あいつらがドン引きするくらい騒げばいいんでしょ? 得意分野じゃない」


「ああ。俺たちの『日常』を守るために、全力を出して遊ぶぞ」


 俺も立ち上がる。

 センパイがPCを閉じ、ジェームズMk-Ⅱを小脇に抱えた。


「行くぞ。決戦の舞台ステージは、全校放送室およびグラウンドだ」


 *


 校長室を出る。

 廊下はすでに、異界化していた。

 壁から無数の眼球のような模様が浮かび上がり、天井からは紫の粘液が垂れている。


 窓の外。

 上空の亀裂は、もはや「ヒビ」ではなかった。

 夜空が大きく裂け、その奥から、巨大な「何か」が這い出ようとしていた。


 それは、光り輝く巨大な船の舳先へさきのようにも見えるし、神の拳のようにも見えた。

 勇者たちの帰還船だ。


 『 開 門 …… 開 門 …… 』


 どこからともなく、低い詠唱のような声が響いてくる。

 空気が重い。立っているだけで押しつぶされそうなプレッシャー。


「急げ! あと30分でゲートが接続される!」


 俺たちは走った。

 歪んだ廊下を蹴り、階段を飛び降りる。

 目指すは、校内放送の中枢――放送室。


 三人で生き残る。その約束を果たすために。

 ここから先は、サバイバルじゃない。

 戦争フェスだ。


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