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クラス転移に巻き込まれなかった俺、学校に残された数人の「残り物」たちと最強の文化祭を開催する  作者: NN


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16/30

16時間目 空の亀裂

 その朝、俺が目を覚ましたのは、小鳥のさえずり(校内放送)でも、東雲センパイのコーヒーの香りでもなかった。


 ジジッ……ジジジジッ……。


 不快なノイズ音だ。

 入り口を見張るジェームズMk-Ⅱ(生首扇風機)が、首振り機能の限界を超える速度で小刻みに震え、異常な警戒音を発していた。


「……うるさいな、どうしたんだよ」


 俺は眠い目をこすりながら体を起こした。

 隣のソファでは、凛がまだ毛布にくるまって寝ている。昨夜、彼女が打ち明けてくれた「孤独」のことが頭をよぎる。守ると決めたんだ。


「カケル君。窓から離れるんだ」


 デスクに座っていたセンパイが、鋭い声で警告した。

 彼は徹夜していたらしい。目の下にクマを作りながら、PCの画面と窓の外を交互に見ている。


「センパイ、何が……」


 昨夜の予言が頭をよぎる。「明日か明後日には、空が割れる」。

 まさか、もう――。


 俺がカーテンの隙間から外を覗こうとした、その瞬間だった。


 バキィィィィィィィンッ!!!


 鼓膜が破れそうな轟音が、世界を揺らした。

 雷なんてレベルじゃない。まるで、巨大なガラス板をハンマーで叩き割ったような、硬質で絶望的な破壊音。


「きゃあッ!?」

 凛が飛び起きる。


 俺は窓の外を見て、言葉を失った。


 空が、割れていた。


 学校を覆っていた灰色の霧のドーム。その天井部分に、巨大な「亀裂」が走っていたのだ。

 あの「黒い線」が、遂に限界を超えた。

 スマートフォンの画面が割れた時のように、不規則なヒビが空一面に広がり、その隙間から禍々しい紫色の稲妻が漏れ出している。


「嘘だろ……空が、割れるなんて」

「恐れていた事態だ」


 センパイがPCを閉じ、冷静に(だが手は震えていた)告げた。


「外部からの『こじ開け』だ。この結界の耐久限界を超えている」


 ズズズズズズ……!


 地鳴りが響く。校長室の棚から高級な壺が落ちて砕けた。

 校舎全体が悲鳴を上げている。


 その時、廊下からあの音が聞こえてきた。


 キィィィィィィン……!


 黒板だ。2年B組の教室から、チョークが走る音がここまで響いてきている。

 俺たちは顔を見合わせ、揺れる廊下を走った。


 *


 教室に飛び込んだ瞬間、黒板はすでに紫色の光を帯びて発光していた。


 チョークの文字というより、空間そのものに刻印された呪文だ。

 今までとは桁違いの魔力が、教室を圧迫している。


『 帰 還 の 儀 式 を 開 始 す る 』

『 ゲ ー ト を 開 く ! 受 け 入 れ ろ ! 』


 豪徳寺の文字だ。

 だが、いつもの愚痴でも、泣き言でもない。

 これは一方的な「宣言」――いや、「侵攻命令」だった。


「……バカか、あいつらは!」


 東雲センパイが珍しく声を荒らげた。


「1000人規模の質量と、異世界の膨大な魔力エネルギーだぞ!? それを正規の手順も踏まずに、無理やり一点に集中させて送り込むつもりか!?」

「それって、どうなるんですか!?」

「決まっている! 受け皿となるこの学校が、エネルギーの許容量を超えて消し飛ぶ!」


 消し飛ぶ。

 つまり、俺たちも死ぬ。


 俺はチョークを掴み、黒板に叩きつけた。


『 やめろ! こっちが壊れる! 』

『 学校ごと吹き飛ぶんだよ! 中止しろ! 』


 俺の書き込みに対し、返信は無慈悲だった。


『 知 っ た こ と か ! 』

『 こ っ ち は 限 界 な ん だ ! 』

『 俺 た ち は 帰 る ! 邪 魔 を す る な ! 』


 自分勝手な理屈。

 でも、向こうも必死なのだろう。泥水を啜り、命がけで戦ってきた彼らにとって、俺たちの都合など知ったことではないのだ。


 バリバリバリッ!!


 教室の窓ガラスが一斉にヒビ割れた。

 紫色の光が強まり、空間そのものが歪み始める。


「きゃっ!?」

 凛が短く悲鳴を上げた。

 彼女の近くにあった教卓が、音もなく「ねじれた」のだ。木製の教卓が、まるで濡れた雑巾を絞るようにグニャリと歪曲し、消滅した。


 空間の侵食。

 これが俺たちの身に起きれば、即死だ。


「くそっ……ふざけんな!」


 俺は歪み始めた空間に向かって手を突き出した。

 能力『固定アンカー』。

 教卓があった場所、広がりつつある「歪み」の淵を掴むイメージ。


「止まれぇぇぇッ!!」


 ガギィッ!

 脳が揺れるような反動。

 重い。本棚や人体模型とは比較にならない。巨大なプレス機を素手で支えているような重圧が腕にかかる。


「ぐぅ……ッ! センパイ、凛! 離れろ!」

「カケル!」


 凛が叫ぶ。だが、彼女も指先に炎を灯し、いつでも戦える姿勢を取っていた。

 怯えていない。震えてはいるが、逃げようとはしていない。


「あたしも何かする! 何をすればいい!?」

「今は待機だ!」


 センパイが叫ぶ。


「私の計算では、このままだとあと数時間で空の亀裂が完全に開き、ゲートが接続される。そうなれば、衝撃波で全てが終わる! だが、逆に言えば数時間の猶予がある!」


 黒板には、豪徳寺の文字が勝ち誇ったように浮かび続けている。


『 あ と 少 し だ 』

『 待 っ て い ろ 、 日 本 』


 俺たちの楽園が、壊される。

 美味しいご飯も、温かいプールも、3人で笑い合った夜も。

 「選ばれた」勇者たちの身勝手な帰還によって、踏み潰されようとしている。


 俺は歯を食いしばり、歪みを一時的に固定したまま、二人を振り返った。


「……させるかよ」

「え?」

「俺たちの居場所だ。勝手に入ってくんじゃねえ……!」


 俺の中で、何かが切れた。

 逃げる? 隠れる?

 違う。


 ここは俺たちの学校だ。

 俺たちが守り、俺たちが楽しんだ城だ。

 それを壊そうとするなら――たとえ勇者だろうが、大賢者だろうが、全力で拒絶してやる。


「約束しただろ。絶対に死なないって」


 凛がハッと息を呑む。

 そうだ。あの夜、三人で交わした約束だ。


「センパイ、策はあるか?」

「……ある。だが、無茶苦茶だぞ」

「上等だよ」


 俺はニヤリと笑った(きっと引きつっていたと思うが)。

 空の亀裂から降り注ぐ紫色の光の下で、俺たちの「反撃」が始まろうとしていた。


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