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クラス転移に巻き込まれなかった俺、学校に残された数人の「残り物」たちと最強の文化祭を開催する  作者: NN


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12/30

12時間目 勇者からの無理難題

 図書室での死闘から数時間後。

 俺たちは戦利品である『週刊少年ジャンプ(合併号)』と『ファッション誌』、そしてセンパイが選んだ『魔導書(ネクロノミコン写本の残骸)』を抱えて、校長室で泥のようにくつろいでいた。


「……はぁ。五条悟、かっけぇ……」

「今月の占い、最下位なんだけど。ラッキーアイテム『火炎放射器』って何よ」


 娯楽がある。それだけで、精神の回復速度が段違いだ。

 傷口には絆創膏、片手にはコーラ、そしてマンガ。

 外の世界が滅んでいようと、この瞬間だけは至福だった。


 窓の外に目をやると、例の「黒い亀裂」がまだ霧の中に見える。

 少しずつ太くなっているように感じるのは、気のせいだと思いたい。


 ウィーン、ウィーン……。

 入り口に設置されたジェームズMk-Ⅱ(生首扇風機)が、規則正しく首を振っている。

 平和だ。


 そう思っていた矢先。

 ジェームズの眼窩のLEDが、いつもの赤とは違う、弱々しい黄色でチカチカと点滅し始めた。


「ん? なんだそれ、見たことない反応だな」

 俺が顔を上げると、東雲センパイが目を青く光らせた。


「敵襲ではないな。微弱な魔力干渉……判定に困っているようだ。どうやら、2年B組の『ホットライン』にお客さんが来ているらしい」


 お客さん。

 つまり、あの暑苦しい勇者様だ。


 *


 俺たちは読みかけのジャンプを持って、ダラダラと教室へ移動した。

 黒板を見ると、すでに文字が刻まれていた。

 いつにも増して、筆圧が強い。そして、文字がデカい。


『 祝 ! ド ラ ゴ ン 討 伐 ! 』


 開口一番、自慢だった。


『 俺 は 巨 大 な 炎 竜 を 斬 り 伏 せ た 』

『 王 女 も 俺 に 惚 れ て い る 』

『 俺 は 英 雄 に な っ た 』


「へー、すごいすごい」

 凛が棒読みで拍手をする。「でも王女様って、風呂も入れない泥だらけの勇者に惚れるわけ?」


 俺たちの冷めた反応を知る由もなく、豪徳寺の文字は続く。


『 だ が 、 腹 が 減 っ た 』

『 ド ラ ゴ ン の 肉 は 硬 く て 酸 っ ぱ く て 食 え な い 』

『 祝 勝 会 を や る か ら 、 供 物 を よ こ せ 』

『 酒 と 肉 と 、 あ と 麺 類 』


 供物くもつ呼ばわりかよ。

 相変わらずの上から目線に、俺はこめかみがピクリと動いた。


「ねぇカケル。あいつら、酸っぱい肉しか食ってないってさ」

「可哀想になぁ。英雄なのに」


 俺は購買部から回収してきたダンボール箱を漁った。

 その中から、とっておきの「宝物」を取り出す。


 『カップヌードル・カレー味(BIG)』。


 お湯を注ぐだけで完成する、人類の英知の結晶。

 スパイシーな香りと、とろみのあるスープ。そして謎肉。

 ジャンクフードの王様だ。


「センパイ、お湯あります?」

「もちろん。アルコールランプで沸かしたての熱湯があるよ」


 俺たちは黒板の前で、厳かにカップ麺にお湯を注いだ。

 3分待つ。

 教室に、濃厚なカレーの香りが充満する。


「……いい匂い」

 凛がゴクリと喉を鳴らす。


 3分後。

 俺は蓋を剥がし、湯気が立ち上る黄金色の麺を割り箸で持ち上げた。

 そして、スマホのカメラを起動する。


「豪徳寺、見てるかー? これ、俺たちの昼飯」


 パシャッ。

 麺とスープ、そしてとろけたチーズ(トッピング)が輝く「飯テロ画像」を撮影し、黒板にかざした。


 前回と同じく、黒板がモニター代わりになり、向こうに画像が転送されるはずだ。


 一瞬の静寂。

 そして。


 ガリガリガリガリッ!!!


 チョークが悲鳴を上げた。


『 カ レ ー ヌ ー ド ル だ ァ ァ ァ ! ? 』

『 貴 様 ら ! そ れ は 俺 が 一 番 好 き な や つ だ ! 』

『 よ こ せ ! 今 す ぐ 転 送 し ろ ! 』

『 こ っ ち は 乾 パ ン し か な い ん だ ぞ ! 』


 必死すぎる。

 ドラゴンを倒した英雄の威厳など欠片もない。


 俺はズルズルと音を立てて麺を啜った。


「んー! 美味い! やっぱ運動の後のカレー味は染みるわー!」

「あたしシーフード味ね。イカが美味しいのよ、イカが」

「私はチリトマトだ。この酸味がたまらない」


 3人でズルズル、ハフハフと咀嚼音を響かせる。

 黒板の文字が、悔し涙のように歪んでいく。


『 音 を さ せ る な ! 』

『 匂 い を 想 像 さ せ る な ! 』

『 頼 む ! 一 口 ! ス ー プ だ け で も ! 』


 懇願に変わった。

 俺はスープを最後の一滴まで飲み干し、空になった容器(中には謎肉の欠片が一つ残っている)を写真に撮り、黒板に見せつけた。


 そして、チョークを手に取り、書き込んだ。


『 ごちそうさまでした。容器なら画像で送ってやるよ 』


 バキンッ!!

 黒板のどこかで、何かが砕ける音がした。向こうの「石板」を叩き割ったのかもしれない。


『 呪 っ て や る …… 絶 対 に 許 さ ん …… 』


 怨念のような文字を残し、通信は途絶えた。


「……ふぅ。食った食った」

 俺は満腹の腹をさすった。


「性格悪いわねぇ、カケルも」

 凛が笑いながら空容器をゴミ袋に捨てる。

「でも、あいつらも生きてるってことでしょ? 元気そうで何よりじゃん」

「そうだな。怒る元気があるなら大丈夫だ」


 俺たちは異世界の英雄に対し、精一杯の「エール(飯テロ)」を送ったのだ。

 決して、ただの嫌がらせではない。……たぶん。


「さて、腹ごなしに運動でもするか」

 センパイが窓の外を見た。

 霧の向こうで、太陽はないはずなのに、なぜか明るい光が差し込んでいる場所がある。


「それより、気になっていることがある」


 センパイが『読解』を発動し、校舎の配管図を読み取るように目を細めた。


「カップ麺を作るにも、傷口を洗うにも、水が必要だ。だが、水道は止まっている。となれば……」

「プール?」

「ご明察。濾過装置が魔力で動いているなら、きれいな水が確保できるかもしれない」


 俺は窓の外を見た。

 体育館の向こうに、屋外プールの青い水面がかすかに見える。

 あそこまで行けば、水の心配はなくなる。


「でも、プールって体育倉庫の近くよね」


 凛が眉をひそめた。


「ボールとか、跳び箱とか……動くものがたくさんありそう」


 俺たちは顔を見合わせた。

 敵は確実に強くなっている。

 だが、水がなければ生き延びられない。


「行くしかないな」


 俺はソファから立ち上がった。

 図書室で掴んだ「空間固定」の感覚が、まだ手のひらに残っている。

 次も、三人で乗り越える。


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