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クラス転移に巻き込まれなかった俺、学校に残された数人の「残り物」たちと最強の文化祭を開催する  作者: NN


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11/30

11時間目 図書室の空爆

 校長室のドアの前で、ジェームズMk-Ⅱ(生首扇風機)がウィーン、ウィーンと首を振っている。

 シュールな守護神に見送られ、俺たちは再び「探索」へと出発した。


 窓の外を見る。

 昨日センパイが発見した「空間の亀裂」は、まだそこにあった。髪の毛ほどの細い黒い線。少しだけ、太くなった気がする。

 時間は、俺たちの味方じゃない。


 今回の目的地は、因縁の場所――図書室だ。


「センパイ、本当に行くんですか? あそこ、まだ本が暴れてるんじゃ……」

「だからこそだよ。昨日の襲撃でわかったが、あそこには強力な魔導書グリモワールが紛れ込んでいる可能性がある」


 東雲センパイは、理科室で手に入れた防護ゴーグルを装着しながら言った。その瞳が青白く発光し、『読解』が起動する。


「私の能力で解析すれば、魔力を持った本を特定できる。有用なものがあれば、こちらの戦力になるかもしれない」

「それに、娯楽が必要だ。カケル君も凛君も、スマホが使えない暇つぶしに漫画くらい読みたいだろう?」

「う……それは確かに」

「『週刊少年ジャンプ』の最新号、まだ読んでないのよね……」


 背に腹は代えられない。俺たちはバリケード用のダンボールを盾代わりに持ち、特別棟の渡り廊下を進んだ。


 *


 図書室の前に立つ。

 昨日のような「荒らされた音」はしない。不気味なほど静まり返っている。


 センパイの目が青く光る。


「……波動が見える。昨日より魔力濃度が上がっている。部屋全体が一つのコロニーになっているようだ」


 そっと引き戸を開ける。

 床には昨日散らばった本がそのまま落ちている。

 だが、棚に並んでいる数千冊の本たちが、まるで「息を潜めている」ような圧迫感があった。


「……いるな。しかも、群れている」


 俺たちは慎重に足を踏み入れた。

 狙うは入り口近くの雑誌コーナーと、奥の専門書エリア。

 俺が漫画を手に取ろうとした、その時だった。


 バサッ……!


 頭上で音がした。

 見上げると、高い書架の上に、分厚いハードカバーの洋書が一冊、翼を広げるように開いて浮いていた。

 まるで、群れのボスが侵入者を見下ろしているかのように。


「あの黒い本だ。あれが『女王』だな。他の本を統率している」


 センパイが目を細める。


 パラパラパラパラ……!

 その本がページを激しく震わせると、それが合図だった。


 バササササササササッ!!!


 一斉に、棚という棚から本が飛び出した。

 数十、いや数百冊。

 文庫本、図鑑、辞書、ライトノベル。あらゆる「知の翼」が、ミサイルのように俺たちに狙いを定めた。


「うそでしょ!? これ全部!?」

「燃やすか!? 凛!」

「ダメだ! ここで火を使えば、バックドラフト現象と酸欠で我々も死ぬぞ! それに本がもったいない!」


 センパイのド正論による制止。

 だが、躊躇している暇はない。

 先頭の図鑑が、弾丸のような速度で突っ込んでくる。紙の角は、高速で飛べばナイフよりも鋭い凶器になる。


「くそっ、ダンボールなんかじゃ防げねえ!」


 俺たちが持っていた盾は、最初の数冊で突き破られた。

 頬を紙がかすめる。スパッ、と鋭い痛みが走り、血が滲む。

 痛い。紙で指を切った時のあの痛みが、全身に襲いかかる恐怖。


「カケル君、防げ! 君しかいない!」

「無茶言わないでくださいよ! こんな数、いちいち触って止められるわけ……!」


 俺は腕を振り回して本を叩き落とすが、多勢に無勢だ。

 凛が悲鳴を上げながらしゃがみ込む。センパイも防戦一方だ。

 このままじゃ、紙切れに切り刻まれて死ぬ。そんな間抜けな死に方があるか。


 ――考えろ。

 俺の能力は『固定』。

 触れたものを、その座標に縫い付ける力。

 でも、対象は「物体」じゃなきゃダメなのか?


 俺たちが今、守りたいものはなんだ?

 俺たちの前の「空間」だ。

 そこを通り抜けようとする理不尽を、拒絶する壁。


 (イメージしろ。画鋲じゃない。もっとデカい、透明な壁を、ここに打ち込む!)


 俺は二人の前に仁王立ちになり、両手を大きく広げて、何もない空間を鷲掴みにした。


「そこをぉぉっ……動くなァァァァッ!!」


 バチチチチッ!!

 脳血管が切れそうな負荷と共に、俺の指先から魔力が噴出した。


 ガガガガガガガガガッ!!


 凄まじい衝突音が響いた。

 俺の目の前、1メートルほどの空中で、突っ込んできた数百冊の本が「見えない壁」に激突して静止した。

 いや、止まったんじゃない。

 俺が、俺たちの前の「空間そのもの」を固定ロックしたんだ。


「……すげぇ」

 自分でも驚いた。透明なシールドが展開されているように、本たちが空中で折り重なって壁を作っている。


「ナイスだカケル君! 『空間固定』か! だが長くは持たんぞ!」


 センパイの言う通りだ。空間を維持するのは、物体を止める数倍のエネルギーを使う。

 視界が霞む。鼻血が出てきた。


「センパイ! 親玉はどれですか!?」

「あの上だ! あの黒い洋書が群れを指揮している! タイトルは……『ネクロノミコン写本』! 邪神召喚の魔導書だ!」

「何でそんな物騒なもんがうちの学校に!?」

「図書委員の趣味だろうな!」


 天井近くで悠然と浮いているボス本。あれを落とせば群れは止まる。

 だが、俺は両手が塞がっている。


「凛! やれるか!」


 凛が俺の背後から立ち上がった。

 俺の作り出した「本の壁」の隙間から、天井を見据える。

 その手は震えていた。でも、目には炎が宿っていた。


「……約束したでしょ」


 凛が小さく呟く。


「あたしの仲間に手ェ出すヤツは、燃やすって」


 凛が指鉄砲を構える。

 その指先に、極限まで圧縮された炎の弾丸が生成される。

 昨日よりも、ずっと小さく、ずっと熱い。


「消し飛びなさい!」


 ドシュッ!


 放たれた炎弾は、直線の軌道を描いてボス本に直撃した。

 ボォォォッ!

 空中で激しく炎上する黒い本。

 断末魔のようにページをバタつかせ、やがて黒焦げになって床へと墜落した。


 バササッ……。


 司令塔を失った他の本たちが、糸が切れたように力を失い、バラバラと床に落ちていく。

 俺も同時に力を解き、その場に膝をついた。


「はぁ、はぁ……。終わった、か……」

「カケル! 大丈夫!?」


 凛が駆け寄ってくる。俺は袖で鼻血を拭って、親指を立てた。

 床は本の海だ。だが、もう動く気配はない。


「見事な連携だった」


 センパイが眼鏡を押し上げながら頷いた。


「カケル君が盾となり、凛君が矛となる。私が情報を提供する。『固定』『発火』『読解』。三つの能力が噛み合えば、どんな敵にも対応できる」


 俺たちは傷だらけになりながらも、大量の「知識」と「娯楽」を手に入れた。

 センパイは黒焦げになった魔導書の残骸も回収していた。「解析すれば有益な情報が得られるかもしれない」とのことだ。


 帰り道、凛が俺の傷口に絆創膏を貼ってくれた。

 その指先が少し震えていたのを、俺は見逃さなかった。


「……ねぇ」

「ん?」

「さっきの、すごかったわね。空間を止めるなんて」

「いや、お前の炎のほうがすごかったろ。あの精度」


 凛は少し照れたように視線を逸らした。


「……ちょっとだけ、コントロールできるようになった。この人の火傷、増やしたくないしね」


 昨日、俺の手にライターで火傷を作ったことを、まだ気にしていたらしい。

 俺は小さく笑った。


「次は俺も、お前を傷つけないくらい精密に守ってやるよ」

「……期待しないで待ってる」


 窓の外の空間に、黒い亀裂が走っている。

 少しずつ、敵が強くなっている。

 俺たちの成長速度と、敵の強化速度。

 どちらが上回るのか、それは誰にもわからなかった。


 だが、一つだけ確かなことがある。

 三人でいれば、まだ戦える。


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