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クラス転移に巻き込まれなかった俺、学校に残された数人の「残り物」たちと最強の文化祭を開催する  作者: NN


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10/30

10時間目 東雲センパイの魔改造

 理科室での激闘を終えた俺たちは、戦利品を持って拠点の校長室へと帰還した。

 全身煤だらけ、腕は筋肉痛、精神的にもボロボロだ。

 だが、足取りは軽かった。初めての勝利の余韻が、まだ体の中に残っている。


 戦利品と言っても、薬品類やガラス器具だけではない。

 東雲センパイが「どうしても持ち帰る」と言ってきかなかった、ある「ブツ」も一緒だ。


「……センパイ。本当にそれ、校長室に置くんですか?」


 俺は顔をしかめて、センパイの手元にある物体を指差した。

 それは、先ほど撃破したジェームズ君の頭部――黒く焦げた、プラスチック製の頭蓋骨だ。


「汚い! 臭い! 呪われそう!」


 凛がソファの隅に避難し、クッションを抱きしめて抗議する。

 さっきまで「三人いれば負けない」とか言ってた奴とは思えない怯えっぷりだ。


「まあ待ちなさい。ただのゴミじゃないんだよ」


 センパイは愛おしそうに頭蓋骨を撫で回した。その光景がすでにホラーなのだが、彼の目は真剣そのものだった。

 瞳が青白く光る。『読解』を発動しているのだ。


「私の『読解』能力でこの残骸を解析したところ、興味深いことがわかった」


 センパイは頭蓋骨を光にかざしながら、目を細めた。


「視える。この頭部の中心に、魔力を蓄積する『コア』のような結晶体が生成されている。サイズは小指の先ほど。純度は……約73%」


 センパイがピンセットで、頭蓋骨の割れ目から赤い石を取り出した。

 ルビーのようだが、どこか生温かい光を放っている。


「これがジェームズ君の動力源だったわけだ。魔力が凝縮して結晶化したもの。つまり、これを再利用すれば……」

「再利用?」

「魔力で動く『何か』が作れるはずだ」


 センパイは不敵に笑うと、校長室の高級な執務机を作業台に変えた。

 理科準備室から持ってきた半田ごて、導線、そして――部屋の隅にあった「扇風機」を用意する。


「さあ、オペの時間だ」


 *


 校長の執務机が、いつの間にか実験台になっていた。

 高級木材の上に半田の焦げ跡が増えていくのを、俺は見なかったことにした。

 校長が帰ってきたら卒倒するだろうな。……帰ってくるのか知らないけど。


 それから1時間。

 俺と凛がカップ麺をすすっている横で、センパイは一心不乱に工作を続けていた。


「ふむ、この配線に魔力を流せば……」

「出力制御はこのコンデンサで代用可能か……」

「いや、待て。抵抗値が足りない。ならば並列で……」


 『読解』の能力は伊達ではないらしい。

 時折、目を青く光らせては、部品や結晶の「情報」を読み取っている。

 現代の家電製品と、異世界の魔石を融合させていく。

 設計図なしの即興魔改造。まさにマッドサイエンティストだ。


「センパイ、すごいっすね」

「ん? 何がだい」

「いや、『読解』がなかったら、こんなの絶対無理じゃないですか。魔石の使い方なんて、誰も知らないのに」


 センパイは手を止め、少しだけ考え込んだ。


「……まあ、確かに。この能力がなければ、この石はただのゴミだっただろうね」


 そして、ニヤリと笑った。


「だが、能力があっても、知識がなければ活かせない。私の二十数年の人生で培った科学知識と、この『読解』が合わさって初めて可能になった。……つまり、私の留年も無駄ではなかったということだ」

「そこ胸張るところじゃないですよね」


 凛がカップ麺をすすりながらツッコむ。

 センパイは気にした様子もなく、作業に戻った。


「――完成した」


 センパイが半田ごてを置き、額の汗を拭った。

 俺たちは恐る恐る、机の上に置かれた「新作」を覗き込んだ。


「……何ですか、これ」


 そこにあったのは、扇風機の土台部分に、ジェームズ君の焦げた頭蓋骨が直結された、悪趣味極まりないオブジェだった。

 羽根はない。首振り機能の軸に、生首が乗っているだけだ。


「名付けて『自動警戒ロボ・ジェームズMk-IIマークツー』だ」

「ネーミングセンスも見た目も最悪ですね」

「ホラー映画の小道具みたい」

「機能は保証するよ。スイッチ・オン」


 センパイが扇風機のボタンを『弱』に入れた。

 ブゥゥゥン……というモーター音と共に、ジェームズMk-IIがゆっくりと左右に首を振り始めた。


 ウィーン……(右を見る)

 ウィーン……(左を見る)


「ひぃっ……こっち見んな」


 凛が青ざめる。

 だが、ただ首を振るだけではないらしい。


「カケル君、ちょっと殺気を持って近づいてみてくれ」

「殺気? こうですか?」


 俺はナイフ(工作用カッター)を構えて、生首に近づいてみた。

 すると。


 ガチチチチチチッ!!


 Mk-IIの顎が高速で開閉し、激しいクラッキング音を鳴らした。

 同時に、眼窩の奥に埋め込まれた赤いLED(理科室の備品)がビカビカと点滅する。


「うおっ!?」


 俺が驚いて後ずさると、Mk-IIは静かになった。

 ……と思った瞬間。


 ガチチチチチッ!!


 また鳴った。今度は凛の方を向いている。


「え、あたし何もしてないんだけど!?」

「凛君、今、何を考えていた?」

「……カップ麺のスープ飲み干そうかなって」

「食欲も『欲』だからね。敵意と誤認したのかもしれない」

「判定ガバガバじゃない!!」


 凛がMk-IIを睨んだ瞬間、また警報。

 今度は本物の敵意だったらしい。


「うっさい! 黙れ生首!」

「まあまあ。調整は追々やるとして」


 センパイが咳払いをして、説明を続けた。


「敵意や魔力を持った対象が半径5メートル以内に接近すると、内蔵した魔石が反応して警報を鳴らす仕組みだ」


 センパイが得意げに説明する。


「これがあれば、寝込みを襲われる心配はない。今朝のような『足音』にも、事前に対応できる」


 なるほど。

 見た目は最悪だが、実用性は高い。

 あの「コツ、コツ」という足音に怯えた朝を思い出す。これがあれば、少なくとも不意打ちは防げる。


「……悔しいけど、便利ね」


 凛が渋々認める。


「でも、夜中にトイレ起きてこれと目が合ったら、あたし、悲鳴上げて燃やしちゃうかも」

「それは困るな。耐火加工はしていない」

「じゃあトイレに行く時は声かけるわ。『今からトイレ行くからね、ジェームズ』って」

「それはそれでシュールだな」


 俺たちは笑った。

 こんな状況でも、笑えることが嬉しかった。


 センパイは満足げにMk-IIを部屋の入り口に向けて設置した。

 首を振り続ける焦げた頭蓋骨。

 シュールだが、なぜか頼もしく見えてくるから不思議だ。


「これで、今夜からは安心して眠れるな」

「そうですね。夢見は悪そうですけど」

「慣れるわよ、きっと。……慣れたくないけど」


 俺たちはMk-IIの監視下で、少し早めの休息を取ることにした。


 理科室での戦闘、そして新たなアイテムの獲得。

 俺たちは確実に強くなっている。

 一人では何もできなかった「残り物」が、三人で力を合わせれば、化け物にだって勝てる。


 ソファに横になりながら、俺はふと窓の外を見た。


 灰色の霧。相変わらずの風景だ。

 だが、何かが違う気がした。


 霧の向こうに、髪の毛ほどの細い線が走っている。

 黒い亀裂のようなもの。

 見間違いかと思って目を凝らしたが、それは確かにそこにあった。


「……センパイ」

「ん?」

「あの霧、なんか変じゃないですか。黒い線みたいなのが見えるんですけど」


 センパイが窓に近づき、目を青く光らせた。

 数秒の沈黙の後、彼の表情が初めて曇った。


「……空間の亀裂だ。次元の境界面が不安定になっている」

「それって、まずいんですか」

「わからない。だが、良い兆候ではないだろうね」


 センパイは眼鏡を直しながら、静かに言った。


「この世界と、向こうの世界。その境目が、少しずつ崩れ始めているのかもしれない」


 俺と凛は、窓の外の亀裂を見つめた。

 安息は、長くは続かないのかもしれない。


 Mk-IIが、カチカチと顎を鳴らしている。

 それが警告音なのか、ただの機械音なのか、俺にはわからなかった。


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