第九十五話 正しさ1
短いです。
セシリアさんに体を直してもらった後、ミーバさんが町の人達に掛けていた催眠が解けて大変なことになった。意識が戻ったら裸の男と女がいて、しかもそれが顔見知りだったなんて事態を思い浮かべれば、阿鼻叫喚の地獄絵図となったことは容易に想像がつくと思う。俺はあの時のことは思い出したくないので、これ以上の言及はしないでおくが。ちなみに、ミーバさんには逃げられた。
その翌日、ユーニスさんが教会に所属している証のバッチを調べたことで、微弱の催眠効果がある魔道具だったことが判明した。だから、一晩のうちに町の人達全員を催眠掛けられたらしい。教会に保存されている帳簿も調べたみたいなんだけど、何でも今回の一件は総本山の教会も一枚噛んでいるんだとか。それを聞いたレアはふーんって興味のなさそうな反応をして、セシリアさんもたいして驚いてなさそうだった。現在冒険者として活動いるセシリアさんが教会とどういう関係性なのかはよく分かっていないけど、聖女と呼称されている立場の人が教会と魔族でかかわりがあるという事実を知って驚いていないということは……協会って相当ヤバいところだったりするんだろうか。ユーニスさんの報告、聞かなかったことに出来ないかな。
「てか、つぎに会った時どうしようか」
SMプレイチックな迫られ方をされて以降、顔を合わせていないマリアンさんのことを思い浮かぶ。あんなことがあった翌日に顔を合わせたユーニスさんはめちゃくちゃ不自然なんだけど自然を装った接し方をしてきた。試しに、一緒にしよ、とあの時ユーニスさんが口にした言葉を呟いてみたら、死ぬほどに動揺していたからかなり詳細にあの時のことは覚えていると思う。マリアンさんのことをからかうのは可哀そうだし、何事もなかったかのようにするのが良さそうか。向こうとしては掘り起こされたくない記憶だろうし、そういう対応の方がありがたいだろう。
ちなみに依頼対象だったコリンさんはユーニスさんの友人とよりを戻すつもりらしいが、ユーニスさんはその友人にこの町で起こっていたことをしっかり伝えると言っていた。そうなると、ユーニスさん友人がよっぽどな聖人か割り切れる性格でもない限り復縁することはないだろうな。
「それにしてもガラガラだな……」
今日まであった出来事を思い返していたら、道行く町の様子が気になってぽつりと漏れる。もともと活気に満ち溢れる盛んな町というわけではなかったが、道行く人が一人もおらず店もすべて閉まっているなんてことはなかった。
この町がこんなことになってしまったのは、間違いなくミーバさんの催眠が解けたことが原因だろう。俺とユーニスさんだけが都合よく催眠に掛っていた時の記憶が残っているなんて奇跡が起きているとは考えづらい。ということは、この町の住人も記憶が残っている可能性はかなり高いわけで……。道行く人達全員が自分の裸、もっといえば乱れた姿を知られていて、この町に留まりたいとは思わないだろう。少なくとも俺だったら引っ越す。
今のところはうちのクランを構えている場所と違ってまだ老朽化は進んでいないけども、時間さえ立てばいずれ同じようになることは想像に難くない。
もうここに来ることはないんだろうな、なんて思いながら歩いているとセシリアさんと修道服を着た少女がいた。
「セシリーたちを気絶させたのは私なんだ!本当にごめん!」
頭を下げて申し訳ないという意思が伝わってくる謝罪をした修道服の少女――声からして恐らくライラさん。セシリアさんはそんなライラさんのことを感情が見えない表情でじっと見つめている。ライラさんは後姿なため、どんな表情をしているのかは分からない。
これは見てはいけない場面だと判断した俺は反射的に建物に身を隠した。
「謝る必要はありませんよ、ライラさん。ライラさんは操られていただけで何も悪くないのですから」
「……ッ!ごめんなさい……!」
聖母のような笑みを浮かべるセシリアさんが映ったのだろう。頭を上げたライラさんは一瞬だけ固まり、そして謝罪を告げこの場から逃げ出すように走っていった。
俺は今すぐにでもこの場から立ち去りたい気持ちでいっぱいになるんだが、誰もいないシーンとした町で足音を立てれば間違いなく気づかれる。だからと言って、あの場所だけ重力が倍以上になっていそうなところで聖母の笑みを浮かべて立ち続けているセシリアさんに、やあ、と何食わぬ顔で声を掛けることも俺には出来ない。仕方なくセシリアさんがどこかに立ち去るまでここに留まり続ける腹積もりだったんだが、なかなか動き出す気配がなくて。
「いるんですよね?出てきてください」
あの笑みを浮かべているセシリアさんは明らかに俺の方へ視線をフォーカスして警告する。千里眼かなんかを持ち合わせているのかと一瞬怖くなるんだけど……。多分、俺がセシリアさんとライラさんを見つけた時に、セシリアさんも俺のことを見つけていただけだとは思う。
母親が楽しみにしていた結構いい値段のアイスを勝手に食べて家族会議にまで発展したあの時の恐怖が甦り、すぐに自白すればよかったと後悔していた俺は、向こうが武器を突きつけてきているわけでもないのに両手を上げながら物陰から出た。
お読みいただきありがとうございます。
二、三日以内に次話を投稿しようとは思っています。
本編では言及していませんが、催眠を掛けられても記憶が残っているはずなのに教会に楯突く人がいなかったり教会が怪しまれなかったのは、反抗的だったり逃げ出そうとした人達は教会の立ち入り禁止の場所で性奴隷みたいな扱われ方をされて閉じ込められていたからです。




