第九十四話 操られる2
「ミーバ様……。問題ございませんよね?」
「問題ないわよ!あなたたちやってしまいなさい!」
ミーバさんの叫びに応じて、ずっと突っ立っていた少女たちが一斉にこっちへ襲ってくる。操られているだけの少女たちに手を出すわけにもいかないし、そもそもまともにやり合って勝てるのかも怪しい。なんてことを悩んでいたら、少女たちは突然動きを止め後ろに向いて、指示したミーバさんを取り押さえにかかる。
「なんで私の方に来るのよ!」
「学習しないなぁ。雑魚なんだから僕にかなうわけないじゃん」
金色の瞳をしたレアは見ているだけの俺でも腹立たしくなる小悪魔チックな笑みを浮かべた。少女たちに取り押さえられているミーバさんは信じられない、いや信じたくないという心情が見て取れる表情で喚きたてる。
「神父も外で遊んでいる者たちも私の事を助けなさい!」
「だから無駄だって」
振り向くと、外でヤッていた奴らは騎士が王にするようにレアへ跪いている。ミーバさんを神様のように崇めていた神父は体で台の形を作り、足を乗っけてきたレアに鼻息を荒くしながら踏まれていた。
圧倒的な力の差をまざまざと見せつけられたミーバさんは化け物でも見るような目をレアに向ける。
「……あなた何者なのよ?同族ではあるんでしょ?」
「まあ、一応。僕にはサキュバス族の血が四分の一だけ混じっているらしいよ」
「そんな半端ものなのにそれだけの能力を!?それも四分の一だけ!?」
取り押さえようとしている少女たちへの抵抗を辞めて萎んでいくミーバさん。今まで培ってきた自信や常識といったものがすべて崩れ去っていく過程のようだ。
「うーん、どうしようかなぁ……。そうだ!このキモイおじさんを返してあげるから、バトルをしない?」
「……何をさせるつもり?」
腐りかけていたミーバさんの瞳に光が灯る。こんな圧倒的に不利な状況で持ち掛けられる決闘など弄ばれるための舞台であることが分かっていないわけがないはずだが……小魚が食いついても切れてしまうような釣り糸なのだと勘づいていても希望を感じてしまったんだろう。
「おばさんが操ったキモイおじさんと僕のおもちゃで競わせるんだよ。このまま続けたって、おばさんに勝ち目なさすぎて可哀そうだしぃ」
「……っ!!!やってやるわよ……!」
苦々しい顔つきながらも吠えるようにレアが持ち掛けたバトルとやらに応じた。
このとき俺はめちゃくちゃ嫌な予感がした。ミーバさんが神父を操るのだとしたら、レアは誰を操るのかと。
「おい、まさか俺のことを――」
「僕の方は準備できたから、おばさんもほらこのキモイおじさん」
ふざけるな!と怒りが募っていたはずなのに身動きが取れなくなっていて、目の前にいるこの世に存在していいのかと存在を疑ってしまうような女神にかしずいていた。そして、体が勝手に動いてしまうだけでなく、怒りがどんどんと萎んでいきその女神に従いたいという気持ちが強くなっていく。ものすごく怖い。
少女たちから解放されたミーバさんは、女神――レアによって蹴り飛ばされた神父さんを見つめる。そして、神父さんはスッと起き上がった。
「あの男を殺してしまいなさい!」
「いけ!クラマス!」
こんなお遊びをしていないであのサキュバスをとっちめろと言ってやりたい、という意思とは裏腹に体はレアの指示に従って神父さんがいる方へと走り出す。神父さんとごっつんこして頭を抑えたい中、泣き言すら言えず取っ組み合いになる。
痛い痛い痛い痛い痛い!
催眠パワーのせいなのか神父さんによる馬鹿げた握力強く腕を握りつぶされそうになって、心の顔面が歪む。けど、俺の方もあり得ないパワーが出て神父さんのことを地面に叩きつけた。
「そのまま抑えつけちゃえ!」
レアの指示通りに神父さんを抑えつけようとするが、
「一度蹴り飛ばして距離を離しなさい!」
お腹を思いっきり蹴られて体が宙を浮く。神父さんは体勢を立て直してイーブンな状態に戻り、今度は殴り合いとなった。何度も致命打を与えられるチャンスはあったんだけど、レアが、そこはパンチだ!とか、蹴りを決めちゃえ!とか、的外れな指示をするせいで殴り合いが長引いている。
ノリノリで指示してくるレアに本来は苛立つべきなのに、喜んで命令に従う自分の体をぶん殴ってやりたくなる。
催眠に掛っているからなのか、それともアドレナリンが分泌されているからかは分からないが我慢が効く痛みで済んでいるのだが、この後のことを……考えるのはよそう。
「拘束しなさい」
ミーバさんが命令すると神父さんの周りが光で包まれる。そして神父さんは、ホーリーチェイン、と叫びながらこっちに手をかざすと、突然足元から光る鎖が現れた。
「クラマスもなんか魔法でやって!」
足は使えなくなったけど上半身は動くから向こうが攻めてきたところをカウンターすればいいだけなのに、レアの指示によって魔法を放ってしまう。ミーバさんに、防げ、と指示された神父さんによる聖なるバリアみたいなので防がれて、ムキになったレアがさらに魔法を放てと命令してくる。
俺の魔力量は並以下なため、むやみに魔法を連発すると……。
「もう!何やってるの!」
案の定ガス欠になってゼイゼイと息を吐く俺に対して、レアは駄々っ子みたいに不満を叫ぶ。
「向こうは魔力切れよ!やっておしまいなさい!」
こんなあからさまな隙を見逃してくれるはずもなく、神父さんが放ってきた光る矢がお腹にぶっ刺さる。
腹から血が噴き出し、俺はこんなくだらないことで俺は死ぬのか、と運命とやらに理不尽を感じた。
「クラマス!何でもいいから本気でやって!」
馬鹿!そんな指示すると……!
「白狼憑依」
いつもこの技を発動させる時は割れ物を扱うように慎重に動くことを心がけているのだが、レアに命令された俺の体は背を獣のように曲げて思いっきり力を込めて地面を蹴った。
光の鎖なんて容易に引きちぎりながらものすごい勢いで神父さんにタックルして、壁を突き破るどころか外に広がっている木々を何本もなぎ倒す。ようやく勢いが止まったと思ったら抱き着いていた神父さんは白目になっていて。
もう向こうのライフはゼロなのに、レアに命令された俺の体は止めを刺そうと腕を上げようとする。が、物理的に上がらなかった。腕が変な方向にねじ曲がっていて力が入らないのだ。
今度は起き上がろうとするんだけど、足にも力が入らなくて。
俺の体、どうなっているんだ……?
これから軟体動物みたいな体で一生を過ごさなければいけなくなるんじゃないかと嫌な未来図が浮かんでいたら、なんの拍子もなく激痛が走る。
……っ!!ぁぁぁあああああ!!!
意識を失うことも出来なくて、光の矢で貫かれたお腹から血がドバドバと流れていて、その流れる血を止めようと腕を動かそうとするとさらに激痛が走り悶絶する。
「クラマス……大丈夫?」
「マコトさん!?大丈夫ですか!?」
木々しか映っていなかったボケけている視界に、バツが悪そうな声を上げるレアと心配した様子のセシリアさんが現れた。
「なおして」
体にわずかに残っている力を振り絞ってそう呟いた。
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