第九十三話 操られる1
まずセシリアさんが棺桶みたいな台座で寝かされているのが意味わからないし、いい人そうだった神父さんが娘のように扱っていたセシリアさんを襲おうとしているのが理解できない。セシリアさんを取り囲むように立っているシスター服を着た女の子たちはなんか不気味だし、十八禁レベルの服を着た人とか翼と尻尾を生やしていて絶対サキュバスとかだからなぁ……。もういいよ、魔族がらみとかは。
いろんな要素がてんこ盛りの状況で鬱々としたため息を吐くのだが、冷静に現状理解をしようと務める。
いい人だと思っていた神父さんは扉が開いた音に反応して、とても穏やかな顔つきをしながらこちらを向いた。
「あなたは……セシリアのご友人でしたよね?」
「……はい」
セシリアさんを襲っているというどう考えても見られたら不味い場面なはずなのに、めちゃくちゃ丁寧な口調で尋ねてくる神父さんがこわい。気味が悪いみたいな曖昧なものじゃなくて、生存本能的なもの――肉食動物に狙われて逃げろと脳みそが指令を出してくるタイプの恐怖が襲ってきていた。逃げ先になる後方を確認するが、振り向いた先の光景はアンアンと叫び声が聞こえてくる非日常の塊で。
これどうするか……。セシリアさんを置いて逃げるわけにもいかないし。
そもそも逃げるなんて選択肢を取らせてくれなさそうだしな、と思いつつ頼りの綱であるレアの様子を確認してみると、目を細めて部屋の中を確認している。その落ち着いて物事に対処しようという姿勢に頼もしさを覚えた。
「ミーバ様、ここに訪れた者たちは全て催眠に掛けたと聞いていたのですが?」
「女の方がいなかったから。ただ、そこにいる男はわざと掛けなかったのだけれど……もしかして、ゲイなの?」
訝しげに見つめられて、違いますぅ、と小さな声で答えながら気持ち一歩下がる。
絶世の美女と評しても誇張にはならないユーニスさんとマリアンさんだけに催眠を掛けて、俺だけそのままにしていたことの悪辣さに、ミーバとか呼ばれている奴はそうとう性格が悪いことはなんとなく察する。
「ふぅん。じゃあ、少しだけその気にさせてあげようかしら。ちょうど隣にいい標的があるみたいだし」
やっぱりそういう展開になるよなと悪態をつきそうになったところで、頭がぼおッとしてきて息子に血が巡ってくる。体が横に向いて、アンバランスで背徳的な気分を呼び起こさせるピンク髪の少女が映った。背は小さいのに胸だけが大きく、顔はとてもよく整ったベビーフェイス。太っているわけではないのだが肉付きはよく凄く柔らかそうで、間違いなく抱き心地がいいことが確約されている。
特にでかくて柔らかそうな部分がめちゃくちゃ気になり、危険信号を発する理性が拒もうとしたのだが、欲望に負けてその部分に右手を伸ばして触る。揉むとクッションとか比にならない柔らかさ、弾力もしっかりある触り心地で、物寂しい左手もこの感触を味わいたくなるのだが。
「潰すよ」
凍えそうなほどに詰めたい声色で一言。お山が映っていた目線をちょっと上げると、虫けらに向けるような目をしたレアがいて。
「すみません!」
熱に浮かされていた頭が急激に冷えこんで、目をつぶり命乞いをする勢いで頭を下げながら右手をお山から放した。
半目で開くと、ふっ、とめちゃくちゃバカにした笑みを浮かべたレアがいる。
馬鹿にされたことにちょっとイラっとするが、やったことを考えるとそれだけで済んでいるだけありがたい。
「催眠が解けた!?聖女はともかく、なんでただの雑魚が私の催眠が効かないの!」
「おばさんが雑魚だからじゃないの?」
「おばっ!?私ほどの美貌に向かって!それにお母さまを除けばわたしが一番催眠能力に長けているのよ!」
図星を突かれたように騒ぐミーバさんをレアはおばさんと評したが、別におばさん感はなく大人の色気がある美人さんだ。ミーバさんが動揺しているのは、魔族って見た目通りの年齢じゃなかったりする部分が関係していたりするんだろうか。
一番の催眠能力と口にしていたが、地元じゃ負け知らずみたいな感じなのか本当に魔族の中でもトップレベルなのかが気になる。それによって話が変わってくるわけだし。
レアからふーんという全く信じていなさそうな返事をされたミーバさんは、敵愾心をむき出しにした表情で。
「なら私の本気を見せてあげる!後悔しても遅いわよ!」
俺の体は勝手にまたレアの方に向き直り、躊躇なくお山の方に手が向かっていく。
さっきは意識が朦朧とさせられて理性が効かなくなる感覚だったのだが、今回は完全に自分の意志とは無関係に体が動いていた。
やめろって!次こそ潰されるぞ!
内心汗だらっだらにさせながらお山へと手が伸びていく光景を眺めていると、突然レアの瞳が金色に光り出す。その瞬間、レアのことを今までであった中で圧倒的な美女に見えて何を差し出しても守らなければならない存在として映るが、しばらくするとそんな感情は消えうせる。
「また催眠が解けた!?それも主導権を奪われて……!」
「だからおばさんは雑魚だって言ったじゃん」
元通りの瞳の色に戻っていたレアは煽る。そんなレアに恐る恐る目を向けたミーバさんは自分の根底を否定する存在を目撃したかのように顔を引きつらせた。そして、そんなことはありえないといった様子で頭を振る。
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