第九十二話 小さな教会
遅くてすみません。
次は早めに投稿するつもりではあります。
「うわぁ、やってんな」
様子のおかしかったユーニスさんとマリアンさんを誰にも見つからないような木陰に寝かせた俺たちは、喘ぎ声が聞こえてくる広場へと向かった。すると、案の定大乱交が起きている。
男と女が裸でぶつかり合っているのだが、人間同士ではなく獣で混じり合っているように映った。そのはずなのに裸体の女性が喘ぎ声を上げ生々しい粘液の音で興奮してしまいそうだ。隣にいるレアにそのことを察せられたくなくて、目の前で起こっているのは大根とニンジンが子孫を残そうとしている最中なのだと脳みそに言い聞かせる。
そんな意味の分からない妄想までして平常心を保とうとしているのにレアの様子はいたっていつも通りで、こんな非日常的な出来事を何度か経験したことがあるのではないだろうかと思ってしまう。いくらうちの非常識なクランメンバーたちとはいえ、こんな光景を目撃したらまともではいられない……あんまり慌てふためく様子は想像できないな。
「あそこが怪しいと思う」
クランメンバーたちにせめて俺の想像上だけは恥ずかしそうに手で顔を隠してくれと懇願していたら、レアがポツンとたっている建物へ指差す。見た目的には教会っぽいが、コラプトに建っているものと比べるのがおこがましいほどこじんまりとしていた。
「なんで怪しいと思うんだ?」
「え?そりゃ、こんなところにあるのはおかしいでしょ」
当然でしょ、みたいな目を向けられる。
確かに俺もそういう理由で怪しいとは思っていたけどさ。超常的な直感かなんかで察したんじゃないかって思うじゃん。まあ、勝手に期待した俺が悪いんだけど……。
なんか釈然としない、そんな不満を抱いていたら、レアがくんずほぐれつしている人たちを無視するどころか踏んづけながら教会へと向かっていく。こんなところでおっぱじめているような奴らだから、襲ってくるのではないかと思ってヒヤリとするのだが、踏まれるのもお構いなくヤリ続けている。そういうプレイだと勘違いしているんだろうか?
……俺もここを通っていくのか?
あの教会に向かうにしてもヤっている奴らを迂回して行きたかったんだが、それだとドンドンと進んでいくレアに追いつかない。なんでなのかは分からないけど俺たちからのアクションは反応するわけじゃなさそうだし、と言い聞かせて、ヤッている人たちの隙間を縫って歩く。
あっ!あっ!
そんな声が聞こえて反射的に下を向くと、気持ちよさそうに喘ぎ声を上げる裸の女の人とエクスタシーを迎えている裸の男の人の一物が映って。なんでこんなものを見せられにゃならんのだ、と顔を歪ませていたら、今度はズボンに男の人から噴射された液体が掛かる。
勿論のこと気分は最悪のサイアクで、でもレアはどんどんと先に進んでしまっていて。絶対に下を見ないという強い意志の元、空に顔を向けながら何かを踏んづけてぶにゅッとしたりとか、膝にぶにゅッとした何かが当たったりとか、ズボンになんかがドバドバドバと掛かりまくっていることとかを一切気にしないようにして教会の前までたどり着く。
レアはご丁寧に俺のことを扉前まで待ってくれていたようで。そこで俺はちょっとした疑問が浮かぶ。
「お前、男の人が裸でいるのに平気なのかよ」
「どういう意味?」
「だって、男の人が苦手だから、その、金的蹴りをかますんだろ」
「なんで僕がサルのことが気にしないといけないの?」
この一言で男のことをどういう風に見ているか察した俺は黙り込み、レアは教会の方へ向いて扉を開いた。
扉の先には、結構大きい女神像の手前にある台座の上でセシリアさんが寝かされている。そんなセシリアさんを囲むように立っている生気のなさそうな顔をしたシスター服を着た少女たち。コラプトの教会で見かけた神父は頬を腫らしながら気持ち悪い笑みをしてセシリアさんに顔を近づけており、大事な部分だけ隠れた服で黒い翼と黒い尻尾を生やした女性が性根のねじ曲がっている奴だけがするにやにやとした笑みを浮かべていた。
「なんか思っていたよりもヤバそうじゃないか!?」
木で作られている窓。子供の足で走ってもすぐに端から端にたどり着くような礼拝堂。そんな狭いところなのに、微笑むような表情の立派な女神像がたっている。見上げる天井は感慨深く、懐かしさがこみあげてきて……私が求めていた場所だった。
「ああ!よくやくセシリアもわがものに出来るのですね!」
少し前まで本当の父のように慕っていた男が、瞳をらんらんとさせながら大仰に両手を上げていた。私を取り囲むように立っている幼いころからの友人たちは目が映ろで、鼻をつまみたくなる不快なニオイがする。そしてそれは一番仲の良かったライラも同様で……。
「初めて私の種子を宿すのはセシリアがいいとずっと思っていたのです。神に愛されているとしか思えない容貌、触媒も必要なく一瞬で怪我を治療してしまえる神の御業としか思えない力……!そんな奇跡の子に子供の作る力がない私が孕ませる!ミーバ様!私にはそれができるのですよね!」
「ええ、もちろん」
魔族、それもサキュバス族の女に父のように慕っていた男はかしずく。後ろに本来かしずくべき女神像があるのに。だけれども軽蔑はしなかった。
ああ、この人も神を信じられなくなったのですね。
神父は信仰する神よりも有益なサキュバスの方がよほど魅力的だったのだろう。そして、生殖能力の乏しい自分が才能に恵まれた神の子――神父の頭で勝手に想像している私に自分の種子で子供を産ませることがとても意味のあることに感じている。だとしたら憐れだ。
そんな憐れな男は顔を近づけてきて、思いっきり頬をひっぱたいてやった。憐れであったとしても、私は慈悲を与える女神ではないから。
「な!?ミーバ様、魅了されているのではないのですか!?」
「そのはずよ……。恐らく、私の魅了を一部無効化させてしまうほどの力があるのかも……」
サキュバス族の女はすました顔をしているが、一瞬だけ口元を歪めていた。
頬を抑えて目を見開いている憐れな男は起き上がり、私を見て嬉々とした表情をする。
「ミーバ様の魅了が完全には効かないだなんて!?ああ!やはり君は神の子だ!!! 」
感涙する憐れな男を見て、嫌悪感と共にやっぱりここに来なければよかったと後悔する。神を信じられなくなって、人を信じられなくなって……。この町だけは……この教会だけは……綺麗で素晴らしくて美しくて。そういう記憶のままにするべきなのではないだろうかと、ユーニスさんの口からコラプトの依頼について聞いたときに思ったはずなのに……。
自分の愚かしさを悔いている合間に、また憐れな男の顔が迫ってきていて、それでいて私の体は動かない。
……やはり、私は汚される運命なのですね。
一度目は弟と自分の手で切り抜けた。二度目はカームアルカディアの方々に助けられた。でもきっと三度目は……。
「なんか思っていたよりもヤバそうじゃないか!?」
開くはずのない扉が動き、白濁汁で汚れ間抜けた顔をした黒髪の青年が現れた。
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