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第九十一話 ありえないシチュエーション


 俺たちは正門の外にも続いていた足跡を追っている。木々や背の高い草が生えていて、倒木、落ち葉が散らかっているような獣道で、三十分近く歩いていても何も見当たらないことから俺たちを驚かすための演出なんじゃないか、みたいなよく分からないことを考え始めていたところに叫び声が響いた。

 それは痛みから引き起こされたようなものではなく、女性が自身の体を商売度具として売り込んでいる通りから聞こえてくる類のものだった。

 

「何の声でしょう?」


 純朴そうな顔をしたマリアンさんは首を傾げる。ユーニスさんの様子を確認してみると、頬を真っ赤に染めながら十八禁サイトのURLにマウスのカーソルを持っていく男子中学生のように体が前のめりになっていた。


「何なんでしょうね、ユーニスさん」


「へ!?それは、ええっと……」


 自分の頬が上がっていることを自覚しながらユーニスさんに質問すると、返答はしどろもどろ。

 そんな反応を面白がっていたら、きゃあ!?とマリアンさんから悲鳴がした。悲鳴を上げていたマリアンさんは両手で顔を隠していて、視線を向けていたであろう先には小柄な女性が幾人もの男から一物を穴という穴に突っ込まれていた。

 今までずっと黙り込んでいたセシリアさんが、目の前にある出来事が理解できていない、そんな顔をしながら気の抜けた声で。


「ナンシーさん?」


「ちょっと、何しているの!アナタたち!」


 ユーニスさんが顔を背けて叫ぶのだが、よろしくしている奴らはこっちを見ずにヤリ続ける。やられている女性――おそらく鍛冶屋のヴィンスさんの奥さんであるナンシーさんは、嫌々という様子ではなくむしろ楽しんでいるように見えた。男たちは教会について調べるために訪れたお店で見た顔ぶればかり、ということはセシリアさんの知り合いもいるわけで……。セシリアさんは首を小さく横に振りながら名前を呟き、足から力が抜けたかのように地面に座り込んだ。

 そうやって性欲をぶつけあっているのはそいつらだけじゃなく、いたるところで好き勝手している。

 そんな退廃的で非日常な光景に唖然としていたら、首あたりから鈍い痛みが走った。


「やっぱりこうなるのね」


 薄れゆく意識の中、諦念の色が含んでいるような声が聞こえた。





「マコトぉ、起きてぇ」


 安っぽいアダルトビデオみたいな甘いささやきで目が覚める。目の前には魔物に服を溶かされた時に見た黒のレースの下着を身に付けているユーニスさんがいて、ぎょっとする。  

 興奮するといったことはなく、ユーニスさんのことはむっつりっぽいなとは思っていたけれども、こんなところで俺相手に素肌を見せつけるはずがないと恐怖を覚えた。

 夢か現かも判断がつかない中、とにかくこの状況はおかしいと逃げ出そうとするのだが、身動きが取れない。腕と足は縄で縛りつけられ、体も椅子に縛り付けられていたのだ。

 逃げ出すことは出来ないと悟った俺は、明らかに様子がおかしいユーニスさんにコンタクトすることを選ぶ。


「あの、ユーニスさん。なんでそんな恰好をしているんですか?」


「あ、起きたんだ。じゃあぁあ、一緒にしよ?」


「……もしかして、最近からかっていることを怒っているんです?だったら謝るのでこれ(ほど)いてくれませんか」


 ユーニスさんに言葉が一切届いていないのか、俺の願いを無視して抱き着いてきた。

 正直最近はユーニスさんのことを、女性という性別からユーニスさんという性別で認識していたはずなのに、甘ったるい声色でささやきかけられながら抱き着かれて俺の息子はいきり立つ。さっきまで恐怖を覚えていたのに……相手はユーニスさんなのに……。触れている所がとにかく柔らかくて……忘れていたけれどもユーニスさんは顔、スタイル共に満点に近い美女であることをまざまざと分からされる。

 

 バシーンッ!


 ユーニスさんの色香から目が覚めるような痛みが背中に走り振り向くと、手にした鞭を地面にいい音をさせながら叩きつける白い下着のマリアンさんがいた。


「ご主人様に躾てもらっている最中なのに、何を惚けているのだ!」


「ご、ご主人様?」

 

 性格が百八十度反転したマリアンさんに困惑を覚えていると、また鞭で勢いよく背中を叩かれる。蔑むような鋭利な瞳と堂々とした立ち振る舞い……俺は看守長時代のマリアンさんを思い出す。

 看守長として振舞っていたことが原因なのか、そもそもその素質があったのかは分からないが、今のマリアンさんには一切の違和感がない。

 俺には蔑まれ叩かれることに喜ぶ性癖はないはずなのに……身震いした。


「ねえぇ、こっち見てぇ」


 ユーニスさんが俺の顔を自分の方に向かせる。圧倒的な顔面偏差値の暴力を振りかざしながら、瞳を閉じて唇を尖らせながらこっちに近寄ってくる。


「おい、ご主人様から褒美をやるからこっちを向け」


 今度はマリアンさんが俺の顔を自分の方に向けさせる。あんなに偉そうに鞭を振るっていたのに、恥ずかしそうに頬を染めながらユーニスさんのように瞳を閉じながらこっちに近寄ってきて……。


 なんなんだよ、この状況!?仮に、二人が俺に好意を持っていたとしてもこんなのはありえないだろ!

 こんなの、こんなの、


「絶対にあとで気まずくなるだろうが!!!」


 俺のこんなおかしな状況で関係を持ったら収拾がつかなくなってしまうという危惧が天に届いたのか、様子のおかしかった二人はぱたりと地面に倒れ込む。


「よく手を出さなかったね」


 声がした方を向くと、電車でやんちゃしていそうな男が杖を突いたおばあさんに席を譲ったところを目撃したかのようなに目をくりくりとさせたレアが立っていた。


お読みいただきありがとうございます

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