第八十九話 コラプトの信徒
「どうもこんにちは」
あの後、ユーニスさんに徹底的に無視されるという一幕がありながらもマリアンさんの意見を受けて教会を調べてみようという話になった。そして、聞き込み調査の一環としてこの町に来たばかりの時に訪れた鍛冶屋の扉をセシリアさんと共に叩いたわけだ。扉を開き、セシリアさんが挨拶をしたタイミングで、俺は小さい声で、どうも、と頭を下げた。
「おう。セシリアちゃんと……その友達だったな。いらっしゃい」
セシリアさんが可愛いのか、この工房の主であるドワーフ――ヴィンスさんは孫が訪ねてきたときのおじいちゃんみたいににんまりとしている。聖女という地位がありながらも容姿もめちゃくちゃ整っていて、さらには礼儀正しい挨拶をするようなセシリアさんが可愛く思う気持ちは分からなくない。
「今日はどうしたんだ?」
「実は自分の方がお願いありまして。その、武器を作って欲しいなと」
セシリアさんが何か喋る前に俺の方から話題を振る。セシリアさんに教会のことについて、それも良くない噂があるのではないかと聞いてもらうのは酷だと思い、話の主導権を握ることにした。事前に話し合っていたわけではないため、セシリアさんは目を丸くしている。
ヴィンスさんは俺のことへ目を細めてじろじろと見つめた。何かを測られているような気がする。冒険者としての腕前、セシリアさんの友人としてどうなのか、といったことを。
「なんで俺に打って欲しい?」
「セシリアさんが信頼している鍛冶屋さんなら信用できるかなと思いまして」
「ふん?で、本当の所は?」
「……セシリアさんの友達ということでお安くならないかなぁ、なんて」
「お前なぁ。まあ、素直な奴は嫌いじゃないが……。少しぐらいはまけてやる」
ちょっとあきれられているような気もするが好感触みたいだ。突然訪れて教会のことについて聞くのは変だから話のとっかかりとしてのお願いではある。けど、セシリアさんの話を聞く限りだとこのドワーフは結構腕が立つみたいだし、割引をしてくれるなら素直に武器の制作を頼みたいという腹積もりもあったりする。
どんな武器を頼みたいのか、軍資金はいくらあるかという質問に答え、ちょっと待っていろよと告げて工房へ去っていくヴィンスさんの右腕の袖にコリンさんと同じ教会のバッチをつけていてちょっとした違和感を覚えた。
「ヴィンスさんって教会に入信しているんですね。個人的なイメージでしかないんですけど、職人気質というか自分の力で生きていくってタイプだと思っていたので意外でした」
「いえ……。少なくとも三年前は入信していなかったですし、ヴィンスさんに対しては私もマコトさんと同じ印象を抱いていました……。そもそも私がこの街にいた頃はあのようなバッチなどなかったですし……」
額にしわを作り唇に右手の人差し指を当てるセシリアさん。人の良いセシリアさんが親しかった人を疑い、さらには自分の育った教会についても疑っているのだろうか?だとしたら、この調査に突き合わせていることが申し訳なくなってくる。
「まあ、人なんてとつぜん心変わりをするような生き物だし、たった数年の間に信心深くなることがあってもおかしくはないですけどね。自分たちは教会に何かあるんじゃないかって疑っているわけですから、入信したことになにか不審な理由があるんじゃないかって思っちゃうところはありますよ」
「それは……そうかもしれないですね」
人を安心させるようないつもの笑顔を浮かべた。俺の罪悪感を察して、空気が悪くならないようにしてくれたのだろうか。そんな気が回るタイプではないと思っていたんだけど。
結局セシリアさんって天然なのか狙っているのかどっちなんだろうとか考えていたら、ヴィンスさんは剣がたくさん入った箱を抱えて現れた。そして、その箱を地面に置き三本の剣を取り出してカウンターに並べる。
「どれがいい、小僧」
「へ?ああ。……この真ん中にある奴がいいですかね」
正直どれも同じように見える――柄とか刃の長さとか違いはあることは分かるんだけどだからなんなんだと表現した方が正しいか、そんな感じなのでとりあえず適当に指を差す。ヴィンスさんはこんもりとあるひげを撫でながら選ばれなかった二本をしまい、新しく二本の剣を取り出した。
握ってみろ、剣を振ってみろと言われてその通りにするのだがやっぱり違いが分からず、なんかこれがいいのかもしれないなという結構真剣に考えてくれているヴィンスさんに申し訳なくなるような判断基準で選んでいく。
「そういえば、今日もナンシーさんはいらっしゃらないのですね?」
「あ?……今日もあいつはいないぞ」
「そうなのですか?久しぶりにナンシーさんとお話がしたいと思っていたのですが……。いつ頃お会いできますか?」
「あー、あいつにはかなり遠出の出張を頼んでいてな。セシリアちゃんがここにいる間は帰ってないかもな」
「そうなのですか……残念です」
合間にセシリアさんとヴィンスさんでそんな会話がありながら、どんな剣にするかが決まる。ちょっと値は張ったが、オーダーメイドだったらこんなものだろう。
用事は済んだので鍛冶屋から去り、そういえば教会のことについて聞くのを忘れたな、でも信者のヴィンスさんに聞いても仕方がないか、なんて思いながら次は雑貨屋に向かう。
そうやっていろいろな店をまわり、空が橙に染まってところでレア、ユーニスさん組と合流する。
レアはなんでついてきたんだろうと疑問になるような相変わらずのつまんなそうな表情で、ユーニスさんも似たような感じだ。ここで合流まではユーニスさん得意げな顔をしているんだろうなと勝手に想像していたんだけど。予想に反して仏頂面のユーニスさんは、期待なんて一切なさそうな声色で俺たちに問いかける。
「何か収穫はあった?」
「核心に触れるような話はお店の人達からは聞けなかったですね」
「……そう、やっぱり」
「ただ、今日訪れた店の人達はぜんいん教会の信者でした」
「え?」
意表を突かれたような表情のユーニスさん。そう、今日訪れた店の従業員は全員あのバッチを身につけていたのだ。だから、ユーニスさんの所も同じなのかなと思っていたんだけど……。
「そちらが回ったお店の方々に入信している方はおられなかったのでしょうか?」
「いや、みんなあの教会の信者だったよ。あのバッチをつけてたし」
「え!?」
「……もしかして気づいてなかったの?」
レアはめちゃくちゃ驚いた反応をするユーニスさんに対して首を傾げる。煽りとかでもないマジモンのレアの問いかけ、さらにはバッチをつけていることに気づいていないのが自分だけだったのがかなり効いたのか、ユーニスさんの顔はひきつっていた。
「も、勿論気づいていたわ!ただ試しただけよ!」
だれのことを試していたのだろうとイジワルで聞きたくなるような見栄を張っていることがミエミエの遠吠え。どう反応したらいいのかと迷っていたら、レアとセシリアさんも同じ心境なのか沈黙している。
そのうち、ユーニスさんの顔は熟れたトマトみたいに真っ赤になってきて、このまま黙り込んでいるのは面白いのと同時に可哀そうな気がしてきた。
「ということは、自分たちが訪れた店の人達はすべて入信しているってことになりますね」
「そうなりますね。教会には何か重大な秘密があるのかもしれません。それに気づいていたとは、ユーニスさまはとても目端が利いて凄いです」
「…………ふ、これ如きのことでほめ過ぎではないかしら」
しばらく目をぱちくりとさせていたユーニスさんは、ぱさっ、と髪を右手でかき上げた。どうしてこの人はそんな自信満々でいられるのだろうか?天狗になっているその面の鼻でもつまんでやりたくなるが、調子に乗ってくれた方が扱いやすいからユーニスさんはこれでいいのかもしれない。
容姿と戦闘力、天は二物を与えても三つ与えたりはしないのだなと思った。
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