第八十五話 疑われる
「それで、コリンの調査結果はどうだったのかしら」
下から風に吹かれているかのように紫の魔力でコーティングされた髪をたなびかせるユーニスさんは腕を組んで、俺へ試験期間中に遊び惚けているバカ息子にでも向けるような目をする。肌に触れるような風しか吹いていないはずなのだが、この不自然な髪の盛り上がりは何なんだろうか。ユーニスさんが超ユーニスへ覚醒する前触れだったりするのかもしれない。
「ねえ、答えてくれるわよね?」
「……あ、はい」
俺がくだらないことを考えているのを察したのか、ユーニスさんは三人ぐらい殺ってそうな鋭利な目つきになる。
ライラさんが教会に入っていった後、コリンさんの調査が目的であることを思い出したんだけど急いで教会に戻ったころにはコリンさんはいなかった。このやらかしを解決する方法なんてないから仕方なくセシリアさんと一緒にここに戻ったら、仁王立ちするユーニスさんが夜叉のような笑みで出迎えてくれたのだ。
でもバレているわけがないよな……。
途中でコリンさんの監視を解いたという事実はあるがユーニスさんにそのことを分かるはずがないので、眉間にしわが寄っていることを不穏に思いつつも誤魔化すことにした。
「特に変わった様子はなかったですよ」
「そう……。可愛らしい女の子と楽しそうにしていたのによくコリンのことも観察していたわね」
……まずったぁぁぁ!?外に出たところをみられていたのかぁ!?
体が硬直して緊張が全身に走る。ひきつっているであろう顔を瞬時に直せたとは思うのだが、いくら後衛職とはいえSランククランマスターの動体視力を駆使されたら動揺を悟られているだろう。
多分だけど、可愛らしい女の子というのは恐らくライラさんのことで、外に連れ出されたところを見られたんだと思う。俺たちが調査してやることがないんだから別の所で休憩してればいいのに、とユーニスさんの生真面目さが憎らしくなる。レアはどっか行っているわけだし。
「その可愛らしい少女、名前はライラさんって言うんですけど、その人と外に出るまではちゃんとコリンさんの動向を確認していましたよ」
「そう、つまり一部始終は見ていなかったってことは認めるのね」
「……はい」
ここで嘘をついても現場を抑えられているので頷くと、ユーニスさんは考え込むそぶりを見せる。そして、相も変わらず厳しくて心の内を見透かそうとするような瞳をこっちに向けた。
「それも本当なのかしら?初めから可愛い女の子に粉掛けようとしてたんじゃないの?」
「いやいや、自分はそういうタイプじゃないですから」
どの角度――それこそ月から望遠鏡で覗いたとかいうレベルじゃないと俺がそんなプレイボーイに見えるはずがなくないか、と思ったんだけど。ユーニスさんの向ける視線がセシリアさんだったことで、うちのクランメンバー全員が一応目美しい女性であることを思い出し、とんでもないハーレム野郎だと勘違いされていることに気づく。……なにもしてなくても迷惑な奴らだ。
「マコトさんを責めないで挙げてください。私のわがままだったんです」
ハーレムを作るとしてももう少し侍らせる対象を選ぶわ!とツッコミを入れようか迷っていると、思いつめた様子のセシリアさんから助け舟が来る。
「わがまま?」
「はい。先ほどコリンさんの調査で訪れた協会が私にとって久しぶりな中、幼いころから一緒にいた友人――ライラとお世話になっていた神父さんに再開したのです。そして、私がお世話になっていた神父さんと空白の時を埋めるように話を咲かせていた間、ライラが気を利かせてマコトさんと一緒に外に出てくれたんです。だから、マコトさんは女性に好意を寄せていたわけではなくて、私に気を遣ってくれていたんです」
「……本当なの」
「まあ、そんな感じです」
俺はライラさんに連れられるがままにって感じではあったんだけど、わざわざ心証を下げるようなことを伝える必要はないだろう。
ユーニスさんは眉間にしわを寄せ難解なパズルに挑戦しているみたいな顔をして、しばらくしてからため息を吐いた。
「それで、コリンにおかしな点はなかったのね?」
「他の信者と同じく女神像に祈っていましたね」
「……教会に何かあるとは思ってはいなかったからまあいいわ。……話が変わるのだけれど、あなたたちが教会にいた間、コリンはある商会を使っていたの。しかも、リニューアルオープンの所を」
「はあ」
ゲームの裏コマンドを説明する小学生みたいに得意げなユーニスさんの言いたい意図がつかめず空返事してしまう。セシリアさんもぽかんとしていた。
「怪しいと思わない?」
「怪しいと言えば怪しくはあるとはおもいますけど……」
これ以上の情報が出てくる様子もなさそうなところを鑑みると、リニューアルオープン――つまり最近できたお店だからという理由だけ疑っているみたいだ。なんとなく確証のない自信なんだろうなというのは察しがついていたけれど、スマホに女性と連絡した履歴があるから浮気をしているのでは、と疑っているお嫁さんレベルの根拠で馬鹿馬鹿しくなる。
「じゃあ、そこを調べてみましょうか」
が、他に調査することがないという事実があるため、ユーニスさんが欲しているんであろう言葉を送った。




