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第八十六話 怪しいらしい店1


 クラン協会や宿といった人々が集まる中心地から少し外れたところまで歩くユーニスさんについて行くと、手を広げた豚が描かれた看板を屋根の中央に設置されているお店があった。他の並んでいる店を個人で経営しているお弁当屋さんくらいの大きさとするなら、その店は薬剤師が常駐しているスーパーくらいの大きさだ。

 看板に描かれている豚に既視感があるなぁと首を傾げていると、店の前にいる母親とその母親と手を繋いでいる男の子、その男の子と同じくらいの背丈をしていてスーパー定員の制服っぽい服を着た子豚のマスコットが視界に入る。

 マスコットは青と緑の制服を着ていること、青いショルダーホルスターみたいなものをつけていること以外は看板に描かれている絵と同じで、身動きを取っており中身が存在しているようだ。そのマスコットは風船を蹄で上手いこと掴んでいて、男の子は恐る恐るといった様子でその風船に手を伸ばそうとした。


「チャド!やめなさい!」


「奥さん、構いませんよ。ほら、坊や」


 母親は子供が風船に伸ばそうとする手をはたき落とすと、マスコットは愛らしいいで立ちと反した無駄なイケボでその子供に風船を渡す。

 息子さんはやったーと大喜びをして、母親はすみませんと頭を下げながらお店を一目して入っていった。


 ……この見た目とこの声、ゴールトン商会の取締役の部屋みたいなところで偉そうにふんぞり返っていた豚の魔族っぽくないか?

 いや、こんなところにいるはずが……。だって……でもゴールトン商会にいた魔族達は縛り上げただけで、看守長でありなおかつゴールトン商会の娘だったマリアンさんとかサルベージに任せたわけだから、こうやって自由にしている可能性はあるのか?

 だとしても、この町にいるのは変だけど。


 他人の空似?そもそも、人間があんな着ぐるみを着れるわけがないか?なんて思っていたら、そのマスコットはこっちを向いていた。


「おや、わが宿敵ではありませんか」


「……やっぱり、ゴールトン商会で魔法剣と魔法を使ってきた豚?」


「ええ。ですが、いくらわが宿敵とはいえ豚呼ばわりは止してください。私のことはアロンと」


 豚のマスコット――アロンさんは眼光を光らせて、執事とかがやりそうな仰々しい礼をする。この妙に威圧感のある丁寧な言葉遣いとプライドの高さは間違いなくあの時戦った魔族の豚に間違いないだろう。


「あ、はい。アロンさん。……その、なんというか……どうしてここにいるんですか?」


「その質問の意図は、捕らえられて身動きできない立場であるはずなのに雑用がするような恥辱にまみれた役目をしていることなのか、ゴールトンにいるはずの私がなぜこのような恥辱にまみれたことをしているのか、どちらでしょうか?」


 平然と様子なんだけど、言葉の節々――というか喋っている内容からして今の立ち位置にかなり不満を抱いているのが見受けられる。

 マスコットキャラクターみたいな仕事を被りものもなしに任せられていることがプライドを傷つけているのかもしれない。俺がドーピング剤を使ってようやく渡り合えるような実力者であり、なおかつ経営者としてふんぞり返っていた身であり、さらにはこのプライドの高さを考慮したら不満を抱くのも当然のような気がしてきた。

 突然暴れ出したりなんてことはなさそうだけど、不用意に神経を逆なでしないように言葉を選ぶ。

 

「その、どっちも聞きたいかなぁ……なんて」


「……前者はゴールトン商会の下に着くことを認めた魔族は商会で働くことになったら、後者はゴールトン商会がこの町に支店を開いたから。これでよろしいでしょうか」


「あ、はい。ありがとうございます」


 お礼を告げる。俺はさっきから気になっていたアロンさんの青いショルダーホルスターのようなものが目に入る。よく観察すると手錠のような形状をしていて、恐らくイザベル製の魔力を封じる手錠をピンク色に塗装したものなのではないだろうか。

 アロンさんは顔を下に向け小さく首を振ってから、俺のことをにらみつけた。


「あなたは私を下したのです。そう卑屈な態度を取らないでください」


「いや別に、そんな卑屈にはなっているつもりはないですけど」


「では先ほどの、どっちも聞きたいかなぁ……なんて、という発言は自身の威厳を損ねない立ち振る舞いだったのでしょうか?」


 ちょっと腹立つくらいの出来な物まねを披露しながら問い掛けられる。


 だって、なんか逆らえない雰囲気を出しているというか、思わず頭を下げちゃうような威厳があるから……。


 そんな言い訳を口にしたら、機嫌を損ねるだけなのは容易に察しがつくから。


「分かった。……これでいいか?」


「それでこそ、わが宿敵です」


 こいつめんどくせー。


 満足そうに頷くアロンさんを見てそんな風に思った。


「旧知の間柄をさらに強固にすることはとてもいいことだとは思うのだけれども、少しいいかしら?」


「何だ、貴様……話を聞きましょう」


 魔力を封じられていなかったら魔法剣を抜いていそうなほどの剣幕だったアロンさんは、話しかけてきたユーニスさんに視線を向けたところで剣呑とした雰囲気を収める。

 ユーニスさんがSランククランのクランマスターであることを知っていたのか、はたまたにじみ出る強者のオーラ的なものを感じ取ったのか。何にしても、アロンさんは自分が認めた存在以外に耳を貸さないタイプぽいことは感じ取る。

 そんな扱いづらそうな豚を見て、よくマスコットとして起用することができたな、とアロンさんにこの仕事をやることを認めさせた人に感心する。

 

「オーナーに聞きたいことがあるの。取り合ってもらえるかしら」


「ふむ……。案内しましょう」


 アロンさんは秘密の隠れ家への窓口をしている居酒屋マスターが合言葉を口にした判り手にするような訳知り顔をして頷き、店中へ入っていく。

 ユーニスさんって確かに大物ではあるんだけど、根も葉もない根拠でここに乗り込もうとするようなポンコツなんですよとアロンさんに伝えたくなる。が、もう店中で体は振り向かないままに顔だけを後ろに向けて待っているアロンさんにそのことを伝えるのは悪いような気がする。


「あの、本当にいきなりこの店のオーナーに突撃するんですか」


「ええ、その方が手っ取り早いじゃない」


 大丈夫なのかという確認も込めた質問に、こともなげに答えてさっそうと歩き出すユーニスさんが妙にかっこよく見えてしまったことが悔しくなった。 


お読みいただきありがとうございます

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