7.会談実現へと向けて
遠くに見える火山の火口から、薄黒い噴煙が上がっていた。
「この町の外れにヒバリの館があるのね」
「ええ。地元の方にも確かめましたから、間違いありません」
砂航船から降りた俺達は、サーヴァという町に到着した。
まだ朝だというのにジリジリと照り付ける太陽は肌を炙るようで、アキレアから借りた日焼け止めが無ければ俺の肌はこんがり上手に焼けていたことだろう。
彼女が貸してくれたそれは、白い乳液みたいな見た目で、肌にすうっと馴染んだ。日焼け止めってもっとベタベタしているイメージだったが、こんなものもあるもんなんだな。
まあ、汗で流れてしまったら塗り直す必要があるらしいのだが。
「それにしても暑いよな……。そのうちぶっ倒れそうだよ」
「そりゃそんだけ着込んでたら暑いに決まってるよぉ」
俺の服装は4月から変わらない、黒いローブと中に着込んだ軽めの鎧だ。
日中は日の当たる場所に出れば熱をどんどん吸収していくような気がするし、ついでに言うなら髪の毛だって黒いもんだから頭も暑くなる。
(だからと言って装備を買い替える余裕は無いしなぁ)
夏場の教室を思い出せ松成。クーラーも無いあの高校の、地獄のような暑さを。
(我慢してればなんとかなる……なんとか……)
ただ、今は金銭的に余裕が無くてもそのうち装備は一新した方が良いだろう。俺の装備は勿論、アキレア達のものもだ。
俺達は邪神ディジオンを倒す為に強くなる。それには自分の実力だけでなく、装備だって重要になるだろう。
「ねえ、ヒバリの館に行く前に朝ご飯済ませちゃおうよ。私お腹鳴りそうで……」
「そうですね。ヒバリの館がどんな場所なのか十分な情報も無いことですし、情報収集も兼ねてギルドへ向かいませんか?」
「それが良いな」
ラネールとリーオの言う事も最もだったので、一先ずサーヴァの砂航船乗り場からすぐの所にあるギルドに向かうことにした。
どの国にあるどのギルドも、24時間いつでも利用が可能だというのが冒険者にはとてもありがたい。
ギルドに到着すると、早速食堂で各々が食べたい料理を注文して席に着いた。
「ここのメニューってパンとか肉料理が多いのね。あとはサボテンのステーキとかかしら……」
「アルジーリャでゼラにご馳走してもらったお店は魚料理が豊富だったけど、やっぱりここが海から遠いからなのか?」
「結構距離あるからねぇ~。カオシアとかスプラエンから野菜を輸入しても、サーヴァに届く頃には干からびちゃうことがあるんだってさ」
「この辺りの地域では、フォレイヤで獲れるコメやスプラエンの小麦、周辺に生息する魔物の肉やサボテンなどを多く使った料理が有名ですね」
やはり自国の事には詳しいゼラとフリードさん。
魔物の肉は以前アキレアが倒したベアボールのものを食べた事があるから、美味しい魔物は美味しいということはわかっている。
リーオも俺達と旅をするようになってから何度か魔物の肉は食べた経験がある。皆魔物を食べるのに抵抗は無いはずだ。
しばらくして皆が頼んだ料理が運ばれて来た。
昨日も思った事だけれど、ゼラは食が細いらしい。食事は目で楽しみたいタイプのようで、何品か注文しても食べ切れずにフリードさんや俺が消費するシステムが出来上がってしまっている。
ゼラが食事代などは支払ってくれると言うから頼み過ぎはそこまで気にしなくても良いのかもしれないが、一足先に食事を終えたゼラがふらふらと席を立ち、見知らぬマリアに声を掛けたりと何をしでかすか分からず落ち着いて食べられない。
俺とフリードさんで料理を減らしながら、食堂をほっつき歩くゼラを引き戻してはまた食べる。
(小さい子供じゃないんだから、食事する所では大人しくしててくれないかな……)
何とか料理を平らげると、食べ過ぎで辛そうなフリードさんをアキレアに、ふらつくゼラの監視をラネールに任せて俺はリーオを連れてギルドのカウンターへと足を運んだ。
「すみません。俺宛てに連絡は来てますか?」
そう言って俺が受付の人に差し出したのは、俺の名前と身元を証明するカードだ。
これはブロウサスでマルトス侯爵と再会した時に渡されたもので、晩餐会の時にエボルブス国王が言っていた通り、陛下が俺の身元を保証してくれた証なんだそうだ。
つまり、今の俺はウィントハーレン国籍なのに読み書きはフォレイヤ文字でしか出来なくて、四季国の王様全員と繋がりがある奇妙なマスターということになる。
「只今確認を致しますので、少々お待ち下さい」
このカードを出せば、通信装置による連絡の履歴……着信が来てるのかどうかみたいなのを確認したり、いざという時にはエボルブス国王の力を借りてしっかりと身分を保証してもらえる……とかなんとか。
マルトス侯爵にざっくり説明してもらったものの、いまいち理解が出来ていなかったりする。
後でアキレアに聞いて驚いたのが、俺の身元保証人が国王様本人だからフリッグマスターショウ・フォーチュンは、ウィントハーレンの王家と同等の地位という扱いになるんだとか。
多分、俺をウィントハーレンの貴族に迎え入れてスプラエンより優位に立とうとしているのだろう。
(俺は特別どの国の味方になるつもりもないんだけど……ここまで手を回されてるとなるとなぁ)
下手したら王都のハインザークにお屋敷を貰えるかもしれないらしい。
こんなに厚遇されると今度の会談、ヘマは絶対に出来ないな。
「……ショウ様充てのご連絡が二件ございますね。スプラエンのリューエルシアン城からアジュガ・シーロウ様、ウィントハーレンのコークリキスタ城からマルトス・アル・グランドロン様です」
「アジュガとマルトス侯爵からか」
「例の件で何か進展があったのかもしれませんね」
「そうだな。えっと、それじゃあ通信装置を使わせてもらって良いですか?」
「はい、どうぞお使い下さい」
まずはマルトス侯爵に連絡を取る為、コークリキスタ城へと通信することにした。
普通の人はお城へ直接連絡することは出来ないらしいけど、俺が貰ったこの身分証はブラックカードみたいな特別なものらしく、直に通信を繋げられる。フリッグマスターって凄いや。
「マルトス侯爵」
『ショウか。ようやく連絡を取る気になったようだな』
小さな溜め息を吐くマルトス侯爵。どうやら声を聞く限りは元気そうだ。
「す、すみません……こちらも色々とやる事があるもので。えっと、そちらの動きはどうなってますか?」
『グレイから今回のフォレイヤ王代替わりの報告を受け、エボルブス様にスプラエンとの会談に動き出すよう働き掛けた。既に両国の兵を退き、会談を設ける場について四ヶ国で協議を纏めておいた』
「四ヶ国?」
『ウィントハーレン、スプラエン、フォレイヤ、カオシアだ』
「カオシア帝国!? 何でカオシアが……」
『静まれヒトの子よ。今度の会談に先頭で働き掛けているのはお前ではあるが、ウィントハーレンとスプラエンは長きに渡り戦争を続けている国なのだぞ?互いにいつ裏切られるか、警戒に警戒を重ねているだろう。会談の場を選ぶにも慎重にいかねばならんのだ』
エボルブス国王は会談参加の条件にフォレイヤの参加をと言っていた。
黒檀に代わってヒギリさんが王になったものの、ヒギリさんはシンフォリカルポス国王に恩義がある身だ。
フォレイヤで会談をしようと言っても、ウィントハーレンの偉い人達が反対してしまうのだろう。
(でもどうしてそこで魔族の国カオシアが出て来るんだ?)
『私を通じて、エレムルス皇帝陛下に会談の場を提供して頂ける事が出来た。大陸の中心部であるカオシアならば、どの国からでもアクセスがしやすい。更に、どこかが妙な気を起こそうものならば私をはじめとした皇帝陛下の側近が黙ってはいないからな』
「エレムルス様の側近といえば、マルトスさんのように四つの麒麟の塔を治める魔族のエリートの皆さんの事ですよね」
『その声はショウのマリア、ヘリオトロープか。その通り、皇帝陛下が治める地で争いを起こす人間は容赦しない。それはどの国も理解していよう』
「エボルブス国王やシンフォリカルポス国王、ヒギリさんの身を守る為なんですね」
『ああ』
カオシアの皇帝といえば、その力で国一つ滅ぼす事だって出来ると言われる魔族の中の魔族、魔王だ。
下手な真似をすれば自分達の国が滅びるかもしれないのだから、国王暗殺を企てる者は居ないだろう。
そう考えればカオシアが一番安全な場所だと言える。
『こちらも色々と準備を進めているが、お前の用が済まなければ会談は始められん。なるべく早く片付けてもらいたい』
「わかりました。用事が済んだらまた連絡します」
『最後に、今サマディーゾのサーヴァという町にセロウズという男とマリア、そしてパクナが向かっている。その者達は今日の昼には到着するそうだ。三人と行動を共にしろ』
「え?」
『皇帝陛下からの命だ。話は以上だ』
それだけ言って、マルトス侯爵は一方的に通信を切ってしまった。
「……最後の何だったんだ」
「セロウズさんたちがこちらに向かっている、と仰っていましたが……」
「まあ到着を待つのは構わないけど」
続けてアジュガにも連絡しようとしたが、どうやら他の人と通信中だったようで繋がらなかった。
(また後で連絡してみよう)
マルトス侯爵から得た情報を伝える為、俺とリーオは皆のもとへ戻った。




