8.混ぜるな危険
マルトス侯爵との通信を終えて、俺は皆と一緒にセロウズさん達の到着を待っていた。
フォレイヤでの一件の後、俺やアキレア達はサマディーゾへ、アジュガはスプラエンへ、グレイさんとカエさんはウィントハーレンへ向かうことになったけれど、セロウズさんとレベッカさん、そしてパクナはそのままフォレイヤに滞在してもらっていた。
この中でセロウズさん達は手が空いていたから、マルトス侯爵に何か頼まれてこちらへ向かっているんだろう。その「何か」が何なのかは予想も出来ないが。
ギルドは徐々に人の出入りが多くなり、また勝手に立ち歩かないようフリードさんにゼラに気を配ってもらいながら、地元で活動している冒険者に声を掛けた。
ヒバリの館の情報を得る為だ。
「あそこには近付かない方がいい。最近になって、あの館には幽霊が出るって噂が流れてるんだ」
何人かの冒険者が皆、同じ事を口にする。
「幽霊が出るって本当なんですか?」
「あたし達は噂でしか知らないけど、この辺りで活動してる冒険者ならみんな一度は耳にしている話よ」
初老のマスターと二十歳過ぎのマリアの二人組は、この噂を聞いてからヒバリの館には近付いていないらしい。
「あの館には誰か住んでないの?」
「大昔には綺麗なお嬢様が暮らしてたらしいが、今じゃただのボロ屋敷さ。よほどの物好きでもない限り、あそこに入るやつなんて居ないよ」
(幽霊屋敷って訳か……)
でも、女王様はそこに行けと言っている。ヒバリの館には、リリー姫が幽閉されている記憶の迷宮への鍵があるのだ。
「その幽霊を見たっていう人は居ないのかしら」
「どうかしらね……。聞き込みしていけば誰かしらに辿り着けるかもしれないけど、こういう噂は本当かどうかも怪しいから」
「ただのデマかもしれないが、そういう話は俺もうちのマリアも苦手なもんでな。これ以上力になれそうもない」
「いえ、お話を聞けただけでもありがたいです」
申し訳なさそうにする二人にリーオが笑顔で言うと、別れ際にマスターが振り向いた。
「そういえば、幽霊が出たっていう時間帯は夕方が多いって話だぜ。気になるんならその時間に行ってみな」
「はい! ありがとうございます!」
すると、新しい情報を手に入れた俺達のもとへ背後から懐かしい声が掛けられた。
「まーた何か厄介事に首突っ込んでのか?」
はっと振り返ると、にっかりと笑ったセロウズさんが立っていた。
「セロウズさん!」
「マルトス侯爵に言われて来ました」
「ワタシ達は何の為に呼ばれたアルカ?」
「またちゃんと目的を教えてくれてないのね、マルトス侯爵は……」
頭を抱えたアキレアの前を颯爽と通り過ぎ、レベッカの手を取って跪いたのは大人しくさせておいたはずのゼラだった。
彼の本性を知らない者ならばときめいてしまいそうな微笑を浮かべ、ゼラは言った。
「灼熱の太陽より眩しく輝く女の子だねぇ……。オレはゼラ。ちょっとだけお茶でもしてみない?」
(いきなり人妻ナンパしてるよこいつ!!)
「ハ? 何言ってるアルカ? わけわからんヨ。セロウズ、これ不審者ネ」
「俺の嫁に汚ねー手で触ってんじゃねえぞコラ! ああん!?」
出会って早々至近距離でメンチを切り始めたセロウズさんは、しばらくガンを飛ばした後レベッカさんの手を取った。
「ったく……ほれ、消毒だ」
ちゅっ、とリップ音を立てて口付けるとレベッカさんは嬉しそうに頬を染めた。
「ありがとネ……!」
(凄い! この二人のラブラブっぷり初めて見たけど、グレイさん達に負けないバカップルだ!!)
「俺の女に手ぇ出して生かしておけねーよ……なあショウ? お前もそう思うだろ?」
「えっ、や、まあ……気持ちは分からなくもないんだけどその……」
周りの人の視線が集まる中、俺でも感じる程の殺気を放つセロウズさんの目は本気だ。
そんな殺気を向けられながら、ゼラは悪戯がバレた子供のような顔でペロリと舌を出している。
(何この混ぜるな危険状態……)
「ゼラ様! また貴方は私の目を盗んで人様にご迷惑を……!!」
転びそうになりながら走って駆け付けたフリードさんは、セロウズさんに深く頭を下げた。
「申し訳ありません! とんでもないご迷惑をお掛けしてしまったようで……なんとお詫びを申し上げれば良いか……!」
「……お前は?」
「ゼラ様のお世話をさせていただいているフリードと申します」
「えっと……一応ゼラって王族なんだよ。ゼラとフリードにはここまで案内してもらってるんだ」
「こんなちゃらんぽらんな奴が……」
「王族アルカ?」
「うん、まあ……」
(信じたくないよね、こんな王族が一緒だなんて)
俺が言ったから渋々信じてくれたけれど、一応は収まった殺気が今度は嫌悪の眼差しに変わっていた。
「ねえ、ここで立ち話してたら他の人の邪魔になるわ。セロウズさん達と合流したことだし、これからの予定とか色々話しておいた方が良いと思うの」
「レベッカちゃんとパクナちゃんも船旅で疲れてるだろうし、お茶菓子でも用意してお話しようよ」
「……っていう感じでどうですかね、セロウズさん?」
「……分かった。ただし、そいつをレベッカに近付けさせんじゃねーぞ。教育上パクナにも近付くな」
「はいはーい」
がっしりとレベッカさんの肩に腕を回し、パクナを隠れさせるように立ったセロウズさんのその姿はお父さんのようだった。
今更ながら文字書きとしてどうしようもないミスを発見してしまったので、1〜97話を修正します……。
加筆修正になるかもしれません。マリアノツルギ以外も同様のミスがありましたので、終わりましたらまたお知らせします。




