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マリアノツルギ  作者: 由岐
6章 蕾がひらくまで
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1.次なる目的地

 翌朝、朝食まで用意してもらった俺達は純和風の料理に舌鼓を打った。

 久し振りの白米と味噌汁。そして焼き魚とほうれん草のお浸し。

 これぞ正しく日本の朝に相応しいメニューに、俺の心が震えた。ぶっちゃけほうれん草は苦手な野菜だが、畳敷きの部屋で日本食を食べているという事実が嬉しかったのだ。

 この世界に来てからというもの、スプラエンやウィントハーレンではフォークやスプーンを使う食事ばかりだった。

 だからアキレアやリーオ達は初めて使う箸に悪戦苦闘している。グレイさんとアジュガは器用だからかすぐに使いこなしていたけれど、セロウズさんは諦めておかずを突き刺しながら食べている。

 その様子を白虎の新たな王となったヒギリさんが何とも言えない目で見ていたものだから、俺は隣のセロウズさんの焼き魚を食べやすいようにほぐしてあげて、箸の持ち方を教えてあげた。


「ここの指はこう。こうやって箸を動かすんです」

「わかんねー……フォレイヤ人はよくこんな棒で物を食えるもんだな」


 不恰好ではあるが、それらしい持ち方になったところで食事を再開する。

 昨日アジュガに言われたように、俺の嘘設定では俺はフォレイヤ出身という事になっている。

 だから今こうやって箸の使い方をレクチャーするのは不思議ではないのだが、フォレイヤが兵を退かせスプラエンとウィントハーレンが一時停戦する動きになっている今、別の問題が発生しようとしていた。


「……ねえショウ。これからどうするの?」

「どうするって?」

「フォレイヤはヒギリさんが王になって間も無いから、スプラエンとウィントハーレンを交えた会談を始めるにはまだ時間がかかるわ。それまであたし達はどうするのかって事よ」


 ウィントハーレンが会談に応じる条件として出してきたのが、フォレイヤ国王の会談参加だった。

 黒檀王から緋桐王に代替わりした今ならば、スプラエンに縁のあるヒギリさんが参加してくれるのは間違いない。

 だが、エボルブス国王は俺にリリー姫の捜索を依頼している。予定している会談では、リリー姫と侯爵家のフリッグマスターが引き起こした事件も話されるだろう。

 何百年も前の事件を知る人物などそうは居ない。となればリリー姫本人を探し出してきちんと話し合うべきだ。


(だけどどこに居るのか分からないんだよなぁ。何百年も前に閉じ込められた人を知ってる人なんて、魔族かエルフかマリアくらい……)


「……あー!」

「ちょ、いきなり大声出さないでよ!」

「ご、ごめん」


(そうだ。ここにはエルフのマリア、ラネールさんが居たじゃないか!)


「予定は午後には決めるよ。その前に、食事が終わったらラネールに会いに行きたいんだ」

「ラネールに?」


 彼女ならフォレイヤの歴史に詳しい。もしリリー姫がこの国のどこかに幽閉されているのだとしたら、何らかの手掛かりが掴めるかもしれない。

 食事を済ませ、アキレアとリーオも一緒にラネール達白虎隊の部屋を訪れた。

 アジュガ達は午前中は自由時間にしてもらい、後で客間に集合する約束をして別れた。


「すみません。ラネールに話があって来たんですけど……」


 俺達に気付いた風麗。

 昨日フリッグマスターだとは知らずに攻撃してしまった事をまだ気にしているらしい風麗は、気まずそうに苦笑いをしている。


「きみたちか……。ラネール隊長なら、今居るから呼んで来るよ」

「お願いします」


 部屋の奥から明るい金髪を靡かせてラネールがやって来た。


「みんなおはよう! 朝から私に話があるなんてどうしたの?」


 昨日の涙など無かったかのように眩しい笑顔のラネール。


「ちょっと聞きたい事があって……」

「人前では話しにくい事かな?それなら奥で話を聞くけど」


 そうして奥の部屋へ案内され、俺は早速話を切り出した。


「リリーっていうマリアを知らないかな?この世界のどこかに幽閉されてるらしいんだけど……」

「リリーか……。知り合いにそんな名前の子は居ないわね」

「数百年前、スプラエンで起きた事件をご存知ありませんか?」


 リーオの言葉にラネールの顔色が変わった。


「……リリー姫様の事だね」

「知ってるのね」

「あの事件については知ってるけど、彼女が今どこに居るのかは分からない。フォレイヤには居ないと思うよ」

「そうですか……」

「どうしてみんなが彼女を探しているのか知らないけど、サマディーゾの女王様なら何か知ってるかもしれないわよ」


 サマディーゾは大陸の南にある常夏の国。世界で唯一女性が国を治めている珍しい国だ。

 どこの国とも深く関わらないサマディーゾは、厳しい環境の中でも逞しく生活しているという。


「サマディーゾの女王様といえば、確かマリアだと聞いた事があります」

「マリアが女王……。それじゃあサマディーゾの霊獣子は不死って事だよな?」

「そうなるわね。だからサマディーゾの結界は何百年も安定しているの」

「彼女も自分の国の歴史はよく知っているはずだよ。ただ、あまり人に会わない性格らしいから会えるかどうか分からないけどね」


 亡くなったお兄さんとサマディーゾに行った事があるアキレアも、地元の人々から女王は滅多に顔を出さないと聞いた事があるそうだ。

 スプラエンのシンフォリカルポス様は花祭りの最後に国民の前でスピーチをするというし、ウィントハーレンのエボルブス様も年末に行われる武闘大会を見に来るらしい。

 フォレイヤでもそういうイベントには国王が顔を出すというが、サマディーゾの女王はかれこれ二十年は顔を見せていないとか。


(これはフリッグマスターでも会うのは難しいかもな)


 しかしリリー姫がサマディーゾに居ないとも限らない。

 俺達の次の目的地は朱雀サマディーゾ王国に決まった。



 

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