2.太陽の手
午後になり、約束通り客間に集合した俺達。
「俺とアキレアとリーオは、これからサマディーゾに向かおうと思います」
ラネールによれば、この国にはリリー姫は居ないという。ならばまだ足を踏み入れていないサマディーゾに行くべきだ。
「何故サマディーゾに?」
「てっきりスプラエンに戻るもんだと思ってたぜ」
「青竜、玄武、白虎の会談にお連れしたい方がいらっしゃるのです。その方を捜しに行くのです」
リリー姫のことは絶対に秘密にしなければならないわけではないのだが、この件をどこまで他言して良いのか判断が難しかった。
出来る事なら俺とアキレア、リーオの三人でリリー姫を捜したい。
「皆には俺達がサマディーゾに行っている間、会談の準備を進めておいてほしいんです。フォレイヤはヒギリさんと白虎隊の方々が動いてくれるだろうし……」
青竜と玄武の国境の戦場に向かっていたフォレイヤ兵は既に撤退。
フォレイヤ国王が代替わりしたという報告を受けた両国も兵を退かせ始めたという。
シンフォリカルポス様とエボルブス様も、俺が会談を設けたいという話は通してある。準備さえ調えば会談は実現するだろう。
するとアジュガが言う。
「それでは私はスプラエンへ参りましょう。ヒギリさんはシンフォリカルポス様の右腕とも言える存在でしたから、彼が王となった今、私がお側で支えなくては」
「イーファンさんとコバの事も気になるわ。二人の様子を見てきてもらえると助かるわ」
「ええ、勿論そのつもりですよアキレアさん」
「なら、俺達はウィントハーレンだね。マルトス侯爵に今回の事を報告しなきゃならないからね」
グレイさんとカエさんは、アジュガがビエルに乗せてシアルまで送る事になった。
「セロウズ、ワタシ達はどうするネ?」
「んー……」
レベッカさんに言われ、頭を掻くセロウズさん。
「……特にしなきゃならねー事もないよな」
「言われてみたらそれもそうアル!」
スプラエンにはアジュガが、ウィントハーレンにはグレイさんとカエさんが向かうとなればセロウズさん達は何もする事がない。
しかし、そんなセロウズさんとレベッカさんより何をすれば良いのか分からない者が居た。
「……アタシ……どうしたら良いんですか?」
グレゴワールの弟子、パクナだ。
彼女はマルトス侯爵に言われ俺達に同行しているが、具体的に何をすればいいのか指示されていない。
(放置しすぎじゃないですかマルトス侯爵)
信頼していた師匠を失い、師匠の罪を償う為について来た少女。
(パクナ涙目じゃん……)
「アタシに出来る事があるなら……っ。あんまり役に立ってないし……」
責任感の強い性格だったらしいパクナは、あまり活躍出来ていない現状をどうにかしたいようだ。
彼女を追い詰める原因を作ったのは俺達だが、グレゴワールがしていた事にも問題はある。
アキレアやリーオ、アジュガと目を合わせると皆何とも言えない表情だった。
「えっと……ひとまずパクナとセロウズさん、レベッカさんはフォレイヤに留まっていて下さい。国王が変わった直後だし、何か揉め事が発生したら対処にあたって下さい」
「わかったアル!」
「会談を行う場所についても検討しなくてはなりませんね。詳しい日取り等が決まればすぐに連絡します」
「ああ、頼んだよアジュガ」
先の予定を決め、早速それぞれの目的地へ向かう為城を出る。
他の皆より少し早めに出発した俺達が門を出ると、何故かそこにはラネールが待ち構えていた。
俺達に気付いたラネール。
「あっ、待ってたよみんな!」
「ラネール? どうしてこんな所に……」
朝から白虎隊のメンバーは城の中や街中で走り回って大忙しだったはず。
それなのにその白虎隊の隊長であるラネールが何故俺達を待っていたのだろうか。考えても答えが出て来ない。
「ショウくん達、これからサマディーゾに行くんでしょ? 私も一緒に行っても良いかな?」
「ええっ?」
「緋桐様にお願いされたの。ショウくんは危なっかしいから、ついて行ってあげてほしいって!」
(ヒギリさん……)
危なっかしいと言っても、以前よりは槍の腕も上がったしアキレアとリーオとの契約は最高ランクの第三段階。
ヒギリさんレベルの剣の達人から見ればまだまだかもしれないけれど、武術も魔術も強化されているはずだ。
(まあ、風麗とアザミと戦った時は危なかったんだけどさ)
アジュガやセロウズさん、グレイさん達と別れ少し心細かったのは事実。
白虎隊隊長という実力を持つラネールが来てくれるというのなら心強い。
「ねえ、ラネールのマスターは?」
アキレアが問う。
「ラネールもマリアなのよね? マスターと離れて大丈夫なのかしら」
ラネールは苦笑いで答えた。
「私、マスターは居ないんだ。もう、何百年も……。だからいいの! 緋桐様の許可さえあればね」
「……ごめんなさい。無神経な事聞いちゃったわ」
「気にしないでアキレアちゃん!」
「どうなさいますか、ショウさん? ラネールさんに同行していただきましょうか?」
リーオが俺を見上げて言う。
「そうだな……うん。ラネールも一緒に行こう! サマディーゾまでまだ随分距離があるし、フォレイヤに詳しい君が一緒なら安心だ」
俺はラネールに手を差し出した。
「改めて宜しくな、ラネール」
「こちらこそ宜しくね、ショウくん! みんな!」
握手して触れた細くしなやかなラネールの手。
彼女の笑顔のように温かいそれは、太陽の光のようだった。




