1.繋がる過去と未来
エボルブス国王は、身寄りの無い俺をウィントハーレンの国民として受け入れてくれる代わりに条件を提示してきた。
それは、因縁の関係であるスプラエンとの戦争に協力するというものだった。
俺がこの世界で初めて見た国はスプラエンで、ウィントハーレンと戦争をしている最中でも伝統ある花祭りを開催し、リーオの兄であるシンフォリカルポス国王は国民の笑顔を守っていた。
彼自身はこの戦争にあまり乗り気ではなかったし、行方不明になってしまった妹を秘密裏に探すように俺達に頼んできたことから、慈愛に満ちた人柄であることがわかっている。
それに、スプラエン出身のアジュガもとても良い人だし、王都の人々も優しくて素晴らしい国だと思った。
だが、その裏にはスプラエン王家の血塗られた歴史が隠されていた。
死なない身体であるマリアのリリー姫は、今もなおこの世界のどこかで幽閉され、生きているのだ。スプラエンの全てが正しいとは言えない。
(それに、ウィントハーレンには戦わなきゃいけない理由があるんだ)
侯爵家のフリッグマスターを殺され邪神に立ち向かう力を失い、厳しい環境の影響で作物が育たず、戦争によって食糧が余分に消費されていく。
言い方が悪くなるが、どうやらフリッグマスターが死ぬと何年後になるかわからないが新しいフリッグマスターが生まれる。もしその殺されたフリッグマスターが侯爵家の人間でなければ、スプラエンとこんなにも長い戦争になることは無かったかもしれない。
「あの……お返事をする前に、聞いておきたいことがあるんです」
「我に答えられるものならば、何でも話そうぞ」
「ありがとうございます。俺が気になっていたのは、この国の食糧問題についてです」
俺がウィントハーレンにやってきて知ったこと。それはマルトス侯爵達が開発したコアデバイスを使っても、作物が育つような土地には出来ないということだ。
ならば、この広大な国の人々に行き渡らせるための食糧はどうやって用意しているのだろうか。
王様に訊けば、きっと教えてくれるはずだ。
「そうだな……まず、我が国の霊獣玄武は知っておるな?」
「はい」
「ウィントハーレンを守護する玄武の力で、我が国は永遠の氷雪気候を保ち、他国民が生活を送るには過酷な土地を維持している。それはそう易々と他国に侵されないように、そして魔物が台頭出来ぬ環境を作るものであると同時に、罪の無い動植物にも厳しいそれを強いるものなのだ」
しかし、魔物は長い年月を経てその環境に適応出来るよう進化してしまった。
魔物は繁殖し、ウィントハーレンの凍土でも育つ数少ない作物や動植物達は食い荒らされ、国民の食糧は激減していったという。
そこで当時の国王は、安定して食糧を生産出来るスプラエンとフォレイヤから食糧輸入をすることを決めた。
しかし、輸入の際に魔物に襲われ食糧を奪われる事件が多発してしまった。そこで活躍したのが、マスターとマリア……冒険者達だった。
「冒険者達によって我が国に食糧が行き渡るようになったが、またしても問題が発生した。とあるマリアが私怨に駆られ、大きな災いを引き起こしたのだ」
「……っ、」
「その災いによって、グランドロン侯爵家の人間が死んだ。彼は、当時の王の無二の友だったという。彼の死はスプラエンによって引き起こされ、その死が引き金となり戦争が始まった」
「それが、今も続くスプラエンとの戦争なんだよ」
リーオを息を飲み、ハルさんがエボルブス国王に続いて言った。
「戦争が始まり、スプラエンからの食糧輸入も止まった」
「運の悪いことに、丁度その頃からフォレイヤで魔物の動きが活発になったんだ。魔物がどんどん繁殖し、いくら倒しても減る気配が無かった。次第にウィントハーレンへの食糧の輸出が厳しくなっていったんだ」
「そして、カオシア帝国から使者がやってきた」
カオシア帝国は緑豊かな国。国民は少ないため、他国に食糧を輸出する余裕がある。
「ど、どうしてカオシアが……」
「理由はわからぬ。カオシアはある条件を呑めば、貿易をすると言ってきた。その条件というのが……」
「グランドロン侯爵家との婚姻関係を結ぶこと、でしたの」
「だからグランドロン家には魔族の血が流れていたのね」
「そうですわ。おかしな話ですけれど、私やマルトス兄様にも婚姻の目的がいまいちわかりませんの。ですが、結果として侯爵家は半魔としてウィントハーレンとカオシアの橋渡し役をしておりますわ」
私にはどうしてもこれ以外に重要な目的があるように思えるのですけれど、とオリンツィアさんがワインを片手に言う。
こうしてウィントハーレンとカオシアは繋がりを持ち、カオシアとフォレイヤの支援を受けながら今日まで存続してきたという。
「これで我が国の食糧問題、同時に戦争の経緯を理解してもらえただろうか?」
「は、はい……」
「協力してほしい、とは言ったが、何もそなた達に戦場に立てと言うわけではないのだ」
「フリッグマスターは邪神を滅ぼす事が使命だからね。命を危険に晒すような真似はさせないよ。ですよね、陛下」
「ああ、勿論だ」
戦争に協力しろと言うから、てっきりスプラエンに攻め込めという意味かと思っていたが、俺の勘違いだったようだ。
内心で俺と同じことを考えていたらしいアキレアとリーオは、安心したように息を吐いていた。
「では、俺達は何をすれば良いのでしょうか?」
「そなたらに頼みたいのは……」
「へ、陛下!」
勢い良く扉を開けて、若い兵士が息を切らせて飛び込んできた。顔色が真っ青で、冷や汗をかいているようだった。
「何事だ」
「城下に、大量の魔物が現れ……街のあちらこちらで、火の手が上がっております!」
「我も出よう。兵の大半は戦場だ。民を避難させ、ギルドに冒険者への緊急依頼を出すのだ!」
「ははっ!」
俺とアキレア、リーオの他にハルさんとエキウムさんが立ち上がる。
「陛下、俺達も闘います!」
「すまないな。本来ならば客人であるそなたらに迷惑はかけられないのだが……事は一刻を争う。頼んだぞ」
「はい!」




