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マリアノツルギ  作者: 由岐
3章 白銀の国
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16.虫の知らせ

 玄武王エボルブス・ウィントハーレン。

 彼の存在感は、猛烈な吹雪の中でも強く気高く咲き誇る、一輪の花の如し。


 晩餐会が始まり、出される料理のどれもが見たことのないもので、きっとこの国独自の料理なのだろうと結論付けることにした。

 今回エボルブス国王が晩餐会を開いた理由……それは確か、先日捕らえた奴隷商人の件での感謝と、フリッグマスターである俺に会いたいというものだったはずだ。

 確かに、国王陛下も他の招待客達も俺達によく話し掛けてくる。

 だが、何故彼らは俺なんかの為にこんな豪華な食事を用意して、ウィントハーレンの貴族や他国の大名家の人間まで呼び寄せて晩餐会を開いたのだろうか。

 俺以外にももう一人……シオンというフリッグマスターが居ることはここに居る全員が知っているはずだろう。

 何故なら、俺がアキレアと立ち寄った武器屋の主人ですらシオンの存在を知っていたからだ。ただの武器屋が知っていて、他の人間が知らないというのはおかしい。 

 俺じゃなくても、フリッグマスターに会いたいならシオンでも良いんじゃないのか?


(もしかしたら、既に会っていたりするのかもしれないけどな)


 リリー姫とグランドロン侯爵家のフリッグマスターの件以外にも、この晩餐会には嫌な予感を感じていた。

 向かい側の席で優雅に料理を口に運ぶ、月下ハルキさん。彼はエキウムさんと一緒にこのウィントハーレンに赴き、フォレイヤとこの国を結びスプラエンを本格的に侵略する計画を進める為にやってきた人間だ。

 エボルブス国王、ハルキさん、ウィントハーレンの諸侯、グランドロン侯爵家のオリンツィアさん、そしてフリッグマスターの俺とマリアのアキレアとリーオ。

 この場にこんなメンバーが集まっているんだ。ただ楽しく食事をする為だけの晩餐会とはとても思えない。


(この予想が当たらないと良いんだけど……)


 不安が胸を煽り、食事が喉を通らない。料理の味も何が何だかわからない。


「……口に合わなかったか?」


 フォークが止まっている俺に気付いたエボルブス国王が言う。


「あっ……いえ、その、あまりこういった場には慣れていないもので、緊張してしまって……!」


 慌てて返事をすると、陛下は「そうか。あまり固くならずとも良いのだぞ」とほんの少しだけ表情を和らげて言ってくれた。

 実際に俺は緊張していたし、更に不安も相俟ってあまり食事をしたい気分ではなかったから、嘘を吐いたわけではない。


「時に、フリッグマスターよ」

「は、はい、何でしょうか?」

「そなたの出身国は何処なのか、聞かせてくれないか」

「え……」


(ま、まずい……!)


 まさかこのタイミングでこんな質問をされるとは!

 俺の出身は日本です、なんて言っても「何だそれは」と言われてしまうだろう。

 かと言って、適当にごまかすなんて王様には出来ない。


(え、えっと……言わないってのはダメ、だよな?)


 みんなの視線が痛い。

 俺がどこから来たのかなんて、初めてのマリアであるアキレアにすら話したことがない。


(どうすれば良い? 俺はこの世界について詳しくない。スプラエン、ウィントハーレン、フォレイヤ、サマディーゾ、カオシア……。どの国を答えたとしても、もっと深くまで追及されてしまったら何も言えないぞ!)


「お、俺……」


(こうなったら、奥の手を出すしかない……!)


 大きく深呼吸して、腹を括った。何も言わないよりは、きっとマシなはず。そう信じて口を開いた。


「……俺、天涯孤独で記憶障害なんです!!」


 沈黙。

 ここに居る全員が、「何言ってんだこいつ」とでもいうような目でぽかんとしている。

 大丈夫。俺だって何言ってんだかわかってないです。


「……えっと、それで俺、自分がどこに住んでいたのかとかよくわからなくて……」

「で、でも、ショウにはお兄さんが居るって……」

「だ、だから、記憶が断片的にしかなくて、兄ちゃんのこととか自分の名前とか、ちょっとしか覚えてなくて……。マスターとかマリアとか邪神とか、この世界の常識的なことがすっぽり抜けてて……。兄ちゃんがどこでどうしているのかとか、全然っ……!」


(何て都合の良い記憶障害なんでしょうね!)


 自分が言ったことなのに、あまりにも嘘臭いし胡散臭い。

 こんなバカみたいな話、誰も信じない……。


「……だからあんたって有り得ないほど常識知らずだったのね」

「ショウさん、元気を出して下さい。きっといつか、全てを思い出せるはずですよ!」

「記憶障害に天涯孤独……さぞや辛い思いをしてきたことだろうな」


 ……と思っていたのに、どうやらこの人達はこんな思い付きの設定に騙され、信じ込んでしまったらしい。

 この国、大丈夫なのかな。王様まで騙されてるよ。

 エボルブス国王は、まるで自分のことのように俺を心配し、励ましてくれた。

 挙げ句の果てに、身寄りの無い俺をこの国の国民として身分の保証までしてくれるらしい。

 見た目はちょっと怖いけど、凄く優しい。こういう人のことを鬼面仏心と言うんだろうか。男前すぎる。


「出身など関係無い。そなたはフリッグに選ばれし者。何か困った事があれば、出来る限り尽力しようぞ」

「あ、ありがとうございます!」

「その代わり、我としてもそなたに力を貸してもらいたい事があるのだが……」


(あ、何か嫌な予感が……)


「今宵そなたを呼び寄せたのは、悪行を働いた奴隷商人捕縛協力の感謝と顔合わせの為だけではない。……そなたのその力、我が国の未来の為に使ってはくれぬだろうか?」


 来ました、戦争加担フラグ。



 

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