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異常世界の歩き方 MDE(国際異常研究機構)  作者: 神代千早


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7/84

NCO-404-JP **:『存在しない会議室』**

毎日21時投稿

金土日18時、21時、2本投稿予定

この章は10分ぐらいで読めます


# MDE内部文書


**文書番号:MDE-NCO-404-JP**


---


# NCO-404-JP


**コードネーム:『存在しない会議室』**


---


## オブジェクト情報


| 項目 | 内容 |

| ----- | -------------------- |

| 管理等級 | C-4(隔絶級) |

| 危険等級 | H-3(高危険) |

| 影響規模 | L(施設内限定) |

| 研究優先度 | A |

| 特殊指定 | COGNITO・PARADOX・VEIL |


---


# 特別管理プロトコル


NCO-404-JPはサイト83地下管理区域に存在する異常空間であり、現在判明している限り完全な収容は不可能と判断されている。


NCO-404-JPへ通じる入口は一定ではなく、サイト83地下施設内に存在する会議室、資料室、廊下、防火扉などへ不定期に出現する。


入口が確認された場合、周囲半径20mは直ちに封鎖される。


入口には自動観測装置「OBS-17」を設置し、消失まで常時監視を行うこと。


許可なく入口へ接近することは禁止される。


研究目的で入室する場合は管理レベル4以上の承認を必要とする。


入室者は必ず


・身体カメラ


・音声記録装置


・位置情報ビーコン


・認識災害対策装置


を携帯しなければならない。


なお、現在まで帰還した全職員は


**「入室した記憶」**


のみを完全に喪失している。


そのため、帰還後24時間以内に認識補助インタビューを実施することが義務付けられる。


---


# 概要


NCO-404-JPはサイト83内部にのみ発生する自己矛盾型異常空間である。


内部構造は一見すると一般的な会議室である。


机。


椅子。


ホワイトボード。


天井照明。


空調設備。


プロジェクター。


壁時計。


いずれも通常の備品と区別できない。


しかし、この部屋には決定的な異常性が存在する。


**退出した瞬間から、「その部屋の存在を認識できなくなる」。**


入室者は


「何か重要な会議を行った」


という事実だけを保持する。


しかし、


・会議室の場所


・入口


・参加者


・会議内容


・会議時間


・退出経路


については完全に記憶を失う。


催眠療法、認識補助薬剤、記憶再生術式を用いても回復した事例は存在しない。


---


# 第一発見記録


西暦20██年。


サイト83建設から約半年後。


施設管理部門は


「存在しない会議」


について複数の苦情を受けた。


内容は共通していた。


> 「予定にない会議へ参加した。」


> 「資料まで作った。」


> 「議事録も残した。」


> 「しかし誰も会議を覚えていない。」


当初は職員による悪質な悪戯と考えられていた。


しかし調査開始から四日後。


保管サーバー内より奇妙な議事録が発見される。


---


### 回収資料404-01


**第14回 異常建築対策会議**


開催場所


**サイト83地下第四会議室**


参加者


計12名


議題


「地下空間に発生する自己増殖型通路について」


---


施設図面を確認した結果、


**地下第四会議室は建設された記録が存在しなかった。**


さらに参加者十二名全員へ事情聴取を行った結果、


全員が


「議事録は自分が作成した」


と認めた。


しかし、


誰一人として


会議内容を説明できなかった。


これがNCO-404-JPの最初の確認事例である。


---


# 性質


現在判明している異常性は以下の通りである。


① 出入口が固定されない。


② 内部構造は毎回微妙に変化する。


③ 外部から内部を撮影できない。


④ 時計が存在するが時刻は毎回異なる。


⑤ 窓が存在しない。


⑥ 室内で行われた会話は録音できる。


⑦ 退出後、会議室そのものを認識できなくなる。


⑧ 部屋の位置は地図上へ記録できない。


⑨ GPSは常に「サイト83地下4階」を示す。


⑩ 最も重要な異常。


**部屋そのものは忘却されるにもかかわらず、会議の結果だけは現実へ反映される。**


例えば、


404-JP内部で


「新型収容装置を採用する」


という決定が行われた場合、


後日、


正式会議を行った記録が存在しないにもかかわらず、


収容装置だけが発注されている。


誰が決裁したのかも分からない。


しかし、


手続きは全て適法に完了している。


まるで、


**"存在しなかった会議が、現実だけを書き換えている"**


かのように。


---


# 現在の仮説


研究部は以下の三説を提示している。


---


### 仮説1


未来の会議室説


時間異常によって未来の会議室へ接続している。


---


### 仮説2


概念保存領域説


空間ではなく


「会議」という概念そのものが実体化した領域。


---


### 仮説3


自己防衛型異常説


404-JP自体が知性を持ち、


認識されることを拒絶している。


そのため、


部屋だけを忘却させ、


結果のみを世界へ残している。


現時点では


第三仮説が最有力とされる。


---


## 研究主任コメント


> 「この部屋は、人類に危害を加えるために存在しているようには見えない。

>

> むしろ逆だ。

>

> 誰かに"忘れられること"を前提として、それでも会議だけは成立させようとしているように思える。

>

> まるで……

>

> **世界から存在を消された会議室**が、それでもなお自らの役目を果たそうとしているように。」

>

> — 主任研究員 高野



## 補遺404-01


# 実験記録


---


## 実験404-α


**目的**


入室者の記憶消失範囲の確認。


---


**実施職員**


低級作業員A-17


研究員:高砂


監督:高野博士


---


### 実験内容


入口確認後、A-17を単独で入室させる。


室内滞在時間は10分。


会議行為は禁止。


---


### 結果


A-17は約11分後、自力で退出。


身体的異常なし。


心理状態も安定。


しかし、インタビュー開始直後から違和感が発生した。


---


**質問**


「どこへ行っていましたか?」


「……え?」


「今まで何を?」


「休憩室にいました。」


「違います。」


「え?」


「あなたは地下へ向かいました。」


「……そうでした?」


「会議室へ入りました。」


「会議室?」


「どこのです?」


「……。」


「場所は?」


「…………。」


A-17は約30秒間沈黙。


その後、


「思い出せません。」


と回答。


---


### 備考


身体カメラには


会議室へ入室する映像が記録されていた。


しかし、


退出映像だけが欠落。


理由は不明。


---


## 実験404-β


**目的**


録音機器への影響調査。


---


参加者


研究員 高砂


研究助手 新木慎介


---


### 実験内容


会話を継続しながら30分滞在。


---


### 帰還後


両名とも


部屋については完全忘却。


しかし録音データは正常だった。


---


### 録音データ抜粋


高砂


「普通の部屋ですね。」


新木


「せやな。」


高砂


「少し狭いでしょうか。」


新木


「十人入るには窮屈や。」


(椅子を引く音)


高砂


「では始めましょう。」


約18分間、


通常の会議が続く。


議題は


"サイト83地下施設の動線改善"


である。


内容は極めて現実的。


異常性は確認されない。


しかし、


二十二分四十一秒。


録音へ


第三者の声が混入。


---


???


「全員揃いましたね。」


沈黙。


高砂


「……今、誰か喋りました?」


新木


「いや?」


???


「議題を開始します。」


高砂


「誰です?」


新木


「博士?」


???


「本日の議題は。」


ここで録音が一瞬乱れる。


再開。


???


「欠席者は一名です。」


高砂


「誰のことです?」


???


「あなた方は既に出席しています。」


約六秒間、


無音。


その後、


録音終了。


---


### 備考


当時の身体映像には


高砂・新木の二名しか映っていない。


第三者は確認できなかった。


---


## 実験404-γ


実験責任者


高野博士


参加人数


5名


---


### 実験内容


会議を意図的に行わない。


全員終始無言。


---


### 結果


退出後、


議事録が作成されていた。


---


回収資料404-03


議題


「404-JP研究継続について」


議長


不明


決定事項


研究継続


追加予算承認


研究主任変更なし


全会一致


---


問題は、


**誰も一言も喋っていないこと**である。


---


## 実験404-δ


**目的**


会議室内で人物確認を行う。


---


参加者


黒岡


メアリー


高峰


クライム


神楽


高野博士


---


入室時、


椅子は六脚だった。


しかし、


着席後。


黒岡が違和感を覚える。


---


「……一つ多くないか?」


全員が数える。


一。


二。


三。


四。


五。


六。


七。


椅子が七脚。


参加者は六名。


全員立ち上がる。


高野博士が数える。


「一人多い。」


メアリー


「誰か追加で入った?」


クライム


「いや。」


黒岡


「入口は見えてる。」


神楽


「なら。」


沈黙。


誰も七脚目へ近付こうとしない。


約四分後。


七脚目の椅子だけが


静かに後ろへ引かれた。


ギィ……


録音には


木製椅子を引く音が残る。


映像には


誰も映っていない。


さらに。


机の上へ


コーヒーカップが一つ出現。


湯気が立っていた。


誰も持ち込んでいない。


分析結果。


一般的なブラックコーヒー。


温度63.2℃。


DNA。


指紋。


唾液。


すべて検出されず。


---


退出後。


参加者全員が


「椅子が七脚あったこと」


だけは記憶していた。


しかし、


**なぜ七脚だったのか**


誰も説明できなかった。


---


## 研究部臨時会議


実験404-δ終了後、


サイト83研究部は緊急会議を開催。


議題は


「404-JP内部には観測できない参加者が存在する可能性」


であった。


その際、


施設管理AIが


一件の異常ログを検出する。


---


地下第四会議室


予約状況


使用中


利用人数


**7名**


予約責任者


**不明**


---


研究部は


ログの改ざんを疑った。


しかし、


監査システムは


「正常」


と回答。


さらに不可解なのは、


サイト83には


**地下第四会議室という設備そのものが存在しない**


ことである。


にもかかわらず、


施設管理AIだけは、


その部屋を「通常運用中」と認識していた。


その日以降、研究部では一つの仮説が囁かれるようになる。


「404-JPの会議は、人間だけで行われているのではない。」


「いつも、もう一人いる。」


その"誰か"が議長なのか、観測者なのか、それとも部屋そのものなのかは、まだ誰にも分からない。

# MDE内部文書


## 補遺404-02


# インシデント404-Ω


---


## 概要


実験404-δ終了から18日後。


サイト83地下第二研究棟において、NCO-404-JPへの入口が約4時間31分という過去最長時間にわたり維持された。


研究部は、この機会を利用して長時間観測実験を実施することを決定。


実験責任者には、NCO-404-JP研究主任である高野博士が任命された。


しかし、実験開始直前、クレイン博士が現場へ到着し、自ら入室することを申し出た。


---


### 音声記録404-Ω-01


**記録開始**


高野博士

「反対です。」


クレイン博士

「理由は?」


高野博士

「あなたは管理者です。」


「万が一があれば、サイト全体の運営へ影響します。」


クレイン博士

「研究対象が研究者を選ぶなら。」


「一番嫌われそうなのは僕でしょう?」


黒岡

「自覚あるんだな。」


クレイン博士

「もちろん。」


高砂

「笑い事ではありません。」


「404-JPは現在、観測者を選別している可能性があります。」


クレイン博士

「だからこそ行く。」


紅林

「……博士。」


クレイン博士

「何?」


紅林

「嫌な予感しかしません。」


クレイン博士は少しだけ笑った。


「実はね。」


「僕も。」


その一言で、現場は静まり返る。


冗談ばかり口にする博士が、自分から不安を口にしたことは極めて珍しかった。


クレイン博士は入口へ近づく。


振り返る。


「二時間。」


「帰ってこなかったら閉じて。」


高野博士

「ですが。」


「約束。」


博士は軽く手を振った。


そして、


何のためらいもなく扉を開けた。


---


## 映像記録


身体カメラ映像より抜粋。


---


時刻


09:41:12


入口通過。


映像正常。


照明正常。


室内は過去確認されたものと同一。


長机。


椅子。


ホワイトボード。


壁時計。


時計は


**09:41**


で停止。


---


博士


「……こんにちは。」


返答なし。


博士は部屋をゆっくり見回す。


「今回は誰もいない?」


椅子を数える。


一。


二。


三。


……


十。


十一。


十二。


十三。


「十三脚。」


「また増えてる。」


博士は笑う。


「人気会議だね。」


誰もいない。


しかし。


録音には、


小さな紙をめくる音が記録されている。


---


09:48


博士がホワイトボードへ近付く。


何も書かれていない。


そのはずだった。


しかし。


映像を拡大解析した結果。


白い板の上には、


肉眼では確認できない極めて薄い文字が存在していた。


画像補正後。


そこには、


一文だけ書かれていた。


---


**議題**


**「欠席者について」**


---


博士は気付いていない。


そのまま歩き続ける。


---


09:57


椅子が鳴る。


ギィ……


博士が振り返る。


誰もいない。


「……気のせい?」


着席。


メモ帳を開く。


「よし。」


「会議を始めよう。」


その瞬間だった。


机の反対側。


誰もいない椅子が、


ゆっくりと引かれる。


ギィ……


博士は黙る。


映像でも、


誰も映っていない。


しかし。


椅子だけが動いている。


博士は笑わなかった。


「……いるね。」


返事はない。


だが、


紙をめくる音だけが聞こえる。


カサ……


カサ……


カサ……


---


10:21


博士が突然黙る。


視線が一点へ固定される。


「……。」


約三分。


一言も喋らない。


解析班は当初、


映像停止を疑った。


しかし、


博士の呼吸だけは続いている。


瞬きもしている。


つまり、


誰かを見ている。


しかし、


身体カメラには


何も映っていない。


---


10:24


博士が口を開く。


「なるほど。」


「そういうことか。」


沈黙。


「いや。」


「それは無理だ。」


再び沈黙。


「私は賛成できない。」


約四十秒。


誰かと会話している。


しかし、


録音には博士の声しか残らない。


---


10:58


博士が立ち上がる。


机へ向かって深く頭を下げる。


「今日はありがとうございました。」


椅子が鳴る。


ギィ……


映像終了。


---


## 帰還


11:36


博士は自力で帰還。


外傷なし。


脳波正常。


血液検査異常なし。


記憶障害なし。


研究部は安堵した。


しかし、


最初の質問で異常が判明する。


---


高野博士


「会議室を覚えていますか?」


クレイン博士


「覚えてる。」


室内が静まり返る。


これまで、


帰還者全員が


「思い出せない」


と回答していた。


博士だけが、


初めて


「覚えている」


と答えたのである。


高砂


「本当ですか?」


博士


「いや。」


「違う。」


「正確じゃない。」


「覚えてるんじゃない。」


長い沈黙。


博士はゆっくり首を振った。


「思い出せないんじゃない。」


「思い出そうとすると。」


「途中で止められる。」


誰も喋らない。


博士は額へ手を当てる。


「壁がある。」


「記憶の前に。」


「その向こう側に。」


「まだ会議は続いてる。」


---


## 異常発生


インタビュー終了後。


身体カメラ映像を再確認した解析班は、


一つの重大な事実を発見した。


博士が


「今日はありがとうございました」


と頭を下げた瞬間。


映像右端。


誰もいないはずの席へ。


一瞬だけ、


人影が映っていた。


画像補正。


輪郭抽出。


赤外線補正。


顔認識。


結果。


**該当人物なし。**


しかし、


椅子へ座るその人影は、


両手を組み、


まるで議長席から会議全体を見渡すような姿勢を取っていた。


解析終了後、映像は自動的に破損。


バックアップデータを含め、当該フレームはすべて消失した。


---


## 研究方針変更通知


本インシデントを受け、NCO-404-JPの研究目的は変更された。


**旧方針**


「異常会議室の構造解析」


↓


**新方針**


「404-JP内部に存在する未知の参加者、および会議の継続目的の解明」


なお、クレイン博士はインタビュー終了時、記録係に対して次の一文だけを書き残している。


> **「あれは部屋じゃない。」**


> **「誰かが、今も会議を終わらせられずにいる。」**


この発言以降、サイト83では「404-JPにおいては、空席を不用意に埋めてはならない」という運用規則が追加制定された。


理由は現在も明らかになっていない。

# MDE内部文書


## 補遺404-03


# 特別実験計画「最後の会議」


---


## 実験概要


クレイン博士によるインタビュー終了後、研究部では一つの仮説が浮上した。


404-JPは単なる異常空間ではない。


内部では現在も何らかの会議が継続しており、その会議には「参加者」が存在している。


ならば、こちらから参加者として振る舞えば、異常側から何らかの反応が得られるのではないか。


この仮説を検証するため、研究部は過去最大規模となる長時間滞在実験を立案した。


実験責任者は高野博士。


現場指揮は紅林澪奈。


護衛として黒岡、高峰、クライム、メアリー。


観測担当として高砂、新木慎介、神楽が同行する。


なお、クレイン博士も参加を希望したが、管理部より「一週間の謹慎」を理由に却下された。


---


### 事前会議記録


高野博士

「今回の目的は収容ではありません。」


「観察です。」


黒岡

「観察ねぇ……。」


「相手が会議してるなら、邪魔しに行くようなもんだろ。」


高砂

「実験開始から二時間以内に退出できなければ中止します。」


神楽

「全員、腕時計の時刻を同期してください。」


新木

「そういや気になることあるんですけど。」


紅林

「何ですか。」


新木

「404いう番号、偶然です?」


高砂が端末から目を離さず答える。


「正式には欠番だった番号です。」


「分類作業中に空いていたため仮登録されました。」


新木は少しだけ首を傾げた。


「……なんか、それも意味ありそうですな。」


その場では誰も返答しなかった。


---


## 実験開始


**開始時刻 08:00**


入口は地下第二資料保管区画に出現。


通常の防火扉と外見上の差異は認められない。


温度、湿度、空気成分、放射線量、霊的反応、魔力濃度。


すべて正常値。


紅林が最後に全員を見回した。


「いつも通りです。」


「異変を感じたら必ず報告してください。」


「一人で判断しないこと。」


黒岡が肩を鳴らす。


「了解、隊長。」


メアリーは小さく笑う。


「普通の会議ならいいんだけど。」


高峰は短く答える。


「普通じゃないから来た。」


クライムは何も言わず、防火扉へ視線を向けていた。


紅林はゆっくりと扉を押し開けた。


---


## 入室


部屋は変わらない。


長机。


白い壁。


プロジェクター。


時計。


ホワイトボード。


前回と違う点は一つだけだった。


椅子が九脚並んでいる。


参加者も九名。


紅林は全員を見渡す。


「……一致しています。」


高野博士が頷く。


「前回までの余剰椅子はありません。」


黒岡が鼻で笑う。


「歓迎されてんのか?」


その瞬間だった。


部屋の照明が一度だけ、小さく明滅した。


パチッ。


それだけ。


しかし高砂は端末を見て眉をひそめる。


「魔力反応、一瞬だけ増加。」


神楽が静かに呟く。


「こちらを認識しました。」


---


## 第一段階


実験開始から二十分。


全員は通常の会議を演じる。


議題は架空。


「地下保管庫の改修計画」。


雑談も交えながら、ごく普通の会議を続けた。


録音記録より抜粋。


高野博士

「では議題一です。」


黒岡

「資料読んでねぇ。」


紅林

「読んでください。」


新木

「黒岡さん絶対そう言う思いました。」


黒岡

「思うだけなら自由だ。」


メアリー

「議事録に書きます?」


黒岡

「やめろ。」


小さな笑い声。


その時。


誰も話していない方向から。


笑い声が重なった。


「…………。」


全員が止まる。


高峰がゆっくり立ち上がる。


「今。」


「誰だ。」


返事はない。


録音を後日解析した結果、その笑い声は九人全員の声質と一致しなかった。


---


## 第二段階


開始から四十七分。


室温が一度だけ二度低下。


時計が止まる。


08:47。


全員の腕時計も同時に停止。


高砂

「時間異常。」


神楽

「外部との同期が切れました。」


クライムは壁際へ移動し、非常口を確認する。


「……ない。」


紅林が振り返る。


「入口は?」


高峰が扉を指差す。


「消えた。」


全員が立ち上がる。


先ほどまで存在した扉が、白い壁へ変わっていた。


誰も慌てない。


慌てれば判断を誤る。


それは全員が理解していた。


高野博士は静かに言う。


「予定通りです。」


「ここからが本番でしょう。」


---


## 第三段階


開始から推定一時間。


ホワイトボードへ文字が現れ始める。


誰も書いていない。


黒い文字がゆっくり浮かび上がる。


> **出席確認**


その下に名前が並ぶ。


紅林澪奈


高野


黒岡


高峰


高砂


神楽


メアリー


クライム


新木慎介


全員、自分の名前を確認する。


その直後。


十行目が追加された。


> **議長**


空欄。


誰も口を開かなかった。


十数秒後。


その空欄へ、誰かが文字を書き込むように、一画ずつ黒い線が現れる。


しかし完成する直前で止まる。


まるで「名前を書けない」ように。


紅林は小さく息を呑んだ。


「……名前が。」


高野博士も頷く。


「認識できない。」


黒岡が苦々しく呟く。


「いや。」


「認識することを拒否されてる。」


その時。


誰も触れていない椅子が、ゆっくりと後ろへ引かれた。


ギィ……


部屋の中央。


空席だった議長席が静かに動く。


そして。


机の上へ、一冊の分厚い議事録が現れた。


革張りの古い表紙。


金文字で刻まれた題名。


**『議事録 第〇回』**


回数だけが滲み、判読できない。


紅林は手を伸ばしかける。


しかし、その瞬間だった。


クライムが彼女の腕を掴む。


「触るな。」


「……。」


「誰かが。」


「まだ書いてる。」


全員が議事録を見る。


ページは誰も開いていない。


それなのに、一枚、また一枚と紙がめくられていく。


カサ……


カサ……


カサ……


静かな音だけが、部屋中へ響き渡る。


そして最後のページで止まった。


ページ中央には、まだ乾いていないインクで、一文だけが書かれていた。


> **「最後の出席者を確認。」**


その直後、部屋全体の照明が一斉に消灯した。


真っ暗な空間で、九人全員が確かに聞いたという。


誰かが、穏やかな声でこう告げるのを。


> **「それでは、会議を再開します。」**


その後の約四分三十二秒間、身体カメラ・音声記録・生命反応ログはすべて同時に途絶えた。


この時間帯に九名が何を見て、何を経験したのかは、現在に至るまで誰一人として説明することができていない。


---


# 補遺404-04


## インシデント「空白の4分32秒」


> **閲覧権限:レベル4以上**

>

> 本補遺には、NCO-404-JP内部で発生した記録消失事象が含まれる。

> 解析中に認識異常が報告されているため、必ず二名以上で閲覧すること。

> 閲覧後は認知チェック(CC-12)を実施すること。


---


## 概要


実験「最後の会議」において、参加者九名は同時に約四分三十二秒間、外部とのあらゆる観測から消失した。


消失中も生命反応は継続しており、全員の心拍・脳波・体温は正常範囲内で推移していた。


しかし、その時間帯に対応する映像・音声・通信・位置情報・魔力観測・霊的観測・重力偏差ログは、例外なく破損していた。


研究部はこの時間帯を**「空白の4分32秒」**と命名した。


---


# 記録媒体解析


### 身体カメラ No.01(紅林澪奈)


映像状態:破損


復元率:0.0%


原因:不明


---


### 身体カメラ No.02(黒岡)


映像状態:破損


復元率:0.0%


原因:不明


---


### 身体カメラ No.03(高野博士)


映像状態:破損


復元率:0.0%


原因:不明


---


九名全員、同一結果。


メーカーも製造番号も異なる機器であり、共通の故障要因は確認されなかった。


---


# 音声解析


音声ファイルは完全には失われていなかった。


約四分三十二秒の区間には、極めて微弱な波形が存在していた。


解析班は最新の音声復元アルゴリズムを使用し、段階的な復元を開始した。


---


## 復元ログ404-A


復元率:11%


---


> 「……席を……確認……」


---


解析終了。


---


研究員コメント


「人の声だ。」


「しかし誰の声でもない。」


---


## 復元ログ404-B


復元率:29%


---


> 「……出席者を確認します。」


---


この時点で解析室内の照明が約0.4秒間だけ消灯。


電源異常は確認されず。


---


## 復元ログ404-C


復元率:46%


---


> 「紅林澪奈。」


---


解析担当者全員が同時にモニターを見る。


誰も返事はしていない。


しかし録音には、


「はい。」


という返答が含まれていた。


声紋一致。


**紅林澪奈本人。**


本人は返答した記憶を否定。


---


## 復元ログ404-D


復元率:61%


---


> 「黒岡。」


「……はい。」


---


黒岡本人は激しく否定。


「俺は絶対に返事なんかしてねぇ。」


複数回の事情聴取でも証言は変わらなかった。


---


## 復元ログ404-E


復元率:74%


---


> 「高峰。」


「はい。」


> 「高砂。」


「はい。」


> 「神楽。」


「はい。」


> 「クライム。」


「はい。」


> 「メアリー。」


「はい。」


> 「新木慎介。」


「はい。」


九名全員の返答が確認された。


ここまでは予想の範囲内だった。


問題は、その次である。


---


## 復元ログ404-F


復元率:88%


---


約十一秒間の沈黙。


紙をめくる音。


椅子が軋む音。


そして、


最後の名前が読み上げられる。


---


> 「□□□□□□□□。」


---


解析システムは自動的に該当部分をマスキング。


理由。


**「発話内容を認識できません。」**


---


しかし。


返事だけは残っていた。


---


> 「……おります。」


---


その声は。


九名の誰とも一致しなかった。


声紋照合率。


0.00%


既知の職員データベース。


一致なし。


死亡職員データベース。


一致なし。


歴代サイト83職員。


一致なし。


---


解析班は、この声を**「第十発話者」**として登録した。


---


# 映像復元計画


音声の成功を受け、映像解析が開始された。


担当。


映像解析班 第三室。


担当者五名。


---


開始時刻


21:18


---


終了時刻


21:46


---


解析結果。


**「成功」**


しかし、保存された映像ファイルは存在しなかった。


---


担当者への事情聴取。


---


主任研究員


「映像は見ましたか。」


解析担当A


「見ました。」


「……たぶん。」


「いえ。」


「思い出せません。」


---


解析担当B


「途中までは覚えています。」


「誰かが席に座っていました。」


「でも。」


「顔が。」


「思い出せない。」


---


解析担当C


「最後まで再生しました。」


「その後。」


「…………。」


「……その後?」


「忘れました。」


---


解析担当D


「見終わった瞬間。」


「何か言われました。」


「何を?」


「思い出せません。」


---


解析担当E


事情聴取不能。


同日深夜、自宅で眠っているところを発見。


身体に異常なし。


脳波正常。


ただし、以後一切「会議」という単語を発音できなくなった。


代わりに、


「集まり」


「打ち合わせ」


「相談」


という表現を使用するようになった。


---


# 解析室監視カメラ


映像は正常。


解析担当者五名が映っている。


問題は、再生終了直後だった。


担当者全員が、同時に立ち上がる。


誰一人相談せず。


誰一人声を掛けず。


まるで事前に決められていたかのように。


全員がモニターへ向かって深く一礼した。


約五秒。


静止。


その後。


椅子を戻し。


資料を整え。


照明を消し。


退出。


この一連の動作は、驚くほど整然としていた。


まるで──


**「会議が終わった後の退出手順」を忠実になぞるように。**


しかし担当者全員が、この行動を記憶していない。


---


# 高野博士 私的研究メモ(抜粋)


> 我々はずっと、404-JPの中で会議が行われていると思っていた。


> 違う。


> あの部屋は「会議をする場所」ではない。


> **会議という現象そのもの**が、あの空間を維持している。


> 出席者がいる限り、議題がある限り、議長が存在する限り。


> 会議は終わらない。


> そして終わらない会議は、世界から忘れ去られてもなお続く。


> だから404-JPは消えない。


> ……では、その「議長」は何者なのか。


> いや。


> 本当に考えるべきは別だ。


> **なぜ、あの議長は今も「閉会」を宣言できないのか。**


---


### 管理部追記


本補遺の公開後、報告書閲覧者87名を対象とした認知調査が実施された。


そのうち31名が、アンケートの自由記述欄に同一の一文を書き残していた。


誰一人、その文章を書いた記憶を持っていなかった。


記載内容は、句読点まで完全に一致している。


> **「次回の議題は、最後の議長について。」**



# 補遺404-05


## 「最後の議長」


> **閲覧権限:レベル5限定**

>

> 本補遺は、インシデント404-Ω以降に回収された歴史資料、旧施設図面、および封印指定文書を統合したものである。

>

> 内容には未検証情報が含まれる。


---


## 第一発見


インシデント404-Ωから約三週間後。


サイト83施設管理AIが、深夜02時17分に一件の保守通知を発行した。


通知内容は極めて簡潔だった。


---


**設備点検予定**


対象:


**地下第四会議室**


担当:


施設保全部


予定時間:


03:00〜03:30


---


施設保全部へ確認を行った結果、そのような点検予定は存在しなかった。


さらに調査すると、通知を送信したアカウントは二十年以上前に削除された旧管理システムの権限を使用していた。


その権限は現在のサーバーには登録されていない。


にもかかわらず、認証ログは正常処理として記録されていた。


---


## 古い図面


この通知をきっかけに、研究部はサイト83建設以前の土地資料を再調査した。


地下施設建設前、この土地は旧国立異常現象研究所の演習施設として利用されていたことが判明した。


さらに地下倉庫から、一冊の製本図面が発見される。


紙は著しく劣化していたが、一枚だけ判読可能な設計図が残っていた。


そこには現在のサイト83には存在しない部屋が描かれていた。


---


**第四会議室**


定員:十三名


用途:


**対策会議専用**


---


研究部は現行図面との比較を行った。


奇妙なことに、第四会議室を削除した形跡は存在しなかった。


壁も廊下も自然につながっている。


まるで、最初から「部屋だけが存在しなかった」ように設計図が書き換えられていた。


しかし、紙の下層を特殊薬剤で分析した結果、削除された線が検出される。


つまり、設計図は後から改変されていた。


誰が、いつ、何のために改変したのかは不明である。


---


## 回収資料404-11


図面と同じ保管箱から、一冊の革張りの議事録が回収された。


表紙に題名はない。


最初の数ページは白紙。


その後、手書きの議事録が始まる。


インクの年代測定では約四十年前に書かれたものと推定された。


---


### 抜粋


> 出席者 十二名


> 議長 一名


> 議題


> 「███事案への対応」


---


次ページ。


---


> 会議継続。


---


次ページ。


---


> 会議継続。


---


次ページ。


---


> 会議継続。


---


この記述が、百四十八ページにわたって続いていた。


議論の内容は一切ない。


決定事項もない。


ただ、


**「会議継続」**


だけが延々と記録されていた。


最後のページだけ、文字が異なっていた。


---


> 閉会できず。


---


## 特別調査班編成


高野博士は新たな調査班を編成した。


目的は一つ。


「最後の議長」の身元を特定すること。


候補者は過去四十年間にサイト83および旧施設で勤務した管理職員、主任研究員、所長経験者、対策委員長など計三百二十六名。


顔写真、声紋、筆跡、DNA、魔力波形を404-JP内部で得られた断片データと照合した。


結果。


**一致率100%の人物は存在しなかった。**


しかし、一名だけ極めて高い一致率を示す記録が見つかる。


一致率:98.7%。


人物名は記録上から完全に消失していた。


職員名簿では氏名欄だけが空白。


顔写真は黒く塗り潰されている。


職員番号だけが残っていた。


---


**職員番号:000001**


---


配属部署。


---


**会議運営室**


---


現在のMDEには、そのような部署は存在しない。


旧研究所の組織図にも記載はない。


にもかかわらず、人事データだけが残っていた。


---


## 音声照合


研究部は404-JPで録音された「第十発話者」の音声と、旧施設に残るオープンリールテープを照合した。


百二十七時間分の録音を解析した結果、一つだけ酷似する音声が検出された。


録音日は不明。


雑音の向こうで、男性の声が聞こえる。


---


> 「議長、閉会を。」


約八秒の沈黙。


別の声が答える。


---


> 「まだ一人来ていない。」


---


録音終了。


そのテープには、日付も場所も記されていなかった。


---


## 高野博士 私的考察


> 我々は「議長」を一人の人物だと考えてきた。


> しかし、それは思い込みだったのかもしれない。


> もし議長という役割そのものが異常化したのだとしたら。


> 誰かが議長になった瞬間、その人物ではなく「議長」という概念へ置き換えられてしまうのではないか。


> だから名前を認識できない。


> 顔も思い出せない。


> 声も記録できない。


> 残るのは「議長がいた」という事実だけ。


---


## 追記:施設管理AIの異常応答


補遺作成中、研究員が管理AIへ次の質問を行った。


---


質問


「地下第四会議室の議長は誰ですか。」


AIは約十二秒間応答を停止した。


通常、このAIの平均応答時間は0.08秒である。


十二秒後、返答が表示された。


---


**回答**


> 「現在も会議中です。」


---


追加質問。


「閉会予定はありますか。」


---


回答。


> 「ありません。」


---


最後に、研究員は何気なくこう尋ねた。


「会議はいつ始まったのですか。」


AIは初めて「日時」ではなく、「条件」で答えた。


---


> **「最後の出席者が欠席した日から。」**


---


その直後、管理AIは自動的に再起動を開始した。


障害ログは残されていない。


ただし、再起動後の監査記録には、通常存在しない一行だけが追加されていた。


---


**議題更新完了**


**次回議題:閉会宣言**


**状態:保留(出席者不足)**

# MDE内部文書


## 最終補遺404-


### 終了報告


インシデント404-Ωから██日後。


機動部隊γ-9「Magic Numbers」による最終調査作戦が実施された。


作戦目的は一つ。


**「閉会宣言」を行い、NCO-404-JPを終了させること。**


作戦には紅林澪奈、高野博士、黒岡、高峰、高砂、神楽、メアリー、クライム、新木慎介が参加した。


その後の詳細については、一切の記録が存在しない。


身体カメラ。


音声記録。


生体ログ。


無線通信。


現場監視映像。


施設AIログ。


すべて同一時刻を境に消失した。


現場へ突入した救助部隊は、地下区画に異常を確認できなかった。


第四会議室は発見されず、入口も存在しなかった。


地下構造を三次元スキャンした結果、当該空間が存在した痕跡そのものが確認できなかった。


現在、サイト83に「地下第四会議室」は存在しない。


存在したという証拠も確認されていない。


---


## 調査終了報告


NCO-404-JPに関する全調査は終了した。


理由は以下の通りである。


・対象空間の消失


・異常現象の再現不可


・全関連資料の自然消失


・担当研究員による記憶喪失


・施設記録との整合性消失


本件は、これ以上の研究継続が不可能であると判断された。


---


## 管理部通達


文書番号 MDE-ADM-███


本日をもって、


**NCO-404-JPは管理対象一覧より削除する。**


関係資料は全件廃棄。


電子データは完全消去。


紙媒体は焼却処分。


バックアップを含む全保存領域の消去を確認した。


本処置に対する異議申し立ては認められない。


---


## システムログ


```

MDE INTERNAL DATABASE

```


```

Accessing File...

```


```

NCO-404-JP

```


```

Loading...

```


```

Verifying Integrity...

```


```

Synchronizing Backup...

```


```

Searching Archive...

```


```

Done.

```


---


```

ERROR

```


# **404 Not Found**


---


```

対象データは存在しません。

```


---


```

バックアップを検索しています...

```


```

...

```


```

No Backup Found

```


---


```

関連資料を検索しています...

```


```

議事録

```


```

0 Files

```


```

映像

```


```

0 Files

```


```

音声

```


```

0 Files

```


```

写真

```


```

0 Files

```


```

実験記録

```


```

0 Files

```


```

担当研究員

```


```

Not Found

```


```

主任研究員

```


```

Not Found

```


```

地下第四会議室

```


```

Not Found

```


```

議長

```


```

Not Found

```


```

最後の出席者

```


```

Not Found

```


---


```

システム確認

```


```

閉会を確認しました。

```


---


```

ファイルを終了します...

```


```

End of File

```


---


```

...

```


```

...

```


```

...

```


---


```

SYSTEM LOG

```


```

新規会議を作成しています...

```


---


```

議題:

```


**NCO-404-JP報告書閲覧者について**


---


```

出席者

```


**1名**


---


```

出席確認中...

```


```

……

```


```

……

```


```

承認

```


---


```

議長:

「それでは――」

```


```

「会議を再開します。」

```


次回予告

# Tale-01 # 閉会まで、あと一人 第一章 地下第四会議室

9月6日18時投稿予定

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