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異常世界の歩き方 MDE(国際異常研究機構)  作者: 神代千早


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65/85

Tale「忘れ物」

毎日21時投稿

金土日18時、21時、2本投稿予定

この章は5分ぐらいで読めます

よかったらコメント感想など聞かせてください!

Tale「忘れ物」


 最初に見つかったのは、小さな櫛だった。


 サイト83低危険度物品収容区画。NCO-72-JP収容室の前を清掃していた職員が、壁際に置かれた紙袋を発見した。


 茶色い、ごく普通の紙袋だった。


「これ、誰かの忘れ物ですか?」


 清掃職員から連絡を受けた██研究員は、紙袋を覗き込んだ。


 中には赤い髪飾りと、子供用と思われる小さな櫛が入っている。


「……誰のだ?」


「分からないんですよ。さっき来たら置いてあって」


「触った?」


「袋を移動させただけです」


 ██研究員はため息をついた。


「次から、この区画で知らない物を見つけても触らないでください」


「すみません」


「まあ、何も起きてないならいいですけど」


 そう言いながら、██研究員は収容室を見る。


 厚い扉の向こうには、NCO-72-JP――「お下がり」が収容されている。


「一応、検査に回します」


 その日は、それだけだった。


*


 翌朝。


「研究員」


「はい?」


「またです」


 昨日と同じ場所に、紙袋が置かれていた。


 中身は小さな草履だった。


「……監視映像は?」


「確認しました」


「誰が置いた?」


「誰も」


 ██研究員は眉をひそめた。


「誰も?」


「昨日の午後八時十三分には何もありません」


 警備担当者が映像を再生する。


「八時十四分」


 映像が一瞬だけ乱れた。


 ほんの一秒にも満たないノイズ。


 映像が戻る。


 紙袋が置かれていた。


「……なるほど」


「どうします?」


「収容物として扱います。72-JPとの関連性も調べてください」


 紙袋は回収された。


 NCO-72-JPには変化なし。


 人形はいつも通り、保管箱の中に座っていた。


*


 三日目。


 子供用の着物。


 四日目。


 小さな下駄。


 五日目。


 古びた手鏡。


 六日目。


 写真が三枚。


 すべて、NCO-72-JPの歴代所有者と思われる人物が写ったものだった。


「これ、どこから来てるんですかね」


 補助研究員が写真を並べながら言った。


「それが分かれば苦労しない」


「でも、変ですよね」


「何が?」


「全部、女の子の物じゃないですか」


 ██研究員は机に並べられた物品を見る。


「……そうだな」


「人形が欲しがってるんでしょうか」


「余計な推測はするな」


「すみません」


 ██研究員は写真を一枚手に取った。


 三枝ハル。


 まだ幼い頃の写真だった。


 その腕にはNCO-72-JPが抱かれている。


 写真の裏には、子供の字で一言。


おねえちゃん。


「…………」


 ██研究員は写真を裏返した。


「これ、分析班に回して」


「はい」


 そのときは、それ以上考えなかった。


*


 七日目。


 紙袋はなかった。


 代わりに、収容室の前に赤いランドセルが置かれていた。


「……随分大きくなったな」


 ██研究員は防護手袋を装着し、ランドセルを開いた。


 中には一冊のノートだけが入っていた。


 黄色い表紙。


 幼児向けの動物のイラスト。


 中央に、鉛筆でタイトルが書かれている。


かぞくのきろく


「撮影」


「しています」


 ██研究員はページを開いた。


 一ページ目。


おかあさん


 その下に、NCO-72-JPの写真が貼られていた。


「……やっぱり72-JPか」


 次のページ。


おねえちゃん


 三枝ハルの写真。


 次。


おねえちゃん


 三枝美琴。


 さらにページをめくる。


 名前の判明している歴代所有者。


 男性もいる。


 女性もいる。


 老人もいる。


 全員、同じ呼び方だった。


おねえちゃん


「待ってください」


 補助研究員が言った。


「なんだ?」


「報告書では……所有者は前の所有者を『母親』だと認識するんですよね?」


「ああ」


「じゃあ、これを書いたのは誰です?」


 ██研究員の手が止まった。


 答えられなかった。


 ページをめくる。


 最後の一枚。


 そこには文字だけが書かれていた。


つぎのおねえちゃん


 その下には、空白があった。


「……写真がない」


「ですね」


「とりあえず閉じよう」


 ██研究員がノートを閉じようとした。


 その瞬間。


 ページの間から何かが滑り落ちた。


 写真だった。


 床へ落ちる。


「…………」


 ██研究員は拾い上げた。


 そして、動きを止めた。


「どうしました?」


 写真には、女性が一人写っていた。


 白衣。


 長い髪。


 首から下げたサイト83の職員証。


 NCO-72-JPの収容室前で、赤いランドセルを調べている。


 ██研究員自身だった。


 つい数分前の姿。


「……誰が撮った?」


 補助研究員が周囲を見る。


「監視カメラじゃないですよね、この角度」


 違う。


 写真は廊下側からではない。


 ██研究員の背中側。


 つまり――。


 二人は同時に収容室を見た。


 扉の向こう。


 さらにその奥の保管箱。


 防弾ガラス越しに、NCO-72-JPが見える。


「…………」


 ██研究員は何も言わなかった。


 昨日まで、人形は収容室正面を向いていた。


 記録映像にも残っている。


 だが今は違った。


 NCO-72-JPの顔は、わずかに横を向いている。


 ガラス越しに。


 まっすぐ██研究員を見ていた。


 補助研究員が小さく呟く。


「……お母さんが、選んだんですかね」


「違う」


 ██研究員は写真を握りしめた。


「何がです?」


「報告書だ」


 視線を人形から外さないまま答えた。


「俺たちはずっと、こいつが家族を作ってると思ってた」


 人形は動かない。


「でも……」


 ██研究員はノートを見る。


 一ページ目。


おかあさん


 その下に写っているのは、市松人形。


「だったら――」


 声が少し震えた。


「このノートを書いた『娘』は、どこにいる?」


 誰も答えなかった。


 収容室の中で、市松人形だけがこちらを見ていた

次回予告


NCO-122「よい子でしたか?」


10月17日21時投稿予定

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