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異常世界の歩き方 MDE(国際異常研究機構)  作者: 神代千早


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47/85

第四章 帰れない家 ## 前編②

毎日21時投稿

金土日18時、21時、2本投稿予定

この章は10分ぐらいで読めます

よかったらコメント感想ください!

階段は、どこまでも下へ続いていた。


 足元を照らすライトの光は、数メートル先で濃い闇に飲み込まれている。壁は土でできていた。削り出された岩でも、整えられた地下通路でもない。湿った黒土を人の手で押し固め、無理やり道の形にしたような、狭く歪な階段だった。


 左右の壁から、細い木の根が伸びていた。


 根はところどころで絡まり、指のような形を作っている。紅林たちが通り過ぎるたび、その先端がわずかに動いた。


 逃げる者の背を惜しむように。


 あるいは、帰ってきた家族へ手を伸ばすように。


 先頭を進む神楽が、左手を上げた。


 全員が足を止める。


 八人分の足音も止まった。


 最後尾にいる紅林は、すぐには振り返らなかった。


 振り返って何かを確認する行為そのものが、相手の存在を認めることになる。


 認識する。


 名前を与える。


 家族として数える。


 この家では、そうした小さな行為の一つ一つが契約の一部になり得る。


「状況報告」


 紅林は低い声で言った。


「前方、およそ十メートル先で階段が終わっています」


 神楽が答える。


「空間らしきものがあります。熱源反応なし。生体反応もなし」


「後方は」


 黒岡がライトを上へ向けた。


「扉は見えない。階段が続いているだけだ」


「上り方向にもですか」


「ああ」


 彼らは降りてきた。


 確かに降りてきたはずだった。


 それなのに、背後には上へ続く階段ではなく、さらに下へ沈んでいく闇があった。


 角度がおかしい。


 重力がおかしい。


 空間そのものが、進行方向に合わせて作り替えられている。


 新木慎介は壁に手を近づけた。


 触れる直前で止める。


「この土、生きとるな」


 高峰が眉をひそめる。


「比喩か」


「半分はな」


「残り半分は」


「ほんまに脈打っとる」


 新木は耳を壁へ近づけた。


 湿った土の奥から、ごく小さな音が聞こえていた。


 どくん。


 どくん。


 どくん。


 心臓の鼓動。


 それも一つではない。


 大人の速さ。


 子供の速さ。


 老人の遅い鼓動。


 何十人分もの心音が、壁の中で重なっている。


「こいつ、家いうより巣やな」


 新木は顔を離した。


「帰ってきた人間を部屋に収めて、記憶と形を使うて、自分を増築しとる」


「伊吹班も材料にされたということですか」


「体だけ見りゃ、そうやろな。ただ、全部が偽物とも限らへん」


 紅林が新木を見る。


「どういう意味です」


「あいつらには記憶があった。メアリーが言うた通り、思考も感情もあった。せやけど七人が全部同じになっとった」


 新木は焦げた契約書を胸元のポーチへ押し込んだ。


「個人を消して、一つの帰宅者にまとめたんや。七人分の記憶を、七つの体に同じように詰め直した。せやから、誰もが伊吹真人で、誰も伊吹真人やない」


「統合人格」


 神楽が言った。


「というより、家が使いやすい形に加工した残骸やな」


 メアリーが小さく首を振った。


「残骸じゃない」


 全員の視線が彼女へ集まる。


 メアリーは青ざめた顔で、暗い階段の上方を見つめていた。


「まだいるよ」


「誰が」


「伊吹さんたち」


 彼女は自分の胸元へ両手を当てた。


「上にいた七人とは別に、もっと深いところにいる。バラバラになってるけど、消えてない」


「人格の原型が保存されている?」


「分からない。でも、泣いてる。ずっと帰りたいって言ってる」


 八人目の足音が、一段だけ下りた。


 こつ。


 全員が武器を構える。


 紅林は振り返らない。


「メアリー。背後の存在を感じられますか」


「感じる」


「人間ですか」


「分からない」


「敵意は」


「ない」


 メアリーの声が、さらに小さくなる。


「でも、寂しい」


 八人目の足音が、もう一段近づく。


 こつ。


「近づいてきます」


 高峰が銃口を上げた。


「撃つか」


「まだです」


 紅林は静かに答えた。


「相手がこちらを家族として数えようとしている可能性があります。こちらから関係を定義しないでください」


 黒岡が低く言う。


「見なければいいのか」


「少なくとも、今は」


 クライムが前方を確認した。


「神楽。下に動きがある」


 階段の終わり。


 そこにあった闇の中で、何かが揺れた。


 光を向ける。


 古い暖簾だった。


 白い布に、薄墨で文字が書かれている。


 おかえりなさい。


 暖簾の向こうには、広い地下室があった。


 神楽は入口の手前でしゃがみ込み、簡易センサーを床へ置いた。


 数値は安定している。


 異常値は検出されない。


 それが、この場所では最も信用できない結果だった。


「先行します」


「二名で」


 紅林の指示を受け、神楽と黒岡が暖簾をくぐった。


 二人の姿が白布の向こうへ消える。


 数秒。


 通信は途切れない。


『室内確認。広さはおよそ学校の体育館程度』


 神楽の声が無線から届いた。


『天井高、推定五メートル。中央に複数の構造物あり。人影は――』


 雑音。


『人影、多数』


「生体反応は」


『ありません。ただし』


 神楽の声が止まった。


「ただし、何です」


『全員、こちらを向いています』


 紅林は即座に決断した。


「順次進入。隊形を崩さないでください」


 高峰、メアリー、新木、クライム。


 最後に紅林が暖簾をくぐる。


 八人目の足音も、布の向こうまでついてきた。


 地下室は、異様に広かった。


 照明器具はない。


 それでも、どこからともなく薄い橙色の光が漂っている。夕暮れ時の家の中に似た、温かく、懐かしく、どこか寂しい光だった。


 空間の中央には、小さな部屋が無数に並んでいた。


 壁も屋根もなく、床だけで区切られた部屋。


 畳敷きの居間。


 病院の個室。


 学校の教室。


 会社の休憩室。


 アパートの玄関。


 古い農家の土間。


 駅の待合室。


 ホテルの一室。


 どれも人が「帰る場所」として記憶し得る空間だった。


 それぞれの部屋には、人がいた。


 正確には、人の形をしたものがいた。


 畳の上に正座する老人。


 病室のベッドに横たわる女。


 ランドセルを背負った少年。


 作業着姿の男。


 制服姿の少女。


 全員が静止している。


 瞬きもしない。


 呼吸もしない。


 だが、蝋人形ではなかった。


 皮膚には毛穴があり、髪は一本ずつ揺れ、目の表面には薄い水分が浮かんでいる。


 生きているように見える。


 死んでいるようにも見える。


 その全員が、紅林たちの方を向いていた。


「数は」


 紅林が尋ねる。


「確認できる範囲で百二十七」


 神楽が答える。


「奥にも続いています」


 高峰がライトを遠くへ向けた。


 光の先にも部屋が並んでいる。


 さらにその先にも。


 地下室の壁は見えない。


 終わりがない。


「これ全部、帰れへんかった人間か」


 新木の声から、いつもの軽さが消えていた。


 メアリーが一歩踏み出す。


 すぐに黒岡が腕をつかんだ。


「近づくな」


「あの子、泣いてる」


 メアリーの視線の先。


 ランドセルを背負った少年がいた。


 少年の顔は笑っていた。


 口角を上げ、目を細め、誰かの帰宅を喜んでいるような表情。


 それでもメアリーには、別のものが聞こえていた。


「お母さんに会いたいって」


 少年の口は動かない。


 しかし、メアリーの耳には声が届いている。


「帰ったら怒られるって。遅くなったから。でも、怒られてもいいから帰りたいって」


「聞くな」


 黒岡が強く言った。


「それは本人の声とは限らない」


「分かってる」


「分かってない顔だ」


 メアリーは俯いた。


 その瞬間、少年の首が動いた。


 ぎ、と乾いた音を立てて、メアリーの方へ傾く。


 笑顔のまま。


「お姉ちゃん」


 少年の口が開いた。


 声が聞こえた。


 今度は精神感応ではない。


 全員の耳に届く、実際の音だった。


「お姉ちゃんも帰れないの」


 メアリーの足が止まる。


 少年は立ち上がらない。


 ただ首だけを傾けている。


「お母さん、待ってるよ」


 黒岡が少年とメアリーの間に立った。


「口を閉じろ」


「お兄ちゃんも待ってるよ」


 少年の視線が黒岡へ移る。


「ずっと待ってる」


 黒岡の表情が変わった。


 ほんのわずかだった。


 だが紅林は見逃さなかった。


「黒岡」


「問題ない」


「今、誰の声を聞きました」


「問題ないと言った」


 少年の声が変わった。


 幼い声ではない。


 成人男性の声。


 黒岡より少し若い男の声だった。


「兄貴」


 黒岡の肩が硬くなる。


「遅かったな」


 少年の顔は笑ったままだった。


 しかし、声だけが親しげに、懐かしそうに響く。


「帰ってこいよ」


 黒岡は銃を上げた。


 引き金へ指をかける。


 紅林が彼の腕を押さえた。


「撃たないでください」


「あれは俺の弟じゃない」


「分かっています」


「なら止めるな」


「あなたが撃てば、弟を拒絶したという関係が成立します」


 黒岡の目が紅林へ向いた。


「関係を結ばせるなということか」


「はい」


 少年は笑い続けている。


「兄貴」


 黒岡は目を閉じた。


 深く息を吸う。


 ゆっくりと銃口を下げた。


「俺に弟はいない」


 紅林が即座に言う。


「否定もしないでください」


「面倒な家だな」


 黒岡は少年に背を向けた。


 少年の声が止まる。


 その口が、ゆっくりと閉じた。


 次の瞬間、周囲の人形たちが一斉に声を発した。


「おかえり」


「おかえりなさい」


「遅かったね」


「ご飯できてるよ」


「どこに行ってたの」


「心配したんだから」


 百を超える声。


 男。


 女。


 老人。


 子供。


 それぞれが、マジックナンバーズの誰かにとって聞き覚えのある声へ変わっていく。


 紅林の耳にも届いた。


「澪奈」


 女の声だった。


 静かで、優しい。


 記憶の奥に沈めていた声。


 忘れたことにしていた声。


「おかえり」


 紅林は足を止めない。


 声の方を見ない。


「隊長」


 神楽が呼びかける。


「聞こえていますか」


「聞こえています」


「影響は」


「ありません」


 嘘だった。


 胸の奥に、小さな痛みがある。


 それでも足は止めない。


 隊長が止まれば、全員が止まる。


 家はそれを待っている。


「全員、声に反応しないでください」


 紅林は命じた。


「呼びかけられても、肯定も否定もしない。家族関係を認める発言を避けてください」


「了解」


 神楽が答える。


 他の者たちも続く。


 新木だけは、周囲を観察しながら眉をひそめていた。


「なんや、変やな」


「何がです」


「こいつら、ただ誘惑しとるんやない」


 新木は最寄りの部屋へ視線を向けた。


 そこには古いちゃぶ台があった。


 ちゃぶ台を囲む四人家族。


 父親。


 母親。


 息子。


 娘。


 全員が笑顔で、何もない皿へ箸を伸ばしている。


「再現しとる」


「何を」


「帰りたかった瞬間や」


 新木は部屋の床へ刻まれた文字を指した。


 薄く、ほとんど消えかけている。


 名前。


 日付。


 場所。


 そして短い願い。


 もう一度、家族で食事がしたい。


「ここにおる連中は、家に帰りたかったんやない」


 新木が言う。


「帰れへんようになった瞬間に戻りたかった。死ぬ前。別れる前。壊れる前。家が家やった最後の時間に」


「その願いを利用している」


「せや。鬼灯産業は契約を守っとる」


 新木の口元が歪む。


「帰宅を望む者を、望んだ家に返しとる。時間も、場所も、生死も関係なくな」


「ただし、本人として帰すとは限らない」


「それだけやない」


 新木は一枚の床板を調べた。


 板の隙間に、細い紙が挟まっている。


 引き抜く。


 鬼灯産業の印が押された、小さな注意書きだった。


「読めますか」


「読める」


 新木は紙面へ目を走らせた。


「利用者の帰宅希望が現実の物理的、時間的、社会的条件により達成困難な場合、本設備は希望の本質を抽出し、代替環境の構築をもって履行とする」


 高峰が顔をしかめる。


「代替環境」


「この地下室や」


「偽物の家を作り、帰したことにする」


「偽物とは書いとらん」


 新木は紙を裏返した。


「本人が帰宅したと認識できる環境。契約上は、それで十分や」


「認識できない者は」


「できるように加工される」


 紅林は、伊吹たちの姿を思い出した。


 七人が一つになった帰還者。


 個人の記憶を均し、疑問を消し、帰宅を喜ぶ人格へ作り替える。


 帰宅を保証するために、帰宅を拒絶できない人間へ変える。


 鬼灯産業は、契約を破っていない。


 帰りたい者を帰している。


 ただし、人間性を守るとは約束していない。


「隊長」


 クライムが前方を示した。


「道がある」


 無数の部屋の間に、細い廊下が伸びている。


 畳一枚分ほどの幅。


 両側には、背の高い柱が並んでいた。


 柱の一本一本に、小さな鳥籠が吊るされている。


 籠の中には、木製の小鳥が一羽ずつ入っていた。


 数え切れないほどの小鳥。


 どれも翼を閉じ、首を垂れている。


 腹部には名前が刻まれていた。


 日本人の名前。


 外国人の名前。


 読めない文字。


 数字だけのもの。


 記号だけのもの。


 中には、名前のない小鳥もいた。


「全部、利用者か」


 神楽が言う。


「あるいは候補者です」


 紅林は先頭を進む。


 柱の間を通るたび、籠の中の小鳥が顔を上げた。


 木製の目が、彼らを追う。


 ちち。


 一羽が鳴いた。


 続いて別の一羽。


 ちち。


 ちちち。


 鳴き声は徐々に増えていく。


 その音は、言葉に似ていた。


 かえりたい。


 かえりたい。


 かえりたい。


 小鳥たちが一斉に羽ばたく。


 籠が揺れる。


 金具が鳴る。


 廊下全体が、無数の帰宅願望で満たされていく。


 メアリーが頭を抱えた。


「うるさい」


「精神防御を上げろ」


 黒岡が彼女の肩を支える。


「無理」


「無理でもやれ」


「みんな、帰りたいって言ってる」


「聞くな」


「聞こえるんだよ!」


 メアリーの声が大きくなった。


 小鳥たちの鳴き声が止まった。


 全ての木製の頭が、同時に彼女へ向く。


 新木が顔色を変えた。


「まずい」


 籠の扉が一斉に開いた。


「伏せろ!」


 無数の小鳥が飛び出した。


 木製の翼。


 細い爪。


 尖ったくちばし。


 群れは黒い雲のように廊下を埋め、紅林たちへ襲いかかる。


 神楽が発砲する。


 弾丸が数羽を砕く。


 破片は床へ落ちる前に、赤い紙片へ変わった。


 黒岡が腕でメアリーの頭を庇う。


 高峰が散弾銃を撃つ。


 木片が飛び散る。


 だが数が多すぎる。


 小鳥たちは装備の隙間へ爪を立て、耳元で人間の声を囁いた。


「帰ろう」


「帰りたいでしょう」


「待ってるよ」


「一人にしないで」


 紅林の肩に一羽が止まる。


 腹部には、彼女の名前が刻まれていた。


 先ほどの鳥箱から飛び出した一羽と同じもの。


 紅林澪奈。


 小鳥は彼女の耳元で、女の声を発した。


「澪奈」


 紅林は鳥をつかまなかった。


 撃ち落としもしない。


 無視する。


「新木、対処法は」


「籠や!」


 新木は群れの中で叫んだ。


「鳥を壊しても戻ってくる! 籠の方が本体や!」


「対象を指定してください」


「名前のない籠を探せ!」


「理由は」


「こいつら全部、名札で管理されとる! 名前のない十三羽目が全体の空席になっとるんや!」


 紅林は柱を見回した。


 数百。


 数千。


 無数の籠。


 その中から名前のないものを探す。


「神楽、照明弾」


「了解」


 神楽が天井へ小型照明弾を撃ち込む。


 白い光が炸裂した。


 地下空間全体が、一瞬だけ昼のように明るくなる。


 柱。


 鳥籠。


 部屋。


 人形。


 そして遥か前方。


 廊下の突き当たりに、大きな鳥籠があった。


 人間が入れるほど大きい。


 中には、誰かが座っている。


 白いワンピース。


 長い黒髪。


 顔のない少女。


 彼女は膝を抱え、こちらを見ていた。


 籠の上には札がある。


 名前は書かれていない。


「あれです」


 紅林が言う。


「前進します。隊形を維持」


「この群れの中をか」


 高峰が叫ぶ。


「止まれば数えられます」


 紅林は銃床で肩の小鳥を払い落とした。


「進んでください」


 マジックナンバーズは前進した。


 黒岡と高峰が左右から鳥の群れを押し返す。


 神楽が短い射撃で進路を作る。


 クライムはワイヤーを柱へ打ち込み、各員の身体を繋いだ。


 離れれば家に取り込まれる。


 名前を呼ばれれば家族にされる。


 一人でも欠ければ、十三羽目にされる。


 だから全員を繋ぐ。


 物理的に。


 隊として。


 家族ではない別の関係として。


 新木は走りながら札を取り出した。


 群れへ投げる。


「東に門なし、西に宿なし、南に縁なし、北に名なし!」


 札が空中で燃える。


 青白い火が輪を作った。


 火に触れた小鳥たちが、一瞬だけ動きを止める。


「今や!」


 紅林たちは一気に距離を詰めた。


 大きな鳥籠まで、残り二十メートル。


 少女が立ち上がる。


 籠の扉は閉じている。


 彼女は内側から、両手で格子を握った。


「来ないで」


 初めて、拒絶の言葉を口にした。


 紅林は足を止めない。


「あなたは誰です」


「来ないで」


「名前を答えてください」


「名前はない」


 少女の声が震えていた。


 これまでの無機質な声ではない。


 幼い子供の声だった。


「名前をつけないで」


「なぜです」


「帰れなくなるから」


 少女の背後。


 鳥籠の床に、小さな箱が置かれていた。


 十三個の穴を持つ、小鳥箱。


 十二の穴には木製の鳥がいる。


 最後の穴だけが空いている。


 紅林は銃口を下げた。


「あなたが十三羽目ですか」


 少女は激しく首を振った。


「違う」


「では誰です」


「まだいない」


「この家は、誰を探しているのですか」


「帰りたい人」


「それでは答えになりません」


「みんな帰りたい」


 少女の指が格子へ食い込む。


 皮膚が裂れた。


 血は出ない。


 中から白い紙が覗いた。


「だから、誰でもいい」


 その言葉と同時に、地下室の全ての人形が立ち上がった。


 百二十七。


 いや、それ以上。


 遠くに並ぶ者たちも。


 終わりのない部屋にいた全員が、ゆっくりと起き上がる。


 顔は笑っている。


 身体は硬い。


 それでも一斉に、紅林たちへ歩き始めた。


 鳥の群れも旋回をやめる。


 全てが大きな籠の周囲へ集まってくる。


「包囲されます」


 神楽が言う。


「突破する」


 黒岡が前へ出た。


「待ってください」


 紅林は少女を見つめた。


「この子は、家を止めようとしている」


「根拠は」


「私たちに近づくなと言いました」


 少女は格子を握ったまま、泣いていた。


 顔には目がない。


 涙も流れない。


 それでも泣いていることだけは分かった。


「帰れない人が増える」


 少女が言う。


「また家族が増える」


「あなたは、この家の家族ですか」


「違う」


「鬼灯産業の関係者ですか」


「違う」


「では、なぜここにいるのです」


 少女は答えなかった。


 代わりに、籠の奥へ視線を向けた。


 小鳥箱。


 その下に、何かが挟まっている。


 紙。


 古い写真。


 紅林は格子越しに目を凝らした。


 写真には、一軒の家が写っていた。


 現在の屋敷と同じ家。


 玄関の前に、家族が並んでいる。


 老夫婦。


 成人した男女。


 数人の子供。


 その中に、白いワンピースの少女がいた。


 顔がある。


 笑っている。


 年齢は十歳前後。


 写真の裏には、日付と名前が書かれていた。


 平成十三年八月十三日。


 祝・家族帰宅支援設備導入。


 そして家族全員の名前。


 少女の名前もある。


 千鳥。


「千鳥」


 紅林が読み上げた。


 少女が絶叫した。


「呼ばないで!」


 大きな鳥籠が激しく揺れた。


 全ての小鳥が一斉に鳴く。


 人形たちが走り出す。


 地下室の天井が軋む。


 少女の顔に、縦の亀裂が入った。


「名前を呼んだ」


 籠の下にある小鳥箱。


 空いていた十三番目の穴から、木製の頭がゆっくりと突き出した。


 何も刻まれていなかった腹部に、文字が浮かび始める。


 千鳥。


 少女は格子へ身体を打ちつけた。


「違う!」


 木の鳥が箱から飛び出す。


 少女の胸へ突き刺さった。


 白いワンピースが裂ける。


 中から大量の赤い糸があふれ出した。


 糸は鳥の脚へ絡みつき、少女の身体を吊り上げる。


「私は帰りたくない!」


 初めて聞く、はっきりとした拒絶。


 家全体が震えた。


 柱が折れる。


 吊るされた鳥籠が落下する。


 人形たちの笑顔が崩れ、口が裂ける。


「家に帰りたくない!」


 少女――千鳥は叫び続けた。


「ここは私の家じゃない!」


 新木の目が見開かれた。


「そうか」


 彼は契約書を引き抜いた。


 何度も読み返す。


「隊長! この子や!」


「何がです」


「最初の契約者や! けど、契約対象やない!」


「説明してください」


「契約書には帰宅を希望するすべての者を対象にするって書いとった。せやけど、この子は帰宅を望んどらん!」


 新木は赤い糸に吊られた千鳥を指した。


「この設備は、帰りたい人間にしか効かへんはずや! なのにこの子を中心に動いとる!」


「契約違反」


「いや、もっと悪い」


 新木は歯を食いしばった。


「この子を帰りたいことにし続けんと、契約そのものが成立せえへんのや!」


 千鳥が拒絶するたび、地下室が崩れていく。


 人形たちは頭を抱え、口々に叫び始めた。


「帰りたい」


「帰りたい」


「帰りたい」


「帰りたい」


 自分の意思ではない。


 家に言わされている。


 契約を維持するために。


 帰宅希望者を絶やさないために。


「鬼灯産業は設備を売った」


 新木が言う。


「家族の誰かが帰宅を願い続ける限り、失われた家族を帰す設備として。せやけど、本当の契約者が死ぬか、願いを失うたら設備は止まる」


「だから千鳥を閉じ込めた」


「この子を帰れへん状態にして、帰りたい願いを作り続けたんや」


「本人が拒絶しても」


「拒絶を帰宅願望に読み替えとる」


 新木は契約書の一節を指で叩いた。


「帰宅を拒絶する発言は、帰宅環境への不満と解釈し、より適切な帰宅環境を再構築する」


 紅林は理解した。


 千鳥が「帰りたくない」と言う。


 設備はそれを「この家ではない家へ帰りたい」と解釈する。


 別の家を作る。


 それも拒絶される。


 さらに新しい家を作る。


 拒絶が続く限り、設備は終わらない。


 家は増え続ける。


 帰れない者を取り込み続ける。


 千鳥は、永遠に十三羽目を探させるための核だった。


「では、この子を外へ出せば止まりますか」


「分からへん」


「可能性は」


「高い。けど、今名前を呼んでもうた」


 少女の胸に突き刺さった木の鳥。


 その腹部に刻まれた名前が赤く光っている。


「家が、この子を正式に数えた」


 人形たちが迫る。


 残り十メートル。


 黒岡が前へ出る。


「話は後だ。籠を開ける」


「鍵がありません」


 神楽が格子を確認する。


「蝶番も見当たらない」


 クライムがワイヤーを巻きつけた。


「引き千切る」


「待って」


 メアリーが千鳥を見た。


「この籠、開けたら駄目」


「なぜ」


「中にいるんじゃない」


 彼女は耳を澄ませる。


「籠が、この子の中にある」


 千鳥の身体から伸びる赤い糸。


 それは鳥籠へ繋がっているのではない。


 格子そのものが、彼女の身体から生えていた。


 骨。


 記憶。


 名前。


 それらが籠の形に組み上げられている。


 物理的に壊せば、千鳥自身も崩壊する。


「どうする」


 高峰が迫る人形へ銃を向ける。


「時間がないぞ」


 紅林は千鳥を見た。


 顔の亀裂。


 胸に刺さった小鳥。


 赤い糸。


 そして、家へ帰りたくないと叫び続ける少女。


「千鳥」


 少女の身体が跳ねる。


「呼ばないで」


「あなたに確認します」


「嫌」


「あなたは、この家へ帰りたいですか」


「嫌!」


「この家族の一員でありたいですか」


「違う!」


「ここに残りたいですか」


「帰りたくない!」


 紅林は一歩近づいた。


「質問に答えてください。ここに残りたいですか」


 千鳥は息を詰まらせた。


 初めて、言葉を探しているように見えた。


「残りたくない」


「では、どこへ行きたいですか」


「分からない」


 千鳥の声が弱くなる。


「もう、どこも家じゃない」


「それで構いません」


 紅林は銃を床へ置いた。


 両手を見える位置へ上げる。


「帰る場所がなくても、出ていくことはできます」


 少女は動きを止めた。


 家の鳴動も、一瞬だけ弱まる。


 新木が紅林の意図を理解した。


「帰宅やない」


 彼がつぶやく。


「退去や」


「契約は帰宅を保証しています」


 紅林が言う。


「しかし、退去を禁止する条項はありません」


 新木は契約書を開いた。


 条文を追う。


「ある。いや、ない」


「どちらです」


「帰宅完了後、利用者は家族として設備内に居住する義務を負う。せやけど」


 新木の指が止まる。


「利用者の定義は、帰宅を希望した者や」


「千鳥は帰宅を希望していない」


「せや。最初から利用者やない」


「なら、居住義務もない」


 新木が笑った。


 緊張の中で浮かんだ、鋭い笑みだった。


「いけるで、隊長」


 紅林は千鳥へ手を伸ばした。


「私たちはあなたを家へ帰しに来たのではありません」


「何しに来たの」


「連れ出しに来ました」


 千鳥は、差し出された手を見た。


 顔に目はない。


 それでも見ている。


「どこへ」


「決まっていません」


「家じゃないの」


「家である必要はありません」


 少女の胸に刺さった木の鳥が震え始めた。


 千鳥。


 刻まれた名前が滲む。


 人形たちが一斉に速度を上げた。


「隊長!」


 神楽が叫ぶ。


「防衛線、十秒持ちません!」


「黒岡、高峰、阻止してください」


「了解」


 二人が射撃を開始する。


 人形たちの身体が砕ける。


 中から木片、紙、髪、歯、食器、写真、衣服が飛び散る。


 倒れた人形の口から、別の声が漏れる。


「帰りたい」


「帰りたい」


「帰りたい」


 クライムがワイヤーを張り、迫る人形の脚を絡め取る。


 神楽が焼夷弾を撃つ。


 床に火の壁が走る。


 だが人形たちは燃えながら進んでくる。


 家族の笑顔を浮かべたまま。


 新木は契約書を地面へ広げた。


 赤い印へ指を押しつける。


「契約の対象外であることを宣言する!」


 何も起きない。


「足らんな」


 彼は自分の指先を噛んだ。


 血を契約書へ落とす。


「立会人、新木慎介。対象者千鳥は帰宅希望者にあらず。本設備利用者に該当せず。居住義務、家族登録、帰宅処理の全てを拒否する!」


 契約書の文字が動いた。


 黒い活字が紙面を這い、蛇のように集まっていく。


 拒否。


 対象外。


 未帰宅。


 未契約。


 文字が赤い社印へ絡みつく。


 鬼灯の印が、ゆっくりと割れた。


 千鳥の胸に刺さった木の鳥から、名前が消え始める。


 ち。


 ど。


 り。


 一文字ずつ。


 しかし最後の「り」だけが残った。


 家が抵抗している。


 地下室全体から声が響く。


「帰宅を希望しています」


「帰宅を希望しています」


「帰宅を希望しています」


「帰宅を希望しています」


 千鳥の口が、勝手に開いた。


「帰りたい」


 少女は両手で喉を押さえた。


「違う」


「帰りたい」


「違う!」


「帰りたい」


 自分の声で、自分の意思を上書きされる。


 赤い糸が千鳥の口から伸び、木の鳥へ繋がる。


 新木は契約書を押さえつけた。


「本人の明示意思を優先せえ!」


 紙面に新たな文章が浮かぶ。


 ただし、未成年者の意思表示は保護者による代理同意を優先する。


 新木の顔が引きつる。


「くそったれ」


「保護者は誰です」


 紅林が尋ねる。


「契約時の家長や。たぶん写真の老夫婦」


「現在も存在していますか」


「この家ん中には、いくらでも再現できる!」


 人形の群れから、二人の老人が前へ出た。


 写真に写っていた老夫婦。


 千鳥の祖父母。


 穏やかな笑顔。


 祖父が口を開く。


「この子は家に帰りたがっています」


 祖母が続ける。


「家族と一緒にいることを望んでいます」


 千鳥が首を振る。


「違う」


「子供は寂しいと、思っていないことを言うものです」


「違う!」


「家族が正しく判断します」


 新木が歯を食いしばる。


「代理同意を潰さんとあかん」


「方法は」


「保護者資格を否定する」


「彼らは本人ですか」


「ちゃう。再現体や」


「では法的にも契約的にも代理権はない」


「せやけど、この家の中では家族として登録されとる」


 紅林は老夫婦を見た。


「登録を解除するには」


 新木は周囲を見回した。


 鳥籠。


 人形。


 部屋。


 全てを繋ぐ赤い糸。


 糸は最終的に、小鳥箱へ集まっている。


「家族名簿や」


「どこに」


「小鳥箱の中や。あれが数を管理しとる」


 千鳥の足元にある小鳥箱。


 十二羽。


 空いていた十三番目。


 現在、名前を刻まれかけた一羽。


 あれを破壊すれば、家族登録そのものを消せる。


 だが、同時に収容されている者たちの人格まで消える可能性がある。


 伊吹班。


 地下室の人々。


 高砂研究員と高野博士。


 どこまでが箱に繋がっているか分からない。


「破壊は最後の手段です」


 紅林が言う。


「開けられますか」


「十三番目の穴からなら」


 新木が答える。


「まだ登録完了してへん。そこが唯一の空きや」


「手を入れるのですか」


「正気やないな」


「他の方法は」


「もっと正気やない」


 紅林は迷わなかった。


 鳥籠の格子へ手を伸ばす。


 千鳥が首を振る。


「駄目」


「理由は」


「箱の中に、家族がいる」


「知っています」


「触ったら、家族になる」


「ならない方法を探します」


「無理」


「無理かどうかは、こちらで判断します」


 紅林は格子の隙間から腕を入れた。


 皮膚が触れた瞬間、冷たい感覚が肩まで走る。


 家の記憶が流れ込んできた。


 食卓。


 笑い声。


 誕生日。


 葬式。


 喧嘩。


 失踪。


 事故。


 死。


 帰ってこない家族。


 帰ってきてほしいと願う声。


 そして玄関に置かれた、小さな鳥箱。


 鬼灯産業の営業員。


 黒いスーツ。


 穏やかな笑顔。


「ご契約内容に相違はございません」


 男の声。


「お帰りを望む限り、必ずご家族は帰宅いたします」


 老夫婦が契約書へ印を押す。


 少女が部屋の隅で泣いている。


 帰ってきてほしくない。


 帰ってきた父親が怖い。


 帰ってきた兄が怖い。


 帰ってきた母親が、もう母親ではない。


 少女だけが気づいている。


 家族が帰るたび、同じ顔になる。


 同じ言葉を話す。


 同じ笑い方をする。


 最後には全員が、一つのものになる。


 少女は逃げた。


 玄関を通らず、窓から。


 家を出た。


 それでも鳥箱は彼女を数え続けた。


 家族の最後の一人。


 十三羽目。


 帰っていない家族。


 永遠に帰宅を待たれる者。


 紅林は現実へ引き戻された。


 鳥箱の十三番目の穴へ、指先が触れている。


 穴の奥には、柔らかいものがあった。


 紙。


 折り畳まれた名簿。


「見つけました」


 紅林は紙をつかむ。


 その瞬間、箱の中から無数の手が伸びた。


 小さな指。


 老人の指。


 血まみれの指。


 木でできた指。


 それらが紅林の手首へ絡みつく。


「隊長!」


 神楽が駆け寄る。


「触れないでください!」


 紅林は叫んだ。


 神楽が止まる。


 手首を引く。


 動かない。


 箱の奥から声がする。


「おかえり」


「おかえり」


「おかえり」


 紅林の視界に、自分の家が浮かんだ。


 もう存在しない場所。


 帰れない場所。


 そこに、誰かが立っている。


 女の影。


 優しい声。


「澪奈」


 紅林は目を閉じた。


「私は帰りません」


 手首を締めつける指が強くなる。


「待ってるよ」


「待たなくて結構です」


「家族でしょう」


「今の私は、マジックナンバーズの隊長です」


 紅林は紙を握りしめた。


「帰るべき場所は、ここではありません」


 力を込める。


 紙が少しずつ箱から引き出される。


 文字が見える。


 家族登録簿。


 十三の欄。


 一番上に祖父の名。


 祖母。


 父。


 母。


 兄。


 姉。


 親族。


 そして最後。


 千鳥。


 名前の横に、赤い文字で記されている。


 未帰宅。


 紅林は名簿を引き抜いた。


 箱の中の手が一斉に裂ける。


 白い紙片となって散る。


 地下室全体が絶叫した。


 人形たちが動きを止める。


 小鳥が空中から落ちる。


 千鳥の身体を縛っていた赤い糸が緩む。


「新木!」


「こっちや!」


 紅林は名簿を投げた。


 新木が受け取る。


 彼は即座に千鳥の欄を確認した。


「未帰宅。家族登録は有効。せやけど、居住実績なし」


「解除できますか」


「本人の意思と、第三者の立会いがあれば」


「やってください」


 新木は血のついた指で、千鳥の名前へ線を引いた。


「家族登録解除申請。対象者本人の明示拒絶、居住実態なし、保護者代理権者不在」


 老夫婦の人形が叫ぶ。


「不在ではありません」


「ここにいます」


 新木は振り返り、怒鳴った。


「あんたらは本人やない!」


 関西弁の強い響きが地下室へ叩きつけられる。


「記憶を真似た家の部品や! 親でも家族でもない! ただの家具が子供の人生決めんな!」


 老夫婦の顔が崩れた。


 皮膚が剥がれ、中から木の板が現れる。


 新木は名簿へ最後の線を引いた。


「登録解除!」


 千鳥の名前が消えた。


 小鳥箱の十三番目の穴から、木製の鳥が飛び出す。


 腹部には何も刻まれていない。


 鳥は一度だけ空中を旋回し、床へ落ちた。


 砕ける。


 千鳥の身体から赤い糸が抜け落ちた。


 大きな鳥籠に亀裂が走る。


 一本。


 二本。


 三本。


 格子が崩れ始める。


 千鳥が前へ倒れた。


 紅林が受け止める。


 少女の身体は軽かった。


 人間の子供よりも。


 ほとんど紙の束を抱えているような重さだった。


「出られますか」


 紅林が尋ねる。


 千鳥は弱く頷いた。


「たぶん」


「十分です」


 鳥籠が完全に崩壊した。


 同時に、地下室の奥から巨大な音が響いた。


 どくん。


 家の鼓動。


 どくん。


 床が波打つ。


 どくん。


 壁のない地下室の彼方から、何か巨大なものが近づいてくる。


 人形たちが一斉に跪いた。


 頭を垂れる。


 帰宅を迎える家族のように。


 新木が青ざめた顔で名簿を見る。


「終わってへん」


「何が残っています」


「千鳥の登録は消えた。せやけど十三番目の欄は空いたままや」


 名簿の最後。


 空白の欄。


 そこに黒い染みが広がっていく。


 文字が浮かび始める。


 一画目。


 二画目。


 人の名前。


 紅林たちは見守るしかなかった。


 最初の文字が完成する。


 紅。


 次の文字。


 林。


 名簿に、新しい名前が記されていく。


 紅林澪奈。


 紅林の肩に、砕けたはずの木の小鳥が止まった。


 腹部に名前が刻まれている。


「隊長」


 神楽の声が硬くなる。


 千鳥が紅林の腕の中で顔を上げた。


「家が、代わりを選んだ」


 八人目の足音が、背後で止まった。


 こつ。


 紅林はゆっくりと振り返った。


 そこにいたのは、顔のない少女ではなかった。


 MDEの戦術服。


 濃紺の装備。


 肩に記された部隊識別番号。


 紅林澪奈と全く同じ顔。


 全く同じ姿。


 もう一人の紅林が、暗闇の中に立っていた。


 その肩にも、木の小鳥が止まっている。


「おかえりなさい」


 もう一人の紅林は、穏やかに微笑んだ。


「十三羽目」


次回予告


第四章 帰れない家


## 後編


9月30日21時投稿予定

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