Tale「試験官ではありません」
毎日21時投稿
金土日18時、21時、2本投稿予定
この章は3分ぐらいで読めます
よかったらコメントください!
紅林零奈が報告書を書き直すのは、これで四回目だった。
正確には。
書き直させられている。
「だから」
零奈は机の向こうに座る職員を睨んだ。
「私は試験官じゃない」
「分かっています」
「分かってないでしょう」
「いえ、分かっています」
「じゃあこの項目消して」
零奈は机の上の資料を指で叩いた。
そこには、東雲重工業から回収された内部文書の写しが置かれている。
問題の一文。
『外部協力機関――MDE』
その下。
『推奨担当――紅林零奈』
「勝手に協力機関にされてるんだけど」
「MDEとして認可した事実はありません」
「でしょうね」
零奈は椅子へ深く座り直した。
「私は新人を捕まえに行ったの」
「はい」
「入社試験の手伝いじゃない」
「はい」
「なのに」
零奈はもう一度資料を見る。
「なんで私の行動まで採点されてるの?」
職員が黙る。
東雲重工の評価表。
その中には、新人だけではなくMDE側の動きまで細かく記録されていた。
突入速度。
初動判断。
新人への呼びかけ。
危険区画への対応。
事故発生後の救助活動。
最後には。
『外部環境要因として極めて優秀』
とまで書いてある。
零奈は頭を抱えた。
「褒められても嬉しくない」
そのとき。
机の端に置かれた端末が鳴った。
職員が確認する。
「東雲重工業から正式な文書が届きました」
零奈が顔を上げる。
「抗議?」
「いえ」
「じゃあ何」
職員は少し言いにくそうな顔をした。
「お礼状です」
零奈が黙った。
「……何のお礼」
職員が読み上げる。
「令和██年度新規採用者最終実地評価における、貴機構職員各位の迅速かつ適切な対応に厚く御礼申し上げます」
零奈の目が細くなる。
「続けないで」
「まだあります」
「読まなくていい」
「今後とも良好な――」
「読まなくていいって言ってるでしょう!」
室内に零奈の声が響いた。
少しして。
職員が小さく咳払いをした。
「なお、添付資料があります」
「何」
「来年度実施予定日です」
零奈は動きを止めた。
「……入社式?」
「はい」
数秒。
沈黙。
零奈はゆっくり手を差し出した。
「見せて」
「行かないんですよね」
「行かない」
「ですよね」
「でも」
資料を受け取る。
日付を見る。
「その日は空けておいて」
職員が固まる。
「行くんですか?」
零奈は資料を睨んだ。
「行かない」
「では?」
「次は」
少しだけ笑った。
「試験が始まる前に終わらせる」
東雲重工業株式会社。
翌年度。
新入社員最終実地評価。
まだ誰も知らない。
その試験は。
すでに。
MDE側から狙われ始めていた。
――Tale「試験官ではありません」了
次回予告
MDE内部資料 東雲重工業株式会社
9月23日18時投稿予定




