第5話「魔界軍」
〈魔界軍〉本部のある〈第1魔界都市〉、つまりかつて日本の四国と呼ばれていた地区。
そこに〈第27魔界都市〉、つまりかつてアイルランドと呼ばれていた地区から招集された【クラリス団】のメンバー達。
彼らは一向に進まない九州侵略作戦に対し、その実力を買われて急遽、九州侵略の新担当として第27魔界都市から派遣されて来たのだった。
そもそも彼ら魔人達は〈ワールドダークネス〉というこの世界とは違う並行世界からやって来た。
その理由と目的は、人の住めなくなった故郷を捨てて、新たな世界へと移り住むためだ。
〈ワールドダークネス〉は、元々魔人達が魔術を発展させ支配してきた世界だった。
『異世界転移』魔術も早くに開発され、様々な並行世界から様々な人類種を拉致してきては奴隷として扱ってきた。
しかし、そんな魔獣達の支配していた世界に、一体の災害クラスの魔獣が突如出現し、世界人口の半数以上が滅びてしまったことで〈ワールドダークネス〉におけるパワーバランスが傾き、魔人に代わって魔獣達の支配する世界へと変わってしまった。
そんな事情から、魔人達は新天地を求めて様々な並行世界へと侵攻していったのだ。
現在の〈魔界軍〉に所属する魔人達の多くはそうして故郷を追われた魔人達の子孫達で、【クラリス団】の団長である【大幹部】〈クラリス・ブラック公爵〉もその一人だ。
そして、彼女が率いる【幹部】達の中で〈ジャラク伯爵〉と魔界騎士軍軍長〈ボスガーナ子爵〉を除く残りの三人もまた自らの故郷を知らない世代の魔人だ。
『それでぇ、アナタの見解はどうなのかしらぁ、〈ガテゾーナ〉?』
【クラリス団】の拠点にある作戦室、そこにクラリス公爵を除く五人の【幹部】達が集まっていた。
最初に口を開いたのは、胸元が大きく開き、太もものスリットも大きな赤い中華服のような衣装を身に纏った妖艶な雰囲気を醸し出すロングヘアの美魔女、妖魔術師団団長の〈マリン・バーロン〉だった。
マリンに話を振られた魔導機械兵団団長の〈ガテゾーナ〉は、全身を魔導機械化した改造魔人であり、頭全体を黒いヘルメットのような物で覆っており、見た目は黒い不気味な機械ののっぺらぼうのようであった。
『ああ、【チームレッド】、アイツらなかなかいい女だったな!ぜひとも我が奴隷として改造し尽くしてやりたいところだ!』
『ちょっとガテゾーナ殿ッ!【チームレッド】はオレっちが最初に目を付けた女達ですぞッ!!【チームレッド】はオレっちの奴隷にしてケモ耳改造してやるんだいッ!!』
ガテゾーナにそう反論したのは、キメラ魔人兵団団長の〈ゲドリアーナ〉だ。
キメラ魔人兵団とは、自身の身体に魔獣の細胞などを合成させたキメラ改造魔人達のことで、ゲドリアーナ自身も様々な魔獣や〈亜人種〉といった様々な人類種の細胞を合成させた結果、現在の見た目は青い鱗のような皮膚で覆われた鬼のような見た目をしていた。
『まぁまぁ、ゲドリアーナ。それは連中と戦って勝ってからの話だ。今の内からそんな話をしていても取らぬ狸の何とやらだ』
そう言ったのは、緑色の騎士服に身を包んだ見るからに騎士だと分かる魔界騎士軍軍長、ボスガーナ子爵だ。
彼はまだ故郷の〈ワールドダークネス〉にいた頃に、魔獣を一度に200体葬ったという伝説を持っている。
『おやおや、【200体殺し】の伝説の騎士様がずいぶんと及び腰だな?なんだ、魔法少女共に恐れをなしたか?』
『そうは言っておらんよ、ガテゾーナ。何事も慎重に、油断は大敵、獅子は兎を狩るにも全力を尽くすと言うだろう?』
『やれやれ、伝説の騎士様は随分と人間達の世界に馴染んでいるようねぇ?そんな人間達の諺なんていつの間に覚えたのかしらぁ…?』
『そんなことよりッ!!【チームレッド】は誰が何と言おうとオレっちのものだからッ!!あの爆乳コンビはオレっちが頂くからッ!!』
『けッ!結局乳じゃねぇか!』
『ガテゾーナだってあのおっぱいを自由にしたいと思ってるんだろう!?』
『そりゃあな。だがまぁ【チームレッド】に限らず、連中にはいい乳を持った女達が揃ってるからな、俺としては正直誰でも構わねぇよ』
『私は若い女の子であれば誰でも構わないわぁ♥』
『お前達、あくまでも目的は福岡の制圧、及び九州地方の魔界都市化であるからな?』
そんな下衆な会話を繰り広げる彼らを、それまでずっと黙って見守っていた最年長の初老の男、ジャラク伯爵がそこで初めて口を開いた。
ジャラク伯爵はひょうたんのように長く伸びた禿頭に、銀色の口ひげ、そして黄金に輝くマントを纏い、左手には長い錫杖を持っている。
『我らが団長、クラリス様のためにその力を振るい、九州を我らが物とし、九州を28番目の魔界都市としてクラリス様に支配して頂き、この世界〈ワールドアクアス〉の人間共に我ら【クラリス団】有とその威光を示すのだッ!』
『はッ!重々理解しております、ジャラク伯爵』
ジャラク伯爵の言葉に、それまで思い思いに話していた四人が膝を付き、頭を垂れた。
彼ら五人は役職的には同じ【幹部】という立場ではあったが、その中でもジャラク伯爵は最年長ということで彼ら四人を指揮する立場にあり、その次に年長者であるボスガーナ子爵がサブリーダー的ポジションにあった。
現在の〈魔界軍〉の構成は、最上位者である【統治者】がいて、その下に数名の【大幹部】、その下に十数名の【幹部】、そして下っ端、という四階級層からなっている。
魔人達全てを支配する存在として【魔王】という唯一無二の特別な魔人がかつて存在していたが、今はそこが空位となっている。
そのため、【統治者】が実質的な魔人達のトップとも言える。
ただし、それはあくまでこの世界〈ワールドアクアス〉に派遣されている魔人達のトップというだけであって、魔人達は他の並行世界にも侵攻しているため、それぞれの世界において【統治者】以下の階級層の魔人達が存在していることになる。
『それで、実際のところはどうなのだ?お前達の力で魔法少女とやらは倒せそうなのか?』
ジャラク伯爵が今回集まった本来の議題について話を戻した。
魔界軍の下っ端クラスであれば、普通の魔法師でも一人で十分に対応出来る強さだ。
ところが【幹部】クラスとなると、たった一人を相手にするにしても、かつての魔法師システムであれば数名から十数名を要する必要がある。
しかし、最新の魔法師システムである魔法少女の力であれば、単体でも【幹部】クラスを相手に戦うことが可能となった。
『確かに魔法少女の力は厄介そうですわぁ、実際、【幹部】クラスに近い実力を持った我らが部下達が何人も倒されてしまっていますからぁ』
【クラリス団】所属の魔人達は精鋭揃いで、下っ端達でさえ相当な実力を誇り、マリンの言う通り【幹部】クラスに近い強さを持った下っ端達ばかりであった。
『ですが、所詮は一般の【幹部】クラス止まり、俺達【クラリス団】の【幹部】クラスの実力には及びませんよ』
ガテゾーナが黒いのっぺらぼうのようなマスクの下で不敵な笑みを浮かべたように見えた。
『そうであることを祈るぞ、何せその日は近いのだからな』
『おお…ッ!ということはようやくクラリス様のお力がお戻りに…ッ!?』
ボスガーナ子爵が歓喜に満ちた声をあげる。
『うむ。もうじきだ。
よって、その日が来るまで諸君は油断せず精進しておくように』
『『『『はッ!!』』』』
こうして【クラリス団】の【幹部】会議はお開きとなった。




