第1話「魔法少女と少年」
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この福岡には魔法少女が存在する。
官民問わず、魔人や魔獣を相手に戦う〈対魔兵士〉達の中で、主に魔石と呼ばれる特殊な石を用いて魔法を行使して戦う兵士のことを男女問わず魔法師と呼ぶ。
現在においては、地球環境などへの配慮から対魔獣戦などにおいて科学兵器が使われることはほとんど無くなり、結果として対魔兵士の大半は魔法師が担うこととなった。
いくら侵略者に対抗するためとはいえ、その結果この世界に自分達が住めなくなってしまっては元も子もないからだ。
一方、魔法少女とは、単に魔法師の中の少女のことを指すというだけでなく、最新の改良型魔石であるマジストーンを用いて、変身して戦う少女達のことを言う。
マジストーンとは、20年前に福岡にある民間魔法科学研究所〈ダブルナイン〉に所属していた高名な魔法科学者である緑川一二三博士が、より純度と魔力出力の高い魔石ということで生み出した特殊な魔石らしく、コストや原料などの問題から大量生産が難しく(その生産方法などは企業秘密ということで一般公開されていない)、20年経った今でも数個しか作られておらず、現時点において現役の魔法少女は五人しか存在していない。
その五人の魔法少女達は、福岡を中心に九州全体を魔人や魔獣の驚異から守る魔法師団、通称【魔法戦姫マジピュリー部隊】として、人々のために戦ってくれている。
福岡を中心としているのは、彼女達が所属しているのが福岡の民間魔法科学研究所だからであるのと、現在日本にある〈魔界〉(かつて四国と呼ばれていた地域)で活動している魔人達が主に狙っている日本の地域が九州の中心都市である福岡だからである。
勿論、日本国政府や他国の政府からの特別要請があれば、彼女達が九州以外に出撃することもあるが、基本的には各管轄区域に常駐している対魔兵士達が、その区域の事件を対応することになっているため、滅多なことではそういったことは無い。
そもそも、現在の日本においては九州以外で対魔兵士が出動するのはマナプールから自然発生した魔獣に対処する場合のみで、先程も言った通り、現在日本の〈魔界〉で活動している魔人達は福岡にしかやって来ないし、他国にある〈魔界〉からやって来るにしても、福岡が陥落しない限りは日本の他の地域が魔人達に攻められることは無い。
何故そう言い切れるのかと言うと、理由は人間側とほぼ同じだ。
魔人は、自分達の生存出来る世界を求めて並行世界からやって来た。
そしてこの世界の四国を最初に支配して〈魔界〉とした。
その後、どんどん戦場を世界に広げていった結果、この世界の環境を破壊しかけてしまった。
この世界の環境が破壊されることは魔人達にとっても本末転倒だということで、狙いを絞り、戦場を一つの地域に集中させることで環境への影響を最小限にしつつ、確実に生存圏を増やしていく作戦に切り替えたのだ。
その結果、四国以外にもアメリカのハワイ州やイギリスのアイルランド、東南アジアの一部などが魔人達の支配する地域〈魔界〉となり、日本における次の〈魔界〉として選ばれたのが福岡だったというわけだ。
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そんなこの世界に生きる俺、この四月から高校生となる黒霧優人は、現在進行系で魔獣達と戦っている。
『グギャギャギャギャアアアアッ!!』
空を飛ぶ大型のカラスのような見た目の魔獣〈ギャラス〉。
そのギャラスが、突如として北九州は小倉北区の都心部にある小倉駅、その新幹線ホームのある北口側、小倉駅から直結した商業ビル上空に三体、その反対側のモノレール駅のある南口側上空に二体出現した。
そして、俺はその日たまたま用事があってその北口側に来ていたのだ。
北口側にある商業ビルには、あるあるtownというアニメやゲーム、お笑いなどあらゆるサブカルチャー部門の商業テナントが入っており、アニメやマンガ好きな俺にとっても大変お世話になっているビルだ。
かく言うその日も、俺は目当てのラノベを購入し、帰るためにビルから出て、小倉駅に通じる歩道橋を歩いていたところで事件に遭遇したというわけだ。
『緊急警報!緊急警報!魔獣ギャラスが小倉駅上空に出現!!
近辺にいる人々は、至急近くの避難シェルターへと逃げて下さい!』
歩道橋に響き渡る緊急警報に、人々が慌ててビル内や小倉駅構内に設置されている避難シェルターへと向かって行く。
対して俺は、持っていた荷物をその場に放り出し、左腕に着けていたスマホのような見た目のデバイスを操作しながら、ギャラスの見える場所へと向かう。
「こちら〈魔法騎士〉マサト!〈ダブルナイン〉本部応答せよ!!」
すると左腕のデバイスからすぐに女性の声による返答があった。
『こちら〈ダブルナイン〉本部、緑川です!優人君は今どちらに?』
返答したのは〈ダブルナイン〉の【魔法戦姫マジピュリー部隊】の隊長であり、魔法科学の第一人者である緑川一二三博士の孫で、自身も超天才魔法科学者である緑川瑠璃さんだ。
「俺は今小倉駅北口側にいて、今はそっちのギャラスへの対応に向かっています!なので、〈マルチマギデバイス〉の使用許可をお願いします!」
瑠璃さんの問に、俺は簡潔に答えながら小倉駅北口ロータリーへと降りていく。
その頭上では、三体のギャラス達が獲物の品定めをしているのか、ぐるぐると旋回飛行しながら地上を見下ろしていた。
『っ!?優人君は今一人なんですよね!?すぐに魔法少女達が到着しますから、決して無茶はしないで下さいね!?』
「了解っ!」
『では、魔法騎士優人のマルチマギデバイス、起動承認!』
瑠璃さんがそう言うと、左腕のスマホ型デバイスの画面上に魔法陣が浮かび上がり、〈対魔装束〉と呼ばれる全体的に黒い特殊な戦闘スーツ(特撮ヒーローでいう戦隊モノの衣装に近く、肩や胸、腰回りなどに銀色のアーマープレートが付いている)が転送されて自動で装着される。
この対魔装束は、対魔兵士が魔獣や魔人などと戦う時に着用するもので、身体能力を強化してくれたり、物理や魔術によるダメージを軽減してくれたりする(完全にゼロには出来ない)のだ。
さらに、スマホ型デバイスかや武器となる俺専用のマルチマギデバイス、鍔の部分に魔石の仕込まれた剣と、中央部分に魔石の仕込まれた盾が転送されてきたので、剣を右手に、盾を左手に持って構えて戦闘準備の完了だ。
すると、一匹のギャラスが俺の存在に気付いたのか、俺に向かって急降下してきた。
『キシャアァアアアアアッ!!』
対して俺は、左手に持った盾を前に出して魔法名を叫ぶ。
「『サンダーシールド』っ!!」
すると、盾に刻まれた魔法陣が起動し、雷の魔力が盾全体に集まってバチバチッ!と激しい火花が散る。
『ギシャァアアアアアッ!?』
その盾に向かって突っ込んできたギャラスは、盾に触れた直後、全身を痺れさせながら後方へと吹っ飛んでいく。
「よしっ!」
『キシャッ!?』
『シャシャシャーーッ!!』
仲間が吹き飛ばされたことに気付いた残りの二体が、俺に狙いを定めと、嘴を開いて超音波攻撃を放ってきた。
ギャラスはこの超音波を、仲間内ではコミュニケーションをとる手段として、敵に対しては攻撃手段として使う。
物理攻撃や魔術攻撃ならば盾で防げるが、さすがに超音波は防げない。
俺は頭が割れるようなその不快な不可聴音に、思わず耳を押さえたくなるが、両手が塞がっているためにそれも出来ない。
「くそったれ…っ!?」
『シャシャシャシャァアアアアアッ!!』
俺が怯んだスキに、先程俺が吹き飛ばしたギャラスが起き上がり、こちらに嘴を向けて開くと、その口から闇の魔術『シャドゥショット』を放ってきた。
「ちくしょう…っ!?」
超音波のせいで思うように動けない俺は、ギャラスの魔術をかろうじて盾で受け止めたが、踏ん張りが効かず、後方へと弾き飛ばされてしまった。
「ぐぁああっ!?」
『シャシャシャシャーッ!!』
闇の魔術を放ったギャラスが、俺に対してトドメを刺さんと、嘴を閉じて俺を串刺しにすべく再び突っ込んで来た。
「くそったれ…!!」
俺は弾き飛ばされた痛みと頭痛に耐えながら、右手に持った剣を構えて再び魔法名を叫ぶ。
「『サンダー…、スラッシュ』っ!」
すると、剣の刀身に刻まれた魔法陣が起動し、雷の魔力が刀身に集まると、バチバチッ!と火花を散らしながら刀身全体が黄金に光り輝いていく。
さらに続けて別の魔法名を叫ぶ。
「『サンダーソニック』っ!!」
すると今度は、左腕に装着したスマホ型デバイスに仕込んだ魔法陣が起動すると、俺の全身が雷の魔力で包み込まれていく。
この『サンダーソニック』という術は自分自身にかけることで高速移動を可能とするだけでなく反応速度や思考速度までが強化される、つまりは身体強化的な術だ。
この状態だと周りの景色がほぼ止まって見える程に超高速での移動が可能となる。
「せやぁああっ!!」
その状態で俺は、雷を纏わせた剣を正面に突き出し、低空を飛行するギャラスの腹の下に潜り込む。
「はぁああああああっ!!」
そして、剣をギャラスの腹に突き刺し、地面を蹴って飛び上がり、ギャラスの胴体を突き破る。
『ギシャ…ッ!?』
胴体を貫かれたギャラスは、何が起こったのか理解するより前に、穴の空いた胴体からバチバチッ!と火花を散らしながら、地面にそのまま滑るように倒れ込んでいった。
『サンダーソニック』を使用していない状態ならこんな芸当は無理だっただろうが、高速移動によって速度が増加することで運動エネルギーも増加するため、魔法師ではない俺でもこのくらいの芸当は出来るというわけだ。
「よしっ!一体撃破っ!」
そう言いながら地面に着地した俺だったが、『サンダーソニック』の反動で一時的な目眩と激しい全身の筋肉痛に襲われる。
対魔装束を着ていても、超高速移動した後の反動は完全には防ぐことは出来ないのだ。
分かりやすく言うと、フルマラソンを全力疾走した後の疲労感といったところか。
おまけに、空中にいる二体のギャラスからの超音波攻撃はまだ続いており、そのせいで頭がクラクラし、まともに立っていられなくなる。
『キシャシャシャァアアアアアッ!!』
それを好機と見たギャラスの内の一体が、俺に鋭い嘴を向けて急降下してくる。
「くそ…っ、しくったなぁ…っ」
ギャラス程度の魔獣なら、魔法師ではない俺でもなんとかなると思ったのに、一体を倒すので精一杯か…
「後は任せた、皆…!」
そう言って見上げた俺の視線の先、俺に向かって急降下してくるギャラスのその背後に、ギャラスへと向かって魔法を放とうとしている赤い少女の姿があった。
「おおおりゃああああっ!!『ファイアブラスト』ーーッ!!」
『ギシャァアアアアアアアアアアッ!?!?』
ショートボブの髪型に、赤を基調としたセーラー服のような見た目でヘソ出しの〈魔法少女装束〉を身に纏い、手の先から炎の魔法『ファイアブラスト』を放った魔法少女、〈マジピュリーレッド〉。
【マジピュリー部隊】のリーダーである彼女は、男勝りな性格に似合わないその豊満な胸が魅力的で、今もその魔法少女装束を窮屈そうに押し上げる胸をブルンブルンと揺らしながら放った炎の魔法により、ギャラスは爆炎と断末魔の悲鳴をあげながら地面へと落ちていった。
「マサト!無事か!?」
一体のギャラスをあっさり撃破するや否や、レッドは俺のいた地面の近くに降り立ち、真っ先に俺に駆け寄ってくれた。
「ったく、無茶してんじゃねぇよ、たった一人で!背中めっちゃ怪我しとるやん!?大丈夫か!?」
俺のことを本気で心配してくれているレッド。
こういう優しいところもレッドの魅力の一つだ。
「あ、ああ、俺はなんとか…
それより残りのギャラスを、」
「ああ、それなら大丈夫っちゃん」
レッドが上空を指差すと、二人の魔法少女が残り一体のギャラスと対峙していた。
「おのれぇっ!!マサトの仇っ!!『アクアウィップ』!!」
『ギシャァアアッ!?』
肩口で切り揃えたショートヘアに、青を基調とした魔法少女装束を身に纏った〈マジピュリーブルー〉が、水を鞭のように操る魔法『アクアウィップ』でギャラスを捕らえ、身動き出来なくさせる。
ブルーはレッドとはまた違う意味でボーイッシュな雰囲気の少女だが、その胸元はレッド程ではないがやはり大きい。
「ちょっとブルーっ!!お兄ちゃんはまだ死んどらんけんっ!!『サンダースクリューパンチ』っ!!」
『キシャァアアアアア…ッ!?!?』
肩にかかるくらいのショートヘアにメガネをかけ、黒を基調とした魔法少女装束を身に纏った〈マジピュリーブラック〉がブルーにツッコミを入れながら雷の魔法をギャラスに放ち、トドメを刺した。
「にゃはは♪冗談、冗談♪」
「冗談でも縁起悪いこと言わんで!」
「そうだぜブルー!ってか、早くこっち来てマサトの手当てしてやってくれ!」
「あははは!ゴメン、ゴメンって!マサトー、今行くからねー!」
ギャラスをあっさりと倒したブラックとブルーも俺の側にやって来ると、ブルーが俺の背中に触れながら魔法名を唱えた。
「『アクアヒール』!」
回復魔法である『アクアヒール』は、体力だけでなく軽い傷の治療も可能で、先程の戦いで負った背中の傷や、『サンダーソニック』の反動による筋肉痛などが治っていく。
「ああ…、サンキュー、ブルー!」
「どういたしまして♪」
「というかお兄ちゃん!なんでこんな無茶したと!?おまけに一人の状況で『サンダーソニック』まで使うなんて、反動のこととか考えたら自殺行為としか思えんっちゃん!!」
「わ…、悪かったよ、ブラック…!」
ちなみに、俺のことを『お兄ちゃん』と呼ぶブラックだが、その正体は俺の双子の妹だったりする。
「本当に分かっとーと、お兄ちゃん!?」
「ま、まぁまぁ、ブラック、落ち着けって!こうしてマサトは無事やったんやし、マサトが頑張って対応してくれとったおかげで被害は最小限に済んだんやしさ、」
「それでお兄ちゃんが死んだりしたら元も子も無いって言っとーと!」
この妹、俺が言うのもなんだがかなりのブラコンで、こうして怒っているのも愛情の裏返しなのだと思うと愛おしい。
何より、怒鳴る度にぶるんぶるんと揺れる大きなおっぱいが目の保養にもなり、大変ありがたい…!
「はいはい、もうその辺にしとこうよ、マサトだって反省してるみたいだし。それよりも、南口側の方に向かったホワイト達と連絡取ってみてよ」
ブルーに言われたことで思い出したが、今回出現したギャラスは全部で五体で、内三体は小倉駅の北口側に出現して、今レッド達が殲滅した。
残る二体は南口側に出現していて、そちらには残り二人の魔法少女が向かっているそうなのだが…、
『はーい、こちらホワイトー!南口側のギャラスは無事私とピンクで撃退したよー』
と、こちらの会話を盗み聞きでもしていたかのようなタイミングで〈マジピュリーホワイト〉から通信が入った。
ちなみに俺の左腕のスマホ型デバイスは勿論だが、魔法少女達の胸に装着されている変身デバイス〈マギアコンパクト〉で遠距離通信が可能となっている。
「お、そっちも終わったんやな!」
「とーぜんだよ!私達を誰やと思っとーと?」
今度は通信機からではなく、生の声が俺達の頭上から聞こえてきた。
見上げると、そこには白を基調とした魔法少女装束を身に纏ったマジピュリーホワイトと、ピンクを基調とした魔法少女装束を身に纏った〈マジピュリーピンク〉がいた。
二人共に柔らかそうでぷるぷると弾む大きなおっぱいを持った、双子の姉妹であり、俺とブラックにとっては従妹の関係となる。
二人は一卵性なので顔も声もスリーサイズまでそっくりなのだが、姉のピンクが頭の左側にサイドテールがあり、ちょっぴりツリ目なのに対し、妹のホワイトが頭の右側でサイドテールにしているという違いがある。
「マサト君、大丈夫やった!?」
「ちょ!マサト、怪我しとーやん!?もう、一人で無茶し過ぎっちゃん!!」
ホワイトとピンクも俺のことを過剰に心配してくれる。
さて、改めてだが、マジピュリーレッド、マジピュリーブルー、マジピュリーブラック、マジピュリーホワイト、マジピュリーピンク、この五人が現在九州や福岡の平和を守るために戦ってくれている魔法少女、【魔法戦姫マジピュリー部隊】のメンバーであり、そして、俺、黒霧優人の幼馴染達である。




