第196話 剣劇
首領の男が、力任せに上段から剣を振り下ろした。
恐ろしい剣速だ。
この連中、剣の腕はかなりの上位者だろう。
だが、その自信は裏目に出た。
(バカが……俺には上段からの振り下ろしは通用しない)
オリバーは前腕を剣筋に合わせ、接触点の硬度を最大まで引き上げる。
男の顔が勝利を確信したものに変わる。
だが....
ガキン、と金属音が弾け、その剣はもろくも折れた。
驚愕と手の痺れで蹲る。
鋼鉄を上段から剣が折れるほどの剛腕で力任せに叩き下ろしたのだ。
その衝撃が予想外なものであればそるほどダメージは大きい。
剣速が速ければ速いほど、オリバーには有利に働く。
どれほどの速さであろうと、彼にとってはスローモーション映像に等しい。
だが、間が悪いとはこのことだ。
少し熱くなり、相手を挑発しすぎたかもしれない。
五人という数は、オリバーにとって一撃を入れて走って逃げれば、まったく脅威ではない。
たとえ馬で追われたとしても、石つぶての達人である彼には通用しない。
一撃で礫を当てれば、馬は棹立ちになり、落馬して終わりだ。
しかし、今は春が後ろにいる。
彼女を庇いながらの五人は、さすがに少し手強い。
睨み合い……。
一人が動いた。
ビュン、と微かな風切り音。
次の瞬間、若者は目を押さえて倒れ、地面を転げ回って苦しみ始めた。
投げたのは泥礫だ。
失明するほどではないが、治療を怠れば視力に障害が残る可能性がある。
「気を付けろ!怪しい技を使うぞ!」
二人は剣を失い、
一人は片目を負傷して戦闘不能。
――なんとかなるか?
そう思った瞬間、首領が奇策に出た。
脇差を引き抜き、横っ飛びから、春に向けて投げ放つ。
寸前でオリバーがそれを叩き落とした。
「今だ!」
剣を収めた二人の若者が、同時にオリバーへ組み付いてくる。
見事な連携だった。
「女を捕らえよ!遠慮はいらん、その女も国賊だ!」
一人が春に掴みかかる。
「汚いぞ!」
オリバーは叫び、筋力強化を最大まで引き上げて、若者の腕をへし折った。
「ぎゃあっ!」
絶叫とともに、その若者は地に転がる。
春は気丈にも短剣を構えて立ち向かうが、すぐに叩き落とされた。
だが、スピードでは負けていない。
(俺のほうが速い!)
そう思った瞬間……
別方向から、黒い浪人風の装束の男が、
「うぉおお!」
と叫びながら、凄まじい勢いで春に向かって走り込んできた。
(しまった!)
伏兵か……間に合わない。
そう思った刹那、その男は大きく跳躍し、春に掴みかかろうとしていた若者を蹴り飛ばした。
蹴りは完璧に決まり、若者は二メートルほど宙を舞って派手に吹き飛ぶ。
(な……なんだ、一体……)
驚きながらも、体が勝手に動く。
オリバーは瞬時にもう一人を当身で意識を刈り取り、続けて首領の腹へ鋭い蹴りを叩き込んだ。
「げほっ……」
呻き声を残し、首領もまた地に崩れ、失神した。
呆然と立ち尽くす春の横で、ゆっくりと、大柄の男が立ち上がる。
その男は、奇妙なほど魅力的な笑みを浮かべ、オリバーに向かって、明るい声をかけた。




