第192話 航海
ラングーンからサイゴンまでの船旅は気楽なもんであった。
船員は船長と数人がポルトガル人、その他インド人、ペルシャ人と様々だった。
インド語ばかりかペルシャ語まで喋り始めたオリバーを皆が面白がって、直ぐに良い仲間となれた。
夜は干し肉をかじりながら酒を飲むこともあった。
船員たちは心得たもので深酒をするものはいなかった。
「おまえ、女をしってるか?」
揶揄うように男たちが訪ねる。
彼らは身入りは悪くないようでラングーン、サイゴンやマラッカへとなじみの女がそれぞれいるようであった。
「サイゴンはいいぞ!酒も女も最高だ!」
寄港を目前に船員たちはそれぞれ盛り上がっていた。
だが、オリバーはサイゴンについたらすぐにオランダ商館を訪れ、出航の準備だ。
サイゴンで気のいい船員たちを別れを告げ、次にあったらまた、飲もうと約束をした。
もう、会うことはないかもしれないのであるが。
オランダ人の商人は厳めしい顔の初老の男であったが、船の整備と荷は約束通り積み込まれていた。
こちらの名前すら聞いてこない。
それがこの商館の流儀なのだろう?
余計な情報の交換はこの商売では災いの元であるに違いなかった。
だが、ここで貴重は情報を得ることが出来た。
「おまえ、あの荷の中身を装備する船が必要なんじゃないか?」
店主はぼそりと呟いた。
「はい。」
オリバーは短く答える。
「横浜だったな?オランダ海軍の払い下品の帆船が16隻ほど横浜に曳航されてくる。日本は海軍を欲しがってるんだろ?蒸気機関が装備されているので、速度はかなり期待できるぜ。」
「あの、なんで、そんな話を俺に.....」
「気前のいい客にはサービスするのが俺の流儀だ。それにその密売人....おっと、善良な商人とはちょっと訳ありでな。」
「ありがとうございます、助かります。」
「なら、また儲け話があったら回してくんな。」
そう言ってニヤリと笑う。
なるほど、「蛇の道は蛇」とはよく言ったものだ。
「直ぐに出発できるぜ。準備は出来ている。どうする?」
「はい、直ぐに出発します。」
「良い根性だ。」
店主と握手して指定の波止場へと向かう。
『天眼智』を使い、曳航される帆船へと意識を滑り込ませる。
そこで、ひとつ面白いものを見つけた。
オランダのインドネシア海軍基地で、大規模な装備数量の改ざんが行われている。
そして........
その商人は、それに一枚噛んでいる。
(……いい商売が出来そうだな)
オリバーがニンマリと笑う。
【その表情、悪徳商人そのものですね。】
(黙れよ。ヨーダ)
【オリバー、そちも悪よのお……】
(お代官様こそ……ほほほ)
そうして、横浜の港が見えてきた。
懐かしい気持ちもあったが、オリバーの知っている横浜ではない。
中華街もなければ、レインボーブリッジもない。
そこは、攘夷派のテロリストに紛れ込み強盗まがいの辻斬りが跋扈する、危険極まりない、荒れ狂う町であった。




