第九話 判別不可能 VS 天災級
「どこに行くつもりだ?」
「まあまあ、ついて来てよ」
ギルドを出た弘次郎は、エルカルに先導され、入り組んだ路地裏を歩いていた。活気付いていた大通りから、少し外れた路地裏は物音一つせず、からんからんと下駄が石床を打つ音だけが響いていた。またえらく静かな所だな。入り組んでるせいか、日の光が入ってこねえ。光がないから薄暗く、ちょいと不気味だ。
「コウジロウ、ついたよ」
「着いたっつっても、おいおい、まさかここでやるつもりじゃないだろうな」
エルカルは、路地裏が行き止まりになったところで、弘次郎とルリィに振り向いた。よくよく見れば、エルカルの足元に、魔法陣らしきものが浮かんでいる。
「それじゃ、行くよ」
そう言って、足元の魔法陣に魔力を流し込み始めた。小さかった魔法陣は、あっという間にデカくなり、弘次郎とルリィを飲み込んだ。そして、魔法陣が強い光を発し、エルカル達を転移させた。
「ようこそ、僕の庭、『フィレデリオ荒野』へ」
光が収まり、視界が晴れた弘次郎の目に映っていたのは、地平線の彼方まで広がる荒野だった。エルカルが呆気にとられる弘次郎達の前へ歩み出て、仰々しく頭を垂れる。
「本当にここでやっても大丈夫か?」
どう考えても普通の荒野だろ。んなところで、天災級と判別不可能が戦ったら、かなりボロボロになると思うんだが。
「その疑問は最もだね。だけど、大丈夫。この荒野は再生するんだ。どれだけボロボロにしようと、ゆっくりだけど元通りになる。そういう荒野なんだよ」
へぇ、そりゃまたすげえな。それなら、三十年ぶりに本気で戦えるな。
「どれだけボロボロにしても、いいんだな?」
「ああ、どれだけボロボロしてもいいよ。あ、そうそう、ルリィなんだけど、その魔法陣から出ないでね。その魔法陣は、僕の全魔力を注ぎ込んで作った魔法陣だから、そうそう簡単には壊れないはずだよ」
「わ、わかりました」
弘次郎とエルカルは、話し合いながら離れ、距離を取る。エルカルはルリィに指示を出し、ある程度距離を取ったところで立ち止まる。
「準備はいい?」
「ああ、いつでもいいぜ」
そう掛け合い、エルカルが地を蹴った。放たれた砲弾の如く加速しながら弘次郎へ向かう。
「君には雷属性は生ぬるいね!」
エルカルはそういいながら、異空間から黄色の戦鎚を取り出し、振るう。半円状の光の筋を描きながら、弘次郎の頭へ振り下ろされる。
「踏み込みが甘い」
天災級の一撃をそう一蹴すると、斜め上に大太刀を振るった。ガキィンッと、甲高い音を響かせ、戦鎚が叩き落とされる。丸い鎚頭が地面を割り、陥没させる。
「速度は速いが、軌道が単純だな」
「くっ!…………がはぁっ!」
弘次郎はそうつぶやくと、右脚を唸らせ、エルカルの顎を蹴り飛ばす。エルカルは半円を描きながら飛んで行き、器用に空中で体制を正すと、地面に着地する。
「君はやっぱり、化け物だよ。今の、活身術を使ってないと、危なかった」
再び戦鎚を構え、冷や汗を流す。いや、今ので無事に立ってるお前も化け物だろうが。
「今度はこっちから、行くぜ」
そして、弘次郎の姿が掻き消えた。一瞬してエルカルに肉迫し、弘次郎は、鋭い角度でエルカルに向けて凶刃を振るう。
「っ!…………あぁっ!」
エルカルはかろうじて、振るわれた凶刃を戦鎚で受け止めた。が、受け止めきれず、そのまま吹き飛んだ。
「結構、飛んだな。……ふっ」
吹き飛んだエルカルを見据え、大太刀を振り上げ、振り下ろす。剣の軌道上を、不可視の斬撃が走り、宙を飛ぶエルカルを切り裂かんと牙を向く。
「くぁっ!」
空中で体を捻りながら、戦鎚を打ち上げ、弘次郎が放った不可視の斬撃を弾き飛ばす。だが、空中で身動きが取れないエルカルは、弾き飛ばした反動で地面に叩きつけられた。
「けほっけほっけほっ。コウジロウ。なにをしたんだい?」
「なにって、斬撃を飛ばしたんだよ。このくらい、四十過ぎりゃ誰でも出来る」
咳き込みながら尋ねるエルカルに、大太刀を肩に担ぎ、膝をつくエルカルに近づきながら、弘次郎は当たり前の如くそう答える。
「コウジロウ。君は本当に何者なんだい?」
「ただの放浪者に決まってるだろ?」
「君みたいな放浪者がゴロゴロといられたら、たまったもんじゃないよ!」
エルカルは活身術を使い、弘次郎へ駆ける。弘次郎は、駆けるエルカルに大太刀を振り下ろす。擦りでもしたらすべてを断ち切られるであろう凶刃を、エルカルは横に飛んで避け、戦鎚の柄を弘次郎の顎に向かって振り上げる。
「よっと」
「くっ!」
弘次郎は、振り上げられた柄を半身になって躱し、エルカルの顔にハイキックを繰り出す。エルカルは振るわれた脚を屈んで避け、戦鎚を宙に浮いている弘次郎に振り下ろす。弘次郎は宙に浮いた状態のまま、虚空を蹴って戦鎚を躱し、屈んだエルカルの首に大太刀を当てた。
「さて、これから……どうすんだ?」
「ははっ、降参。しかないね」
エルカルは手を手を上げ、活身術を解いて、異空間に戦鎚を収納する。流石天災級。なかなか歯応えがあったな。
「コウさん凄いです!」
「おいおい、そんなに目を輝かせんな。お前さんが憧れる程、綺麗なもんじゃないぜ」
そう弘次郎が告げるが、ルリィの耳には全く入っていない。ったく、人を殺すためのもんが、そんなにかっこいいかねぇ。
「やっぱり、敵わなかったか」
弘次郎に飛びつくルリィと、地面に四肢を投げ出して浅く呼吸するエルカルと、大太刀を納刀する弘次郎は、呑気に戦いの余韻を楽しんでいた。




