第十話 護衛依頼
「コウさん、昼間からお酒ですか?」
「ん?ああ、まあな」
弘次郎はエルカルとの戦いを終え、再びギルドへ戻り、エールを飲んでいた。弘次郎の隣りに座ってピカルジュースを飲むルリィが、エールを飲む弘次郎に呆れたように聞く。ルリィの問いに適当に答えながら、弘次郎はジョッキを傾けエールを煽る。酒は長寿の薬ってな。
「弘次郎さん、少しよろしいですか?」
階段を登り、弘次郎の席まで歩いてきた受付嬢が、弘次郎にそう尋ねる。ジョッキを置いて頷いた弘次郎を見て、受付嬢は話し出す。
「弘次郎さんに、受けて欲しい依頼があるんです」
そう言った受付嬢が弘次郎に一枚の依頼書を差し出す。依頼、ね。判別不可能に出す依頼ってのは、一体何だろうな。
護衛依頼
依頼内容:『自由都市エルカンテ』から『貿易都市ガリーニャ』までの馬車の護衛
依頼主:奴隷商人ミヌス
護衛対象:奴隷商人ミヌスとその他十名と奴隷
依頼期間:一週間
報酬:白金貨二枚と奴隷二体*種族や性別などは自由に選択可能
冒険者人数:一人
規定ランク:国災級以上
拘束期間が長いな。どのみち、この街はそろそろ出て行くつもりだったからちょうどいいっちゃちょうどいいが。他人と一緒に旅っつうのもなぁ。まあ、足が確保出来たって考えるか。
「受ける受けないの前に、一つ聞いておく。国災級ならば、この二階にたくさんいるはずだ。それなのに、俺に頼む理由はなんだ?」
他人からの頼まれごとを何も考えずに引き受ける奴はただの馬鹿だ。まずは内容と理由を聞き、それからじっくりと考えて受けるか受けないかを決める。じゃないと、わけのわからん厄介ごとに巻き込まれる可能性大。
「弘次郎さんは、この世界を旅するおつもりだとお聞きしました。『貿易都市ガリーニャ』はそのなのとおり、貿易を頻発に行っている都市です。そのため物珍しい物がたくさんあり、退屈せずに楽しめる場所となっています。また、宿泊施設や銭湯などの利用料金などが比較的安く、治安もいいため、安全に観光することが出来ます。以上から、私のお勧めの都市であることが一つ。二つ、この依頼主は大手奴隷商人の一人です。そのため、盗賊などに襲われることが多く、奴隷をかっさらおうと襲う冒険者達も後がたちません。今回の護衛依頼が、奴隷も合わせれば五十人と大人数なのに対し、この依頼を受けることが出来るのは一人のみ。よって、広範囲を確実に防衛できる実力を持った冒険者であることが好ましいです。
この二点から、私は弘次郎さんしかいないと判断いたしました」
…………なるほど。依頼内容や過程がどうだろうと、結果的にはこちらに得しかない。確実に依頼をこなせば、このギルドへの評価も上がる。互いにwin winの関係、というわけか。
「受けさせてもらおう」
一言言って依頼書を受け取り、欄に名前を書く。そして、名前を書いた依頼書を受付嬢に渡す。渡された依頼書に、俺の名前が書いてあることを確認すると、口を開いた。
「一応明日から依頼開始となっています。よろしいですか?」
「ああ、問題ない」
受付嬢は一礼をすると、階段を降りて行った。ここの滞在期間は二日。案外短いねぇ。
「コウさん、出発は明日ですか?」
「いや、依頼開始は明日なんだろうが、出発は依頼主の気分だろうな。なにか見たい物でもあるのか?」
「はい、その、下着とか……服とかを」
弘次郎の問いにルリィは恥ずかしそうに頬を染め、俯きながら消え入りそうな声でつぶやく。あー、そういうことか。頭から完全に抜けてた。そっかそっか、ルリィだって女だもんな。いろいろあるか。
俺は残りのエールを飲み干し、立ち上がる。
「んじゃ、行こうか」
「あ、はい!」
小袋から銅貨を四枚テーブルに置き、一階へ向かう。俺の後をルリィが小動物よろしくトテトテとついてくる。なんだこの可愛い生物。弘次郎は立ち止まり、ルリィの頭を撫でる。最初はびっくりしたルリィだが、撫でられている内に体の力を抜き、弘次郎にもたれかかった。幸せそうに目を細め、ゴロゴロと喉を鳴らす。階段を降り、扉を開け、外へ出る。
「さて、行くか」
「はい♪」
ルリィを先頭に、のんびりと歩く。からんからんと下駄が石床を打つ音があたりに響く。風が吹き、左うでの肘からしたがない着流しの裾がゆらゆらと揺れる。
「コウさん!ここです!」
ルリィは一つの店の前で立ち止まり、中へ入っていく。弘次郎も続いて扉をくぐる。店の中は、女性用の服と下着を取り扱っているようで、綺麗に整頓されていた。
「ルリィ、好きなの選んできたらどうだ?値段のことは気にするなよ」
「あ、はい♪」
猫耳をせわしなく動かしながら、ルリィは嬉々として並べられている服と下着を見ていく。比較的値段は高いが、その分質が高い。粗悪品、なんてものはここにはねえな。
「コウさん、あの、これだけ欲しいんですけど」
「おいおい、随分多いじゃねか。まあ別にいいんだが」
ルリィの両手には、服と下着が山のように積まれていた。それはもう山のように。弘次郎は頭をかき、ルリィをカウンターへ連れて行く。
「あの、これ全部、ですか?」
「済まねえな。頼むわ」
女性の店員は、ルリィがもつ服と下着の量を見て顔を青くする。弘次郎はそんな女性の店員を見て苦笑する。まあ、これだけもってこられりゃ、大変だろうな。と考える弘次郎だった。




