第八話 侵入者
誰かが扉に近づく気配がして、弘次郎は目を開けた。大太刀の柄に手をかける。
カチャリ、という音と共に静かに解錠され、扉が開く。滑らかに抜刀し、侵入者の首元に刃をつけ、首の皮一枚を切ってとどめる。
「…………流石は、判別不可能の化け物ってところね」
忍び装束に身を包んだ女性が、手に持っていたダガーを手放して、両手をあげる。侵入者か。ったく、堂々と入ってきやがって。さしずめ、暗殺者ギルドかなんかに所属していて、依頼を受けて殺しにきたってところか。
「あんなに殺気立てれば、誰だって気づくだろうが。んで、お嬢さんは暗殺者から何かか?」
こんな朝早くから殺気立ちやがって、えらく元気なお嬢さんじゃねえか、全く。
「暗殺者じゃないよ、わたしは。見てわからない?」
「服装を見ていうとして、忍びか?」
「正解。それよりも、刀、下ろしてくれない?」
冷や汗を額に浮かべる女性に、弘次郎はため息をついた。
「人に殺気向けて置いて、自分に向けられた途端にやめろだ?なに寝ぼけたこと言ってんだ。自分は引っ込めたから俺も引っ込めろってのは、都合が良過ぎはしねえか?ああ?」
「それじゃあ、どうすればいいの?」
「んなこたぁ知らねえよ。嬢ちゃんが行動を起こした結果だろうが。どうするかなんて、俺に求めんな。そうだな…………強いて言うなら、お嬢さんの所属と名前を教えろ」
「聞いて、どうするの?」
女性の問いに、弘次郎は八重歯を見せるように笑い、
「潰すに決まってんだろう?」
そう答えた。
またこいつみたいなのが来たら面倒だ。早めに潰して置いて損はない。
「私は、エルカ。所属は、暗殺者ギルドよ」
「んじゃ、次だ。依頼内容と依頼主は誰だ」
「依頼内容は、着物みたいなものをきているやつから身包みをはいでこい。依頼主は手紙で依頼されたからわからない」
思いっきり物騒じゃないかルリィさんや。てか、俺がなにをした?ただ歩いていただけで暗殺依頼とか、んな理不尽な。
「まあとにかく、人の睡眠を邪魔すんな」
「あぐっ!」
弘次郎はエルカを蹴り飛ばし、ダガーを拾って扉を閉める。ったく、また寝る気が起きねえ。ついでにルリィを起こしちまうか。
「ルリィ…………って、起きてたのか」
「はい。おはようございます」
なんだよ、起きてたのか。今のところ、見られてたか?まあ、見られてたとしても、どうにかなるわけでもないしな。
「んじゃ、行くぞ」
「ギルド、ですよね?……はい!」
無邪気な顔しやがって。こいつは人を疑うってことを知らねえのか?全く。
扉を開け、廊下へ出ると、弘次郎が蹴り飛ばしたエルカは、既にいなくなっていた。代わりに、一つの血溜まりができていた。
女将さん済まん。
昼飯を食べ終わった弘次郎は、エルカルの約束通り、昼頃にギルドへやって来ていた。扉を開けた弘次郎に、なぜかたくさんの冒険者達が絡みついて来た。野郎に絡みつかれても嬉しくなんともないので、全て吹き飛ばしていたが。
「あぁ〜疲れた。エールとピカルジュース一つ」
「はーい」
二階へ上がり、自分の席にドカッと座った弘次郎は、受付嬢にエールとピカルジュースを頼んだ。ルリィは弘次郎の隣に、いそいそと腰掛けた。
「あはは、大変だったね、コウジロウ」
「全くだ」
運ばれて来たエールを、弘次郎は早速飲み始める。ルリィもコップに口をつけて、ちびちびと飲む。
「コウジロウ。ルールは、魔法なしの純粋な勝負でいいね?」
「活身術くらいは、ありにしてもいいんじゃないか?」
「そうだね、うん、それでいいかな」
エールを飲み交わしながら、気軽に戦いの内容を決め合う弘次郎とエルカル。普通はこんなに気軽に決めあったりはしないのだが、散歩の内容のように決める二人は、やはり恐ろしい。
「さて、行くか?」
「そうだね」
全員が飲み終わったことを確認し、支払いを済ませた弘次郎達は、ギルドを出て行った。




