第六十五話 残りの三人
「なんだ、知らなかったのか?」
差し出されたお茶を受け取り、一気に飲み干したダンはそう首を傾げた。同じく俺も注がれたお茶を一口飲み、口を開く。
「五人?師匠とダン以外の他にも三人もいるのか?俺はてっきり師匠一人で作ったもんだと思ってたんだがな」
「こんなでかい街をあたし一人で作れるわけがないじゃないか」
まあ、それもそうか。確かにな。ここ数年一緒に暮らしてきて師匠が戦い以外は苦手だということはよくわかっている。
「火菜野、俺、吹鳴、奈留、英美、この五人だ。街を作ろうと言い出したのは火菜野でな?それはもう他の三人からは指を指されて笑われたものだ」
「それはもう昔の話さ。だいいち、こうして実現させて見返してやったじゃないか」
「確かにな。俺は笑いはしなかったが実現させちまうとも思ってなかった。他の三人も協力したとはいえ、街を作りおえたあとのあの顔といったら。笑えてくるぜ」
くっくっ、とダンは笑いを堪えるように喉を鳴らす。師匠は師匠でここまで饒舌になることは珍しい。
「それで?あんたがここに訪ねてくるってことは、それ相応の理由があるってことだろう?」
しばしの沈黙。
その沈黙を破るかのように師匠がダンに話しかけた。
「ああ、そうだった。あんな騒ぎがあって忘れちまってたぜ。火菜野。俺がお前の元を訪ねたのは他でもない。他の三人がここに集まろうとしていることを伝えに来た」
「あいつらが?」
師匠は、三人がこっちへ向かっていることを聞いて意外そうにしていた。
「そうか。滅多に挨拶にすら来ないあいつらが。それも三人揃って来るということは、よほど重大か。思い当たることもないことはないが」
最後の一言だけは独り言のようにつぶやかれ、俺とダンの耳に届くことはなかった。そうか、師匠がそんなに考え込むってことはよほど重大なことなのか。
「俺は風の噂で聞いただけだが、信用できる筋からの話だ。間違いないと思うぜ」
「その話の中で、三人に変わった様子はなかったか?」
「そうだな。確か、隻腕の男が一人いたとか言ってたな」
「隻腕!?」
ダンが言葉を言い終える前に師匠は机をひっくり返すような勢いでたちあがった。その表情はありえないくらいに固まっていた。
「あの三人で男の戦えるやつといったら吹鳴しかいない。だが、あいつがそんな深手を負うほどの敵がどこにいる。あいつはあたし達と肩を並べるほどの強者だぞ!?」
「師匠。混乱しているところ悪いが、事情を説明してくれ」
「あ、ああ」
珍しく、というか、師匠のこんな動揺している姿は見たことはないが、取り敢えず座らせることにした。師匠も座ったことで少し落ち着いたらしく、ポツポツと話し始めた。
「吹鳴はあたし達と肩を並べるほどの剣豪だよ。あいつの得物は大太刀でも大剣でもない。二振りの刀。威力よりも速度を重視するやつでね、あいつの剣戟の速度についていけるやつはそうはいないんだよ。そんなあいつが片腕を失ったっていうんだ。一体何があったんだい」
「俺もあいつが片腕を失ったというところは正直半信半疑だ。相手が奴だとしても、あの速度についていけるはずはない」
吹鳴はそんなに強いのか。師匠達がそこまで言うほどなんだ。物凄い剣豪なんだろう。だが、そんな剣豪がそうそう簡単に片腕を失うか?奴というのが誰だかわからないが、その奴でさえ吹鳴には対抗できないってことだろう。
「あたしもそこが頭痛のタネなんだよ」
師匠すらも悩ませるタネとは一体なんなんだろうな。




