第六話 仲間
「コウさん」
「ああ、さっきの男だな」
弘次郎は、自分に向けられた怒号を物ともせず、エールを飲む。ルリィもはじめは気にしていたが、弘次郎の返答を聞いてから、意識の端に追いやっている。
「いねぇのか!へんなもんをかぶって、きものみてぇなものを来てるやつは!」
「「………………」」
男の怒号に、二階の冒険者の視線が、俺に集まる。が、すぐに視線を外す。その目には、明らかな恐れが浮かんでいた。
男は、一階を見回し、弘次郎がいないことを確認すると、二階へ続く階段に近づく。
「お待ちください。貴方はまだ下級。二階へは上がることは出来ません」
男を止めようとする受付嬢を意図的に無視し、階段へ足をかける。
「なるほど」
ジョッキを口に持っていった状態で、二階の冒険者達を観察する。冒険者達は全員、武器の柄にてをかけている。
「誇り、ってやつか」
命をかけて高みへ上り詰めた誇り。その誇りを今、高々下級の冒険者が穢そうとしている。登ることを赦されるぬ低ランクの冒険者が。二階の冒険者達は、それが許せないのだろう。
俺にもある。五十年も刀握って戦場に出てりゃ、そりゃあ誇りの一つや二つあるさ。それを土足で荒らそうとしてるんだもんな。憤るのも無理はねぇか。
「忠告する。それ以上踏み込むな。お前如き低ランクの冒険者が踏み入れていい場所じゃない」
隣のテーブルに座り、同じようにエールを飲んでいた冒険者が威圧的な声を発する。視線を向けると、まだ子供と言っていい銀髪の冒険者が座っていた。
「天災級、ね。見かけによらねぇな」
「ははっ。判別不可能の化け物に言われたくないね」
ポツリとつぶやいた言葉が聞こえたらしく、ジョッキを置いた少年が、屈託のない笑みを浮かべる。
「比嘉沙汰 弘次郎だ。お前も十分化け物だろうが」
「はははっ。僕はエルカル。エルカル・デ・フロウル。ま、確かにね」
少年と言われる年齢でも、かなり信用されてるみたいだな。ここの冒険者達から一目置かれてんのが分かる。
「なにくっちゃべってんだよ!このバルブ様をシカトしてんじゃねえぞ!誰が低ランクだ!俺はここの誰よりも強いんだよ!」
バルブと言った男が、二階へ上がり、空いているテーブルをバンッと叩く。
((馬鹿だこいつ))
弘次郎とエルカルの心の声が一致した。ギルド内が一気に殺気立つ。が、バルブはどうやら頭に血が上って、ことの重大さがわかっていないようだった。
「バルブと言ったか。二階には、国災級から上がることが出来るらしいじゃねえか」
「それがどうした」
「んじゃぁ、それはどういうことだ?」
弘次郎は、ジョッキを置き、男が叩いたテーブルを指差す。
「もしお前が国災級ならば、なんでそのテーブルは何もなってねえんだ?ここにいる奴らは、それだけでこのギルドは潰れてるぜ?それなのに、ギルドが潰れるどころか、そのテーブルに傷一つついてねぇじゃねえか。お前は脅すつもりで叩いたんだろうが、実際は、自分で自分の弱さを証明しちまったな」
「ぶっ……あはははは!違いねえ!」
「よく言った判別不可能の化物!俺はお前のこと好きだぜ!ぎゃははは!」
「ははははっ、確かにね!」
「くはははは!よく言った!」
「ふふふふっ、そうね、こいつバカだわ!」
「ガハハハハハ!最高だ!」
あれだけ殺気立っていたギルドが、笑いに包まれる。誇りを穢されて殺気立ってた冒険者たちは、これでチャラにできたのかねぇ。
「て、てめぇ!」
顔を赤くしたバルブは、槌を俺に向かって振り上げた。
おいおい、こいつばかだろ。ギルドで暴れりゃぁどうなるか、俺が知ってるんだからこいつが知らねぇわけがねえ。それが二階なら尚更、な。
俺が大太刀の柄に手を出した瞬間、エルカルが動いた。
「コウジロウには、誇りを守ってもらった。だから、それに報いなきゃいけない。お前如き冒険者に、コウジロウが傷つくとは思ってないけど、コウジロウに牙を向ける奴は、僕らが始末する」
「ぐぼっ」
エルカルは、自分の身の丈以上の戦鎚を振り抜き、バルブの横腹に叩き込む。バルブは、吹き飛ぶことも、血を吐くこともせずに燃えて消えた。
「魔法か?」
「うん、この戦鎚には、焔魔法が付加してあって、叩きつけた物を燃やし尽くすんだ」
「焔?火や炎とは違うのか?」
「火や炎は、相手にダメージを与える物で、こんな風に燃やし尽くしたりしないんだ。でも、焔魔法は、火や炎とは違って、燃やし尽くすためだけに存在する魔法なんだよ。まあ、魔法としては欠陥品かな。燃やし尽くしたら、剥ぎ取りが出来ないからね」
なるほど、そりゃ欠陥品だな。が、こんな奴には効果的だ。
黒い灰になったバルブを見る。灰からは、まだ煙が出ていた。戦鎚に視線を向けると、長い鉄の柄に、紅色のでかい鎚頭が構えていた。
「誇りを守ったことについて報いるっつーのはいいが、俺に牙を向ける奴を始末するのは、やり過ぎじゃねえか?」
「ふふっ、コウジロウ。君は本当に謙虚だね。コウジロウは対したことじゃないと思ってるんだろうけど、僕達にとって、それだけしても足りたいことをしてもらったんだよ。君だって」
エルカルは口角をあげ、俺の大太刀を指差す。
「その誇りを守ってくれた人には、僕達と同じことをするんじゃない?」
そう言った。俺は、エルカルと同じように口角をあげると、吹き抜けの、木の柵の前に立ち、高らかと叫んだ。
「このギルドの冒険者たちよ!ここは俺が支払う!存分に飲んで存分に騒げ!」
「「「「オオーーーー!!」」」
一階の冒険者も二階の冒険者も、ジョッキを高らかと掲げた。
夜はまだ、長い。




