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隻眼隻腕の剣士  作者: 柊 紗那
第六章 過去編
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第五十七話 楓の気持ちその二

カチャカチャと、昼食では箸とお碗が当たる音だけが響いていた。なんなんだ、この異様な沈黙は。師匠はむすっとしてるし、楓はこっちをチラチラ見ながら顔を赤くしてるし、これはあれか?俺が原因か?

食べる手を止め、二人を交互に見る。すると、バンッと箸をテーブルに叩きつけるようにして置いた師匠が沈黙を破った。


「楓」


「は、はい」


「自分の気持ちは言葉にしなきゃ伝わらないよ。昼食から抜け出してもいいから、伝えておいで」


諭すように優しくそう言った師匠の言葉に、楓は俯いて何かを考え始める。伝える?誰に何をだ?

困惑する俺を差し置いて楓は立ち上がり、こっちを向いた。


「兄さん」


「なんだ?」


「少し、ついてきてくれませんか?」


俯いた楓の表情は影で隠されてわからない。だが、なにか大事な話があるのだろう。それに、ここで断ったら男が廃る。


「いいぞ」


「ありがとうございます」


楓の後ろを一定の距離を保って歩く。居間を抜け出し、楓は中庭の縁側に座った。楓の隣りに俺も静かに腰掛ける。

しばらく沈黙が流れ、その沈黙を打ち破るようにして楓が語り始めた。


「私には、お父さんとお母さんがいました。子供は私一人で裕福とは言えませんでしたが、とても幸せでした。そんなある日、野盗に両親が殺されました。小さく幼かった私には目もくれませんでした。その日から、私は孤児となりました。食べ物をゴミだめからあさり、食いつなぐ日々。辛く悲しい日々でしたが、おばちゃんが食べ物をくれたりしてくれたお陰で、痩せはしませんでした。そんな日々が続く中、私は母さんに拾われました。燃えるような赤い髪を持つ母さんに。はじめは怖かったですが、優しく抱かれると、なぜだか暖かな気持ちになって意識を失ってしまいました」


両親を失ったという部分は能面のような表情で語る楓だったが、師匠の部分は苦笑しながら語っていた。


「目が覚めた時は、天井がある和室でした。ここはどこだと困惑しているうちに、良い匂いが漂ってきました。丁度お腹が空いていたので、その匂いを辿ると、母さんがいました。母さんはついて来いとだけいい、歩き始めました。慌ててついて行くと、鍋から具をよそう兄さんがいました。はじめは怖かったですが、微笑みながら話しかけられるうちにだんだんと慣れて行きました」


あの頃の自分を思い出しているのだろう。楓は少し遠い目をしながら語る。


「兄さんは母さんから剣を学び始めました。学び始めた理由はわかりませんが、剣を一生懸命振るう姿はとてもかっこいいものでした。料理も出来て掃除も出来て、剣も振るえる。兄さんはなんでもできる人だと、私達とは違うんだと思っていました。ですが、それは違いました。兄さんだって悩み、苦しみ、悲しむ、そんな普通の人間だってわかったんです。そこからです。私が兄さんに惹かれ始めたのは」


顔を赤くさせ、こちらに顔を向ける。師匠が言っていたのはこういうことだったのか。俺は楓のことを妹として見ていたが、楓は俺のことを一人の男として、見ていたのか。


「兄さん。私は、兄さんのことが好きです。好きで好きでたまりません。兄さんは、私のこと、どう思っていますか?」


言って、いいのか?多分本心を言ったら楓を傷つけることになる。それでも、傷つけてでもいっていいのか?

いや、言わないと楓に失礼か。真剣に話をしてくれてるんだ。本心を言わないと楓に対する侮辱になるな。


「済まないが、楓の気持ちには答えられない。俺は、楓のことを妹として見ている」


楓が落ち込むことを予想して、それでも言った言葉だったが、予想していた楓とは違った反応をした。


「はい。そう言うと思っていました。それでこそ兄さんです」


「いい、のか?」


「いいんです。わかっていましたから。兄さん、私は絶対兄さんのこと、振り向かせて見せますから」


楓はそう言うと、満面の笑みを浮かべた。










































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