第五十二話 夕食
「楽しそうだったじゃないか。馴染めたかい?」
夕食を作りに台所へ歩いていた時、縁側へ腰掛けた師匠にそう話し掛けられた。
「聞いていたのか?」
「まあね。あんたはえらく達観してるから、同い年の楓とうまく馴染めるか心配だったんだよ」
少し大袈裟な振りで心配だったと師匠は自分の両肩を両手で抱く。それを見て俺は苦笑した。
「大袈裟過ぎないか?それよりも、俺はそんなに浮世離れしているつもりは無いんだが」
「してるさ。私が知っている子供よりもずっとね」
遠い目をしながら師匠はそう俺に返答した。なにかあったのか、昔に。
「そういや、師匠は魚と肉どっちがいいんだ?」
「今日の夕食かい?そうだねぇ。魚だね」
「魚か。ちょうどいい鮮魚も手に入ったし、手っ取り早く刺身にするか。それじゃ師匠、また夕食で」
「あいよ!」
夕食の献立を頭の中でピースのように組み立てながら師匠に礼をする。師匠はそれに手を上げて返した。
「「「いただきます」」」
時間は進み夕食刻。
テーブルの上にはお造りが三つ豪華に並んでいた。楓は刺身というものを今までかつて食べたことがなく、若干目が潤んでいる。
食事の挨拶を済ませた俺達は、勢いよく刺身にがっついた。
「これはなんだい?」
白色をした魚の身を箸で摘まみながらそう問いかけてくる。口の中の刺身と米を飲み込んでから口を開いた。
「鯉だ」
「「………………」」
師匠はともかく、情報に疎い楓でも鯉が高級魚だとは知っていたようで、箸から刺身を滑らせながら沈黙した。
「高級魚じゃないか!私だって滅多にお目にかかれないのに、どうやって手にいれたんだい!?」
「どうやってって、たまたま通りかかった釣り人のおっちゃんが三匹釣れたから持っていけって渡されたんだが」
「ほへぇ〜」
あまりの釣り人の良い人さに、楓は間抜けな声をあげた。
「なんでも師匠にはお世話になっているからこれはそのお詫びだって渡された」
「あんの馬鹿ども」
おまけとばかりに俺が補足をすると、師匠は片手で頭を抱えて呻きを上げた。
「理由を聞いたら食べるのがもったいなくなくなってきた。さ!食べるよ!」
師匠のその一言で俺達は再び鯉に手をつけ始める。
今日の夕食は驚愕に彩られていた。




