第五十一話 楓
差し込む柔らかな夕陽を浴び、眩しくて眼を薄く開ける。
「あっ、起きましたか?」
眼を開けると、視界には師匠が拾って来た少女の顔が…………って、いやまて近過ぎないか?
「なに、やってるんだ?」
「膝枕、ですよ。兄さん」
兄さん?兄さんって俺のことか?
「聞きたいことが二つある。兄さんって誰のことだ?なぜ膝枕なんてしてるんだ?」
矢継ぎ早に繰り出す質問に、少女は笑って口を開いた。
「兄さんは、私の兄さん。つまりは弘次郎さんのことです。私より早く母さんに拾われたから、兄さん」
母さんってのは恐らく師匠のことだよな。なるほど、それで兄さんか。
「膝枕をしているのは、一度やって見たかったからです」
やって見たかったから、ねぇ。まあそう思うことはあるだろうし否定はしないが、相手を選んだ方がいいと思うぜ。
「なら、もういいな」
少女の膝から体を起こすが、肩に手を置かれて元の位置に戻される。
「まあまあ、もう少し話をしましょうよ」
そう言って天真爛漫に笑う姿は少女のようだ。まあ、少女なんだろうけども。
「話ね。俺と話をしてもなにも楽しくないと思うが」
「いいんです。楽しいんですから」
ずっと、一人だったからと小さく動いた口を俺は見逃さなかった。
「そうかい。そういや、お前の名前を聞いたことがないな。なんていうんだ?」
「楓。渚楓といいます」
「いい名前だな」
「はいっ」
俺がそういうと、楓は花が咲いたような笑みを浮かべた。
そして、俺は夕飯時まで楓と会話に花を咲かせていたのだった。




