第五十話 鍛錬その四
「く、はぁ」
あれから三時間の間ずっと刀を振っていたが、十五どころか一本の案山子の首すら落とせていなかった。既に体力が限界を迎え、俺は地面に大の字に寝っ転がっていた。
「弘次郎、隆元流は相手を殺す為だけの技。それ以上でも、それ以下でもないよ。相手を殺す為には、相手に明確な殺意を抱く必要がある。弘次郎、あんたには殺意が足りない」
「殺意、か」
確かに、俺は案山子に殺意を抱いてはいなかった。それが原因か。
立ち上がり背中についた土を落とすと、もう一度大太刀を構える。
殺意、殺意、殺意、殺意、殺意、殺意、殺意。
「お前さんをーーーー殺すッ」
胸の内に湧き上がってきた殺意を大太刀の刃に乗せ、案山子に向かって振り払う。大太刀を振り抜いた直後、五本の案山子の首が落ちる。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。やった……か」
断面が少しギザギザしているが、なんとか首を落とすことが出来た。出来たことに安堵し、そのまま俺は気を失い地面に倒れ伏した。
「どうだい?弘次郎は」
火菜野は気を失った弘次郎の頭を膝に乗せ、縁側へ座る少女の隣に腰掛ける。少女はボロボロになり、安らかな寝息を立てる弘次郎を見つめ、笑みを浮かべた。
「かっこいいと、素直に思います。人を殺す為であろうと、何かを守る為であろうと、こうして死ぬ気で力を身につけようとする姿は、私にとって眩しいです」
「そうかい、楓にはそう思えるんだね」
火菜野が拾った少女は、楓と名付けられた。楓の言葉に、火菜野は真剣な表情で口を開く。
「そうさね、ここまで一本筋が通ってるのも今時珍しいものだよ。決して挫けず、決して折れず曲がらず、ただ一筋に。そんな信念を持つ弘次郎は、いつかあたしを超える剣士になる。そう信じてるよ」
「いつか、ですか」
「あたしが死んだ時か、あたしから弘次郎が離れた時か、そのどちらか。まあ、どちらにしてもまだまだずっと先の話さ」
青く澄み渡る空を見つめ、火菜野は寂しそうな表情を浮かべる。
「さぁてと、辛気臭い話はこれでお終いだよ。ほら、いつまでも寝てるんじゃない。弘次郎、起きるんだ」
まるでさっきの表情を隠すかのように笑い、弘次郎を揺すり起こす。そんな火菜野を、楓は心配そうに見つめていた。




