第四十九話 鍛錬その三
「これからあんたに教える技は、一朝一夕で身につけられるもんじゃないよ。数ヶ月はかかるし、文字通り血を流す鍛錬になる。既にあんたは剣士として十分通じる腕を持ってる。引き返すなら今だ」
次の日。
俺は新たな鍛錬のために中庭に立っていた。中庭の中央には五本の案山子が刺さっており、その前に師匠が大太刀を持って立っていた。俺としてはずいぶん早く起きたと思っていたが、どうやら師匠は俺よりも早く起きていたらしい。心の中で待たせたことを謝りながら、師匠の前へ立つ。
師匠は俺の姿を視界に収めると、凛とした声色でそう言った。
「例え血を流す鍛錬になろうが、俺は引き返すつもりは毛頭ない。ここで引き返すなら、そもそも剣の道を歩んでねえ」
引き返すつもりはないと、間髪いれずに答えを返す。
「よく言ったね。弘次郎ならそう言うとわかってたよ」
俺の答えを聞いた師匠はそう言って後ろを向き、大太刀を持った手をぶらんと垂らした。構えであって構えじゃない。隆元流第二の構え、無形の構え。あらゆる攻撃に備え、いつでも反応できるように師匠が生み出した新たな構えだ。
「隆元流一ノ太刀 残響」
ポツリとつぶやき剣を高速で振ったかと思うと、次の瞬間には五本の案山子の首が落とされていた。
「………」
目の前の光景を見て、俺はなにもいうことができなかった。恐らく残響という技は、剣士して極限にいるものしか扱うことができない技だと理解出来たからだ。
五本の案山子を切るためには、どうしても大太刀の間合いに案山子を入れなければならず、師匠の立ち位置では大太刀の間合いに案山子は入らない。通常ならば大太刀の間合いに案山子を入れ、そこから五本の案山子を切るのだが、師匠は大太刀の間合い外にいる案山子の首を正確に切り落とした。これはどういうことかと言うと、この残響は間合い外にいる標的をいつでも切り倒せる、ということだ。
「この残響という技には、二つの利点がある。まず一つは、相手の間合いに入らずに攻撃出来、自分の間合い外に攻撃出来るというもの。二つ目は、相手に攻撃の挙動を知られずに、いわば不意打ちに近い状態で攻撃出来る。という二つの利点がね。そして、利点の他にも二つの欠点が存在する。それは、あまり範囲が広くないということ。そして、自分の正面にしてか繰り出せないということだよ。今の私じゃ良くて三十mってところ」
三十mか。大太刀の間合いがだいたい三メートルほど。その十倍の距離が範囲ってことということになる。それだけ範囲があれば大丈夫だろう。
「んじゃ早速やって見な」
んな無茶な、とは思うが、このくらいで音を上げるようだったらそもそもここまでやっていない。
「ふーっ」
大きく息を吐き、大太刀をぶらんと垂らした。




