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隻眼隻腕の剣士  作者: 柊 紗那
第六章 過去編
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第四十六話 鍛錬その一

体づくりを始めてから六ヶ月の月日が立った。あれだけ貧弱だった身体も適度に筋肉が付き、刀を振れるようになっていた。


「よく頑張ったね、弘次郎。ここまで耐えたのはあんたが初めてだよ」


話を聞くに、どうやら凪火菜野は頻繁に弟子をとっていたらしい。だが、刀を早く振りたい弟子達にとって、凪火菜野の基礎的な体づくりには耐えきれず、次々とやめて行ったらしい。なんて勝手な奴らだ、とは思うが、ここで俺が憤っても仕方が無い。まずは鍛錬に集中すべきだ。


「とはいっても、まだまだ身体は貧弱と言っていい。なんせ大太刀はまだ振れないからね。まあ、そのための筋肉は刀を振っている内につくだろうし、まずはこれを受け取りな」


そういって凪火菜野が差し出してきたのは、黒塗りの鞘に収められた一本の太刀だった。

早速太刀を受け取る。手にはずっしりとした重みが広がった。


「わかるかい?これが人を切る、人を殺す武器の重みだよ」


「人を殺す、武器の重み」


そう言われると少し恐ろしく感じるが、ここで立ち竦んでも仕方が無い。


「抜いてみな」


持ち手を持ち、黒塗りの鞘から刀身をゆっくりと抜く。刀身は鞘と同じく、吸い込まれそうな黒に包まれていた。


「それはあたしが若い頃に使っていた太刀なんだよ」


凪火菜野が、いや、師匠が使っていた太刀、か。そう考えると、さらに重くなるな。


「まあ取り敢えず、基本的な形からいこう」


そう言うと師匠はあらかじめ用意していた太刀を鞘から抜き、下段に構えた。


「これがあたしの流派、隆元流の基本的な構え方だよ。隆元流はいわば攻めの流派。決して守らず、我が身かえらず攻め続ける。それが隆元流。いいかい?人を殺すのにしのぐはあっても守りなんて必要ないんだよ。やるときは相手に情なんて抱かないでやりな。例えそれが仲間だったとしても、だ。じゃないと、足元を掬われるよ」


師匠は刀を構えたまますっと目を細め、俺を見据えてそう言った。その言葉には、悔やみきれない後悔と、決して砕けない覚悟が感じられた。


「わかった」


だから俺は詳しい追求をせずに、下段に構えた。追求しない俺をみて、師匠はクスリと笑う。俺は師匠の笑みに見惚れてしまった。


「どうしたんだい?一本打って置いで」


ポーッとする俺に師匠が声を掛ける。

っ!しっかりしないといけないな。一本打って来いって言われてるんだ。遠慮なくいかせてもらう。

身体を軽くひねり一歩踏み出す。そのまま足に力をためて、爆発させる!


「へぇ」


あの頃には考えられないほど凄まじい速度で師匠に接近する俺をみて、感嘆の声を上げる。このまま体を戻しながら太刀を薙ぎ払おうとした俺の背中を、何かが這い上がってきた。俺は嫌な何かを振り払うように踏ん張り、全力で後ろへ飛ぶ。

後ろへ飛んだ俺の首を太刀が撫で、首皮一枚切り裂いた。

後方へ着地した俺の首を、一筋の血が伝う。

危なかった。あのまま行ったら俺は死んでいた。


「速度、間合いを読む力、殺気を感じ取る臆病さ。全部ずば抜けてる。弘次郎、あんたはあたしを超える剣士になるよ」


思わずへたり込んだ俺を見て師匠は微笑み、そう言った。




















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