第四十四話 剣の道
夜中。夕飯を食べ終えた俺は布団についていた。ふと厠へ行きたくなり、縁側を歩いていたところ、風切り音が耳に響いた。
俺が歩いていた縁側は中庭に面しており、枯山水の景観を楽しむことができる。
「はっ!」
その上で、凪火菜野が二mほどもある大太刀を振っていた。上段からの振り下ろし。そして、刀を返して切り上げ。円をかきながら斜めに振り下ろす。凪火菜野が大太刀を振るたびに風が巻き起こる。熾烈に、強烈に、怒涛に、猛烈に、大胆に、豪快に、けれど繊細に大太刀を振り続ける。そんな凪火菜野の姿に、俺は見惚れていた。
「なんだい、いたのかい」
いつの間に演舞をやめたのだろうか。凪火菜野が刀を納刀し、俺に振り向いていた。
「ああ、厠へ行く途中だった」
「ってことは、見られていたのかい。恥ずかしいね」
そう言って、凪火菜野は顔を朱に染めて頬をかく。本当に、綺麗だよな。大太刀を振っていた時は近寄り難い怖さを感じたが、今は違う。
「それよりも、枯山水はいいのか?ボロボロになっているが」
縁側から枯山水へ降り立ち、凪火菜野へ近づく。今はこうして近づくことができる。
「いいんだよ。庭師がまた直してくれるからね」
あはははっと、ボロボロになった枯山水を見つめて笑う。思わず俺もボロボロになった枯山水を見つめ、苦い笑みを浮かべた。
「そんなことより、厠へ行かなくてもいいのかい?」
「あっ」
凪火菜野に言われて自分が厠へ行く途中だったことを思い出し、急いで厠へ向かう。厠へ帰ってきても凪火菜野の大太刀を振る姿が頭から離れることはなかった。
「火菜野、お願いがある」
「珍しいね。あんたからそう言うなんて」
「俺に剣を教えてくれ」
いつの間にか、俺はそんなことを言っていた。大太刀を振る凪火菜野の姿をみて、自分も強くなりたいと思った。そう思ったからこその行動だったが、凪火菜野は悲しそうに顔を歪めていた。
「いいのかい?人を切る、生き物を切る感触は忘れられないよ」
「ああ、もちろんだ」
「そう、かい」
目を閉じ、何度か深呼吸をする。そして、口を開いた。
「剣士を目指すことには何も言わない。だけどね、人の心を忘れちゃいけないよ。人の心を忘れた人間は、人の皮をかぶったナニかさ」
その言葉は幼いなりにも心に響いた。




