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隻眼隻腕の剣士  作者: 柊 紗那
第六章 過去編
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第四十三話 凪火菜野

後頭部がなんか柔らかいな。それに、なんか良い匂いだ。


「あっ、目覚めたんだね!?良かったよ、本当に」


目を開けると、俺の顔を女性が覗き込んでいた。俺は……確かこの女性の味噌汁を飲み干して……それで気絶したのか。普段残飯で鍛えられているはずの胃袋でも耐えられないなんてな。味噌汁恐るべし、だ。それにしても、顔が近いな。そうか、膝枕をされているのか。


「あっと、まだ体を起こしちゃいけないよ」


体を起こそうとした俺の額を女性はそう言って抑え、上げて居た頭を自身の膝に乗せる。


「そういえば、お前さんの名前を聞いてないな」


「あたしかい?あたしは凪火菜野。放浪の剣士さ。あんたは?」


俺、か。


「俺には名前なんてない。あんたとでも呼んでくれ」


物心つく前に捨てられたからな。名前なんてものは存在しないし、もしあったとしても忘れてる。


「そう、か」


俺の言葉に火菜野は悲しそうな顔をするが、直ぐに元の表情に戻った。

そして、なにか考え込むように天井を見上げる。


「比嘉沙汰 弘次郎ってのはどうだい?比嘉沙汰が姓で、弘次郎が名前だ」


「比嘉沙汰 弘次郎、か」


響きもいいし、良い名前だ。


「ありがとう、名前をくれて」


「いや、いいさ」


礼を言うと火菜野は赤く頬を染め、嬉しそうにはにかんだ。綺麗、だな。と言うか、よく見ると美しい顔をしている。この顔で剣士か。世の中わからないものだ。


「ん?あたしの顔になにかついてるかい?」


「いや、なんでもない」


ばっと顔をそらし、勢いよく起き上がる。火菜野は驚いたように「わっ」と声を漏らした。


「急に起き上がるんじゃないって」


「ああ」


火菜野は膝をポンポンと叩き、足を崩す。その様子がなんとも扇情的で、俺は視線をそらした。


「うっ」


視線をそらした瞬間眩暈がおこり、体が傾く。やばい、体が動か、な……。


「おっと」


倒れる間際、俺は火菜野に抱き留められた。

やっぱり、火菜野は良い匂いがするな。


「大丈夫かい?」


「頭が、クラクラする。まだダメみたいだ」


長い孤児生活のせいなのか、味噌汁のせいなのかわからないが。それよりも、俺の体、臭わないな。はじめは垢だらけだったはずなんだけど。


「それかい?それならあたしが隅から隅まで綺麗に洗ったよ」


「隅から、隅まで?」


言葉の意味を理解した瞬間、顔が赤く染まった。そんな俺を見て、火菜野はクスリと笑う。


「なんだい、可愛いところもあるじゃないか」


火菜野はくしゃっと俺を抱き留めたまま頭を撫でる。俺は恥ずかしさに悶え、されるがままになるしかなかった。























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