第四十二話 出会い、そして味噌汁の脅威
差し込める光に目を開ける。
ここは、どこだ?確か、赤髪の女性に抱かれて、そのまま気を失って、気がついたらここに。
「気がついたんだね?」
「っ!?」
朦朧とする意識の中、心地良い声が耳に響く。いつの間にかかかっていた布団を蹴り飛ばし、そばから聞こえて来た声から逃げるように飛んだ。
「あはは、そんなに警戒しなくてもいいんじゃないかい?」
「いきなり声をかけられたんだ。警戒くらいはするだろ」
問われた問いに素っ気なく返し、燃えるような赤い髪と瞳を持つ女性を注意深く見つめる。なんで俺をこんなところに連れて来た?自分で言うのもなんだが、孤児なんてきたならしいもの連れて来ても誰のためにもならない。それなのに、なぜ。
「なんでって顔だ。特に理由はないよ。ただ、底辺まで落ちながら生きる気力を失わないあんたに、惹かれたってところだね」
「……底辺まで落ちた、か。親に捨てられてからは、それはもう地獄だったよ」
捨てられた俺に振るわれる暴力の嵐。
振るわれるのは暴力だけじゃない。言葉の暴力や蔑み忌む視線に晒され続けた。どんなにこの世界を呪ったことか。助けてくれない周りの大人達をどんなに憎んだことか。そして、こんな境遇にいる自分なんて死んでしまえとどんなに祈ったことか。
拳を握り締める俺を女性は感情を含まない目で見つめていた。
「そういえばあんた、子供なのにずいぶん達観した喋り方をするもんだね」
「それはそうさ。あれだけのことがあったんだ。ひねくれはする」
「それもそうか」
それだけいうと、女性は俺から目を離す。
「それはそうと、さっきからかき混ぜているそれはなんだ?」
囲炉裏には鉄鍋がおいてあり、女性はその近くに座って鉄鍋をかき混ぜていた。
「なにって、見ればわかるだろ?」
そう言われ、鉄鍋を覗き込む。中身は匂いと見た目からして味噌汁、か。美味しそうだ。
そう思った瞬間、くきゅ〜と、俺の腹がなった。
「あははははっ!待ってな。今盛ってやるから」
そばに置いてある器を取ると鉄鍋から味噌汁をよそおい、俺に箸と一緒に差し出した。ゴクリと唾を飲み込み、器と箸を受け取る。
「い、いただきます」
一言いって女性の返事を待たずに味噌汁を口の中にかきこむ。
「っ?!!?」
その瞬間、電流が体を駆け巡った。ま、まずい!?もちっとしたものにねちょっとしたものがからんで舌にくっ付いて、口の中に酸っぱいものと苦いものが広がって、こ、これはひどい。なぜあれだけ良い匂いがして見た目が良いのにまずいんだ!?
「どうだい?味は」
「た、食べて見れば良い」
こみ上げてくる吐き気を堪えながら返事を返す。女性は上機嫌で味噌汁を一口口に運んだ。
「っ!??!」
びくんと体を跳ねさせた女性を見ると、同じような感想を抱いたようだ。
確かにまずい。ゴミだめからとった残飯よりまずい。だが、久しぶりの手料理。残すわけにはいかない。
腹を括るか。
「あんた、これ残していいよ。作ったあたしでも食べれなーーーーってちょっとちょっとちょっとちょっと!?」
青い顔で味噌汁をかきこむ俺を見て女性は慌てる。作ってもらったものを残すなら、死んだ方がマシだ!!
「ごちそう、さま、でした」
器の中の味噌汁を食べ終えると、ゆっくりと意識が遠のいて行く。そして、再び昏倒した。
「だ、大丈夫かい!?」
気を失う最中の俺の耳に、女性の慌てる声が響いた。




